第2話 上洛

 一九九十年の三月の末、洪作は地元の東京から京都に旅立った。

 一年間の浪人生活を経て、京都市内にあるQ大学の法学部に合格したのである。

 幼いころに父親に先立たれ、母の手一つで育てられた洪作の家庭は決して裕福ではなく、というより生活費を極力切りつめた生活をしているので、奨学金制度を利用しての入学であった。

 洪作は小学生のころから推理小説が大好きで、小学校の卒業文集に将来の夢を「推理小説家」と書いたほどである。

 どうしてもその夢を捨てがたく、名門のサークルの多い京都の大学でいわば修行を積みたかったのだ。

 自分の学力に見合った受験先としてQ大学に狙いを定め、家計の事情から予備校には通えなかったが、洪作の熱烈な想いを知っていた母親の応援を得て、地道に勉強に励んだ。

 その甲斐あって十九の春に吉報が訪れ、まさしく期待に胸を躍らせながら、京都に意気揚々と乗り込んできた洪作であった。

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