宇宙帝国の貴族が楽だとお思いで?

@rakuraru

日常

「この使えないゴミがッ! このッ! このッ!」


俺達の目の前では俺の主人様ってやつが使用人を殴っている。


あれ、絶対やりすぎだろとか思いながらも男は相変わらず殴る手を止めない止めない。


絶対あと10発くらい殴ったら死ぬって。


だってほら、もうそいつ殴られてもうめき声すら出さなくなってきてんじゃん。


だがこの場にいる人間は誰もその行為を止めようとしない。


皆一様に黙ってその光景を眺めている。


唯一の相違点があるとすればある者は主人様を憎むような目で見ていたり、ある者は恍惚な目で見ていたり、ある者は死んだような目で見ていたり、ある者は無関心を貫き通していたり、ある者は蔑むような目で見ていたりと人によってさまざまである。


ではなぜ誰も動こうとしないのか。


それは相手がこの空間の中で一番の権力を持っているからである。


帝国は完全な身分制度である。


軍人であり騎士爵を受勲した俺でも主人様には逆らうことができない。


それに俺、と言うよりこの部屋にいる人間は皆この主人様の直属の部下である。


部下が上司の命令に逆らって良いはずがない。


と自分に言い訳をしていたらついに使用人は死んだ。


だが主人様は殴る手を止めず使用人の体はクチャグチャと音を立て始める。


ガチでエグいって。


え、なんでグチャグチャ音が出るまで殴ってるん?


加虐趣味拗らせすぎじゃね?


ただの老害ジジイじゃねぇかよ。


ただそんなことは口が裂けても言えない。


そんなことを言えば、次に殴られるお肉になるのが俺になるだけだ。


その時この空間で主人様の次に権力を持っている人間である筆頭騎士が主人様に声をかける。


「伯爵様。その者の親族の処遇はいかがいたしましょうか」


「はぁ‥‥はぁ‥‥。親族? ‥‥いや親族はいいだろう。別にこいつは反逆したわけでもないしな。それと予定通り例の男爵家と戦争をする。お前らは軍を整えておけ」


「かしこまりました」


「「「は!」」」


いや、筆頭騎士、あんたマジですげぇわ。


俺だったらあんなのに話しかけるだなんて無理だわ。


っとこの空間から出て戦争の準備をしなければ。


はぁ。また戦争かよ。


ここ辺境伯領はただでさえ隣国との戦争を度々起こしているって言うのにさらには味方にまでその牙を向けるのかよ。


まぁ今回の戦争は帝国側も傍観するつもりらしいし帝国の反逆者として処罰されることはないらしいけどよ。


「ラグノス少佐」


はぁ、さっさと軍の用意をしたいって言うのになんだよ。


って伯爵軍の総指揮官であり筆頭騎士様じゃねぇですか。


「は。なんでございましょうかカリナ閣下」


「あぁ特に大したようではないのだけどね」


なら呼び止めるんじゃねぇよこのアマが!


こちとら軍の用意で忙しいんじゃぼけ!


まぁそんなこと言ったら主人様もといクソ野郎に言いつけられて俺の首が飛ぶんだけどな!


「あぁ。貴君の配置をこの場所に変更しておいてくれ」


どうやら陣形のお話だったらしい。


ふん。その場所か。悪くはないがなぜよりにもよってこの直前なんだ?


まぁ上司の命令だししかもこの女、筆頭騎士なんだよなぁ。


騎士である俺の上司なんだよなぁ。


断れねぁじゃねぇか!


まぁ別に断る内容もないんだけどよ。


「分かりました。変更しておきます」


「あぁ。頼んだぞ。」


あの女お堅いんだがどうにも主人様の狂信者なんだよなぁ‥‥。


本当になんであんあクズに啓蒙しているのやら俺にはさっぱりだぜ。


はぁ。とりあえず軍を動かす用意をしなきゃだな。






俺はラグノス少佐。


子爵家の四男として生まれた後まぁ軍学校に入学。


その後色々あって独立。


今では少佐という軍の身分と男爵という爵位と子爵騎士という騎士爵までもらっている。


なんか肩書きがすごいことになっているんだよなぁ。


んでなんやかんやあってハンブルク辺境伯ってやつのとこで軍の仕事をする流れとなって今に至るというわけである。


「ラグノス少佐、入られます! 総員敬礼!」


俺の搭乗艦である戦艦のブリッジの扉を開けるとサンな声と共にブリッジにいる者達が作業を中断し俺に敬礼をしてくる。


うん。元日本人からするとスンゲェやり辛れぇわ。


そう、俺は元日本人である。


まぁいわゆる転生ってやつだ。


正直知識無双とか出来ねぇしほんとこの世界の技術力には驚かされてばっかだよ。


そのくせ封建制度が残ってたりとそのチグハグさがまさに異世界って感じだ。


「あぁ、仕事に戻ってよし。それとシェルナー中尉」


「は!」


「熱いコーヒーでも淹れてきてくれ」


「分かりました」


彼女はシェルナー中尉。俺の副官だ。


そこそこ有能なので重宝している。


家柄は確かどっかの子爵家の三女だったっけか?


まぁ俺と似たような境遇のやつだ。


「少佐、コーヒー淹れてきましたよ」


「お、ご苦労」


さすがシェルナー中尉。


彼女は仕事が早くてこちらとしても助かる。


「それと少佐、全部隊出撃準びが整いました」


「おう。それじゃ艦隊司令部に報告しておけ」


「は!」


いやー本当にシェルナー中尉優秀だわ。


俺もう何もしなくてもいいもんね。


これが将校の特権だよな。


さて、中尉が司令部と通信している間に俺は騒がしいブリッジでも眺めるとするか。


彼らは三等国民である。


三等国民は本当に暮らしがヤバイらしい。


それに人権もないらしい。


一等国民が三等国民を殺しても何も問題はないというなかなかの人権のなさっぷり。


さすがの非暴力不服従を唱えたガン○ーも開いた口が塞がらないだろうな。


彼ら三等国民は働く場所のほとんどが過酷な場所である。


なので衣食住が最低限揃っている軍隊に、皆こぞって入隊する。


このおかげで帝国は人件費をなるべく低コストでも軍を維持できているのである。


それに彼らはその過酷な環境ゆえか精神力もそこそこであり、しかも戦意も高い。


洗脳教育によって自己犠牲の精神? だっけか? それがかなりあるらしい。


まぁ、なんか可哀想な人間達が三等国民ってやつだ。


「少佐、司令部からの指示です。発進しろと」


「おう。ご苦労だったな。よし回線を全艦に繋げろ」


俺はブリッジの通信兵に俺の指揮する100隻の軍艦に通信を繋げるように指示を出す。


「通信、繋がりました!」


「テメェら、今日は中々最高な戦日和だ! 功を競い合え! 敵を殺せ! いいな? それと喜べ! 俺たちは先遣隊だ! 真っ先に敵と撃ち合えるぞ! よし。エンジンをフルに回転させろ!」


それだけ言い放ち俺は回線を切断する。


「相変わらず適当ですね。それと先遣隊ってまじですか?」


「あ? 本当だよ。さっき変更があった。それに俺にそんな戦意をあげる芸とか出来ねぇよ。てかお前がやるか?」


「ご冗談を」


それだけ言いシェルナー中尉は黙る。


え、お前なんなん?


優秀じゃなかったら数発殴ってたよ?


その後ラグノス少佐が率いる100隻の艦隊は伯爵軍の本隊に合流する。


その数およそ5000隻。


さすが辺境伯である。


辺境伯は常に他国と接しているため軍隊は中央の貴族の艦隊より精強で規模も大きい。


まぁ相手も辺境に領地を構える男爵なんだけどな。


けどそれでもこっちの方が数が多いからまぁ勝てるだろう。


「だがそもそもこんなに戦力差が歴然のはずなのに男爵家が無策に戦いを挑むか?」


「少佐は何かあると思っているんですか?」


「まぁな。相手も辺境を預かってんだ。この戦力差は分かっているはずだ」


うん。なんかいやーな予感がするんだよなぁ。


いや本当に。まじで。


「今ここはどの辺だ?」


「は。男爵領から5000万キロほどです。」


5000万キロメートル。


隣の領土だから星系間次元通路は使用できない。


なのでノロノロと自力で移動しなくてはならない。あと20日ほどかかる見込みである。


うん。だけどなんかそろそろ敵が仕掛けてきそうなんだよなぁ。


いや完全に俺の勘なんだけどよ。


「おい。なんかこの周辺に何か発信しているものねぇか?どんな弱小のもんでも構わねぇ。探せ」


「は。‥‥いえ、特にはありま‥‥いえ少しの電磁波を発しているものならばありますが本当に少量ですよ?」


「俺の艦隊に所属する艦全てに伝達しろ。戦闘配置につけ、と」


「分かりました!」


「少佐?何か見つけたのですか?」


仕事に戻った通信兵と入れ替わりでシェルナー中尉が尋ねてくる。


「多分敵が仕掛けてくるぞ」


「しかし哨戒艦からの報告はありませんが?」


「‥‥まぁほぼほぼ俺の勘だけどな」


「またいつものなんとなくですか‥‥。まぁそれが外れることがあまりないのでなんとも否定し難いんですけどね」


俺の指示のもと周辺の艦はシールドを張り、警戒を強める。


「はぁ。ほんとなんでこんなしょーもないことで戦争始まったんだ?」


「少佐、それ聞かれてたらすぐ首飛びますよ?」


「いやだってなんか最近調子乗っているから潰すとか戦争理由として成り立つん?」


「‥‥私にはお答えしかねます。」


「あ、逃げた。まぁ良い。戦争理由がなんにせよ俺らは伯爵サマの命令を聞いて戦う。それはいつでもかわらねぇからな」


「少佐! 前方に空間エコーを探知! 長距離ワープしてくる艦船あり!」


「ほらな! 俺の予想通りだ!」


「まじですか」


「回線繋げろ! あ?もう繋がってる? なら言えよ! まぁ良い。ヨォテメェら。俺の予想がまたしても当たったぞ? これで掛け金はまた跳ね上がることだろうな! 冗談はこのくらいにしておいて今回の敵は数は少ないが同じ辺境軍だ。油断していると足元を掬われるぞ! ヘマするんじゃねぇぞ! んじゃ始めろ!」


画面越しで各艦艇の艦長どもが敬礼したところで回線を切る。


と横では三等国民の兵士に何かを尋ねているシェルナー中尉が。


「おい、敵味方識別信号の結果は?」


シェルナー中尉、あんた俺以外だと口悪いな。


「識別信号! 敵です!」


「数は?」


「不明! しかしすでに500を突破しています!」


もうこっちの5倍超えてんじゃん。


今俺は本隊よりも少し先行して進んでいる所謂先遣隊ってやつなんだけどよ。なんで100隻に先遣隊やらせるんだ?


普通こういうのって5隻程度が定番だろうがよ。


「航空機の発艦は取りやめて航空母艦は下がらせろ。他の艦は機関全速だ!」


「機関全速了解!」


「えぇ‥‥突撃するんですか。」


「敵が射程に入りました!」


「撃て!」


ラグノスの号令の元、100隻の船が各々の兵装で攻撃を開始する。


敵は未だワープ中の艦艇も多くあり陣形が整っていない。


通常であればこちらも陣形が整っていないのでお互い睨み合いが続くのだがラグノスは敵が来る前に陣形を整えていたため敵は混乱状態に陥っていた。


「火力が高い船は中央に攻撃を集中させろ!突破口を作れ!」


敵はまだ陣形を作ることにこだわっているらしく艦を横に向けている艦艇も多く見受けられる。


そんな鑑定を沈めつつ中央に火力を集中させる。


「ミサイル全弾着弾! 中央部に突破口を形成!」


「第二、第五部隊を鞭として叩き込め! 他の艦は援護射撃!」


ラグノスの率いる100隻の艦艇は10隻の部隊で別れている。


中央部の突破口に侵入した20隻の艦艇は内部へと深く浸透していく。


敵陣の内部へと入ったのでその数はすでに12隻になっているがそのおかげで敵のこちらに対する攻撃は少し弱まった。


「よし、全艦に通達。突撃しろ! それと後方に待機している航空母艦に伝達! お前らもそろそろ参加しろ!」


「は!」


「機関出力いっぱい!」


「突撃体勢!」


内部に侵入した艦艇に注意を向けていた敵はこの突撃に満足に対処できず前衛艦が文字通り消滅。


中央列にいた艦艇はどちらに対処すれば良いのか分からず陣形が崩れ始める。


右に方向を変えている船もあれば左に変えている船もある。


「ふははは! 敵は混乱状態だな! いいぞ良いぞ! 右側を重点的に突き崩していけ!」


「ラグノス様! 敵の総数が1000を突破! まだまだ増えます!」


「そうか! ならそれを司令部に報告しろ!」


「は!」


「少佐、艦隊損耗率25%を超えました」


「あ? 別に構わん。敵陣に浸透をしろ! 航空機は合間を縫って攻撃! 敵に陣形を整える暇を与えるな!」


とは言ったもののそろそろキツくなってきたな。


そもそも100対1000って構造自体おかしくねぇか?


今はまだ戦えているが少しずつ敵が落ち着きを取り戻しているのがわかる。


このままじゃぁ包囲されてお陀仏だ。


そろそろ別の要因が欲しいな。


「新たに命令を下す。第一部隊は俺に続け」


「次はどこいくんですか?もうなんなら地獄までついていきますよ」


「それは嬉しくない相談だ。というより狙いは分かり切っているだろう?戦場で一番の手柄になる敵の旗艦を狙う」







時は少し遡る。


「男爵閣下。センサーに複数の艦艇を探知!」


「哨戒艦じゃないのか?」


「それが確定で100隻は超えているとの報告です」


「哨戒艦が100隻っていうのは考えづらいな」


「はい。つまり敵の本隊かと」


「よし。なら横っ腹をついてやる形で奇襲をするぞ! 全艦隊、長距離ワープ!」


「長距離ワープ!」


本当は100隻の哨戒艦であるのだが男爵側はそれに気が付かず本隊だと勘違いして攻撃を決断する。


これが一つ目の過ちである。


「ワープ完了! 敵の総数‥‥100隻⁈」


「何⁈」


「どういうことだ⁈」


「と、とにかく陣形を‥‥」


しかし陣形を整える前に敵の攻撃が開始される。


まだ陣形の組み替え途中であった男爵軍にはとても痛手であった。


「くそ! 急いで陣形を整えろ!」


「男爵様! 敵艦が侵入中! 数20!」


通常であれば笑い飛ばす程度の数であるが今の状態で突撃されるのは非常にまずい!


「止めろ! 今突っ込まれれば被害が広がるぞ!」


「だ、だめです! 迎撃しようにも敵の援護射撃が激しく、防衛線が突破されます!」


「敵艦侵入! 被害拡大中!」


「くそ! まず突っ込んできた敵を全力で叩け!」


「敵が攻勢に出ました! 前列の艦艇の32%が撃破されました!」


「早い。あまりにも行動が早すぎる! なぜこれほど練度が高い艦隊がこんなところに孤立しているんだ⁈」


おかしい。


まさかこの100隻が先遣隊?


男爵はようやく真実に辿り着くがそれはあり得ないと笑い飛ばす。


ではなぜ100隻もの艦艇がこんなところに?


まさか我々を誘き寄せるための囮⁈


我々が領地で籠城ではなく待ち伏せしていることに気が付かれた⁈


そんなバカな。


だとしたらこの100隻は我々をここになるべく長くとどまらせる餌⁈


まずい。それならば今すぐに撤退するべきだ。


しかしもしそれすらも敵に予測されているとするならば。


それならばここで戦う他ない。


くそ。この場合一体何が正解なんだ⁈


「男爵閣下!敵の一部がこちらに急接近中!」


「艦の種類は!」


「戦艦1!  重巡4!  軽巡5! 中央部に進出中!」


何? 他の艦艇は右側への攻撃を強めているのになぜお前らだけはこちらに接近してきているんだ?


「えぇい! 周囲の艦隊は何をしている! たかが10隻を止められんのか!」


「そ、それが敵の浸透速度が早過ぎず照準が従来の自動射撃では定まらないとのことで」


「なら手動でやれ!」


「は、は!」


モニターを見ると確かに早い。


普通敵陣に侵入したら衝突を避けたり友軍との連携を測るため速度を落とすのがセオリーなのだがあの狂った艦隊は全速力で陣地内を荒らしている。


なんだ! なんなんだあの艦隊は!


「きゅ、急報!」


「なんだ!」


「右翼に長距離ワープをか、確認! 敵の本隊と思われる艦隊が出現しました!」


まずい。今右翼は侵入した小蝿どもの掃討で全く陣形が整っていない。


その状態で攻撃されては数千隻で構成された右翼は全滅する!


「左翼から援軍を送れ!」


「だめです!間に合いません!」


「なら中央から」


「そうなれば今侵入中の敵艦の攻撃を防ぐことができません!」


くそ! そのために敵は少数で中央に攻撃を仕掛けてきたのか!


なんだ! この1000隻対100隻から始まったこの戦闘は終始敵の手のひらの上ではないか!


この100隻の艦隊。


この司令官はなかなか頭が切れるらしい。


この私がここまで嵌められるとは思っても見なかったぞ! このままでは私は死ぬだろう。


だが貴様だけは道連れにしてやる!


「中央にいる艦隊の半数を右翼の援軍に送れ! 残りは全力で侵入してきた小蝿を叩き潰せ!」


「は!」


中央の男爵軍はラグノスの部隊に集中砲火を浴びせる。


しかし衝突覚悟で進んでいるラグノスと生き残りをかけた防衛をしている敵とでは戦意の差が違う。


さらに手動照準に切り替えた男爵軍は不慣れな手動照準では高速で動く船に当てることができずに同士討ちが各所で多発し始めた。


『男爵閣下! 敵は最終防衛陣地にまで侵入中! ここは我々が引き受けますゆえ閣下はお逃げを!』


「くそ! くそ!」


次々と戦死していく部下たちに男爵はただただ床を蹴ることしかできなかった。


くそ。覚えておれよ。ハンブルク辺境伯!


その時艦内に緊急アラートが鳴り響く。


「反物質魚雷接近中!」


「BGDMを射出しろ!」


「魚雷回避成功! ん? 閣下! 敵の戦艦がこちらに接近中! これは‥‥衝突コースです!」


「回避行動を!」


「ダメです! 間に合いません!」


オペレーターが悲痛の叫び声をあげているがその声は途中から聞こえなくなった。


そ艦内に鈍い衝撃と共に非常電源が作動する。


「被害報告!」


「敵の戦艦が本艦に直撃!艦内各所で火災発生!」


さらに衝撃が再び襲う。今回は先ほどとは比にならないほどの衝撃であった。


「ダメージコントロール!」


「居住区画、すべて破損!右舷砲塔からも返答ありません!」


「右舷機関室! 応答しろ! 繰り返す! 応答しろ! ‥‥だめです! 繋がりません!」


「一体どうなっている!」


「男爵閣下!敵戦艦が本艦の右舷に突撃した模様です。右舷施設から中央部にまで被害が及んでいます。期間は完全に停止状態。魔力の供給回路も各所が破損。もはや戦闘、航行も不可能です。脱出を進言します」


く、狂っている。


確かに超弩級戦艦である本艦を戦艦が完全に沈没できるはずがない。


だから突撃させ強制的に本艦を止めるだと⁈


狂っている。くそ、このままでは良い的だ! 移動する手段を考えんければ!


「男爵閣下!この船はもはや動くことはできません!脱出艇にご乗車を!」


「くそ。仕方がないか。では脱出の準備をしろ!」


「「「は!」」」


部下が脱出ていの準備をしている間に私は今回の反省を考える。


やはり一番は軽率に動き過ぎたことだろうか。


軽率に動いてしまったせいで今回これほどの大敗をしてしまった。


まだ一応動いている戦略マップを見てみるとすでに壊滅した右翼。


後退を始める中央を援護する左翼。


そして未だ中央で暴れている少数の敵艦。


そう。今回はすべてあの先遣隊から始まった。


クソが。まぁいい。領内に戻り籠城をし時を稼げば帝国から仲裁が入るだろう。


それまでの辛抱だな。


「な。貴様何m」


その時部下の悲鳴が聞こえる。


そこには装甲服を身に纏った兵士が私の部下を撃ち殺している光景が広がっていた。


「て、敵だ! 銃をt」


「ひ、ひぃ!」


装甲服をきている敵と生身の我々では戦力差は歴然である。


あまりにもあっけなく私の部下は殺されるか捕縛された。


「男爵だな?」


私の目の前に立った男がぶっきらぼうに言い放つ。


私にはもはや答える気力すら残されておらず男によって意識を刈り取られるのであった。









「カリナ少将閣下! ラグノス少佐からです!」


そう言いながら私に部下が私のタブレットにメッセージを送信してくれる。


ほう。あいつまだ生きていたのか。


今回あいつの働きぶりには驚かされた。


まさか10倍もの相手に一歩も引かずさらに攻勢までしかけ我々本体が攻撃する場所まで予測し、そのお膳立てをしていてくれていた。


初めは本当にラグノス少佐の腕を疑っていたがどうやら本当だったようだ。


それに彼はまだ生きているのか。


部下に礼を言いながら届いたメッセージを見るとなんと敵の男爵とのツーショットの写真であった。


男爵の顔は蒼白で気を失っている。


そして下に書かれているメッセージを読む。


『親愛なるカリナ少将閣下へ。この写真をあなたに送ります。現在私は敵の旗艦を襲撃し占拠しているのですがその過程で私の搭乗艦もコショウしてしまいまして困っているのです。ですのでお手数ですが私めを回収していただけないでしょうか? お駄賃はしっかりと確保していますのでご心配なく。以上です。伯爵様に栄光を!』


普通であれば即刻処刑をしていたがそれを吹き飛ばすほどの戦果である。


一番重要なのが男爵を生きたまま捕まえることができたことである。


これは伯爵様が喜ぶに違いない!


「親衛艦隊に通達。敵旗艦に強襲したレグニス少佐らを救ってやれ。駄賃をもらうのを忘れるなよ。」


『了解!』


ふふふ。


これで伯爵様にまた褒めてもらうことができますね!


さてと。ラグノス少佐ですか。


彼は使えますね。ぜひこちら側に引き入れなければなりませんね。


それにしても男爵軍のこの装備の質は多分どこかの貴族が後ろにいますね。


また洗い直さなければ。






「はぁ。やっと拾ってもらえましたね」


「だな。いやぁ捕虜とっててよかったなシェルナー中尉」


救助されたラグノスたちは艦内にある兵舎で一時的にくつろいでいる。


「‥‥てかお前、なんで俺の部屋にいるんだ?」


「なんだって良いではありませんか? それよりもです。」


ずいっと顔を近づけるシェルナー中尉。


はぁ、可愛いんだからそんなに無防備に顔を近づけないほうがいいぞ。


俺じゃなかったら襲ってたぞ?


「少佐、私の愛してた戦艦をよくも壊してくれましたね。」


「‥‥それは仕方ねぇだろ⁈ あのままだったら逃げられてたし周りの船にきっと沈められてたぞ⁈」


「ですがもしかしたら生き残れたかもしれないじゃないですか! あぁ私がどれほど悲しんでいるかわかりますか⁈」


「いや、知るかよ。しょうもねぇ‥‥」


顔を赤くしながら怒るシェルナー中尉。


その手には‥‥ってあれ?


「シェルナー中尉? お前酒飲んでんのか?」


「悪いですか⁈ 酒飲まなきゃやってられないんですよ!」


いやいや、キャラ変わりすぎじゃない?


え、お前それが素なのか?


酒癖悪くね?


「大体ですね! あなたが」


「わーったわーった! もういいいだろ? な?」


「いいえ、私はそんなものでは許しません!」






その後、シェルナー中尉が酒で潰れるまで付き合わされたそうな。


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