第13話 入学試験(2)

 ⦅地獄の始まりへようこそ⦆


 入り口の門にはバンッ! とそんな垂れ幕が垂れている。


 そうだ。ここは地獄だ。


 ダンジョン探索は富、地位、力など沢山のものを得られるが、命の危険も大きい。


 ダンジョン探索の途中で死ぬ事など珍しいことではない。


 故に迷宮学園は地獄のような訓練が行われているとされている。


 まぁその分楽しいところでもあるのだが。


 ここで学ぶ者とそうでない者では天地ほどの差が出る。


 確かな才能を的確に育てる事で最強のダンジョン探索者を生み出す。


 それがここ、迷宮学園だ。


 学園と呼んで入るが、新入生は俺たちと同じ年代とは限らない。


 この学園に歳は関係ない。


 0歳の子供から100歳以上のおじいちゃんまで、どんな人でも受験できる。


 とにかく実力。


 この学校は実力第一なのだ。

 

 『受験者の皆さん! まずは筆記です! 9割以上の点数が取れなかった人は即脱落です! 試験会場Aに向かってくださいねー!』


 そう言われて試験会場Aへと向かう。


 受験者には筋肉ムキムキのマッチョマン、

 いかにも魔法使います! って顔してるエルフ、

 俺と同じくらいの歳の貴族、

 腰が曲がってるおじいちゃんなど……


 個性豊かな人たちが沢山いる。


 「筆記、9割も、大丈夫かな……」


 冬香がわかりやすく緊張している。


 「大丈夫だって、定期テストだって冬香ずっと学年一位だったじゃん!」


 「響は2位だったね、ふふっ」


 「おいおい、お前がいたから俺のあだ名は万年2位だったんだからな!」


 「じゃあこのテストで一位にならないとね!」


 「ああ! なってやるさ!」


 こうして冬香と響、2人の緊張はほぐれた。


 元々地頭がいい上に勉強も怠っていなかった。


 この2人は必ず受かるだろう。


 龍雷にはサンドラがついているから落ちることはない。


 俺はラノベの制作者なのでどんな問題が出るかも知っている。


 「よし、みんな集合!」


 龍雷が呼びかける。


 「絶対にみんなで合格するぞー!」


 「「「おーー!!!!」」」


 円陣を組んだあと放送で言われた通り試験会場Aへと足を運んだ。


 中に入ると、そこは学校の教室のように机が並べられていた。


 試験会場Aにはたくさんの教室があり、俺たちが案内されたのは24室目だ。


 「それでは試験を始める、が、カンニングしたら一発でバレるからなー、この教室は試験をするためだけに作られたんだ。それ相応のカンニング対策もしてある」


 怖そうな女性の先生だ。


 だが、見た目はとても綺麗だ。この世界は美人が多いが、その中でも際立っている。

 

 紫色の髪色をしており、スタイルもいい。


 確か名前は、ステア先生だ。


 ラノベの世界では龍雷たちの担任をしていた。


 俺が考えていた理想の教師像を基にしてキャラデザした覚えがある。


 優しめの先生もいいが、俺は厳しく叱ってくれる美人な先生が好きなんだ。


 「じゃあ問題用紙と解答用紙配るからなー、私が開始って言うまでペン持つなよ」


 こうして教室にいる受験者全員に紙が配られる。


 「開始!」


 先生の声が響き渡り、その直後四方八方から紙を裏返す音とペンを持つ音がした。


 『問1.かつてこの世界で勇者と呼ばれた人物の名前と、愛用していた武器の名前を答えよ』


 これが第一問目か。


 答えは簡単。なんてったってこの間その勇者と会話しちゃいましたから!


 ⦅A.サンドラ、使っていた武器は【ブレイブソード】⦆っと。


 この問題、龍雷は頭の中でサンドラに

「俺のことだよな! 流石俺、後世に語り継がれる男!」

とか騒がれてるんだろうな。


 この問題は俺や龍雷じゃなくても基礎中の基礎だ。


 サンドラの存在を知らないものなど居ない。


 だからこそ問題を引き起こさない為に龍雷も周りの人に秘密にしているのだ。


 その後も問題をすらすらと解いた。


 『問67.ダンジョンには何種類あるか』


 67問目にしてやっとダンジョンのことについて触れる。


 ⦅A.3種類(陸、海、空に分けられる)⦆


 この世界には3つのダンジョンが存在している。


 全てこの迷宮学園が管理していて責任も請け負っている。


 ダンジョンの難易度は陸<海<空という感じでどんどん難しくなっていく。


 陸海空それぞれのダンジョンにそれぞれの特徴を持ったモンスターが蔓延っている。


 各ダンジョン10階ずつにボスモンスターというものが現れ、そのボスを倒さなければ先にはいけない。


 そしてダンジョンの最奥には、この世界を破滅へと導く魔族や魔王が存在する。


 おっと、いけない。試験中なのに余計なことまで考えてしまった。


 その後は数学のような内容の問題や魔法理論の問題が続いた。


 「そこまで! ペンを置いて」


 先生の声が響き渡り、四方八方からペンを置く音と共に「はぁ〜」というため息が聞こえてくる。


 龍雷の方を見ると、こちらに向かって小さくガッツポーズしている。

よく出来たのだろう。


 響の方を見るとウインクしている。


 冬香はというと、

 「はぁ〜全然出来なかった」

 と分かりやすく落ち込んでいる。


 あまり良くなかったのだろうか……


 「おっと、この教室では筆記試験突破生徒が3人しか居ないぞ!」


 先生の声が教室中に響き渡り、四方八方から落胆の【氣】が発せられた。


 ちょっと待て、3人?


 3人ということは……龍雷と俺はまず落ちることはない。


 やはり、冬香は落ちてしまったのか?


 それはまずい……


 誰か1人でもかけてしまったらダンジョン探索に大きな支障が出る。

何故だ!? ラノベの設定では全員合格していたはずだ。


 俺がこの世界にきたことで運命が変わってしまったのか?

悪い方向に……


 「合格者は、龍雷、大和、冬香の3人だ! それ以外は解散!」


 えっ? んっ?


 龍雷、大和、冬香?


 響は?


 さっきあんなに自信満々にウインクしていた響は?


 「先生! 俺は!? 絶対に受かってると思うんですけど!」


 「いや、魔法でしっかりと読み取りをしたからミスはないはず……ん? お前名前は何という」


 「響です! 鳴神響!」


 「ヒビキ、ヒビキ……あぁ、これか! すまない、字が汚過ぎて魔法で読み取れなかった! おぉ、91点、合格だ! だが、もっと字は丁寧に書け! 次からは許されないぞ!」


 「はい! すいません!」


 字が汚過ぎて読み取れないって、どれだけ適当に書いたんだよ。


 「では、改めて一次試験突破者を発表する。東龍雷、100点。西園寺大和100点。朝火冬香92点。鳴神響91点。この4人だ。4人は試験会場Bに向かえ! それ以外は解散!」


 とてもヒヤヒヤしたが、なんとか全員で筆記試験を突破することができた。


 ここからが本番。


 いよいよ実技試験だ。


 「おい響ー、心配させるなよ!」


 龍雷が響の背中をバンバン叩きながら笑っているような怒っているような声で言った。


 「まぁ、受かったから良かったけど、っていうかまた私に負けたね! 万年2位さん!」


 「はぁ!? たかが一点さだろ! 違いなんてないね! それよりもお前だって2人に負けてるじゃねえかよ! 万年首席も異世界に来て落魄れたものですね!」


 「よくそんなことが言えたね! 私よりも下のくせに! あなたも順位で言えば2位から4位に落ちてるじゃない! はぁ、これだから響は!」


 「今はお前の話をしてるんだよ! 俺は関係ない! はぁ、これだから冬香は!」


 「おいおい、お前らもう実技試験始まりそうだから、落ち着けってー、大和もなんか言ってやれ」


 響と冬香の言い合いはこの世界に来る前から、なんなら生まれた時からされ続けていることだ。


 今更変えるなんて無理な話だ。


 現実の幼馴染がどんな感じかは知らないが、俺が思い描いている幼馴染はこんな感じの関係だ。


 お互いにわーわー言い合って、それでも大切に思っている。


 この前の戦争の時だって、冬香が斬られた時、響が1番焦っていたし、必死だった。


 「まぁ、喧嘩するほど仲がいいとか言うしねー」


 「「仲良くない!!」」


 2人が声を合わせて否定する。


 ここまで息ぴったりな2人ならこれからも上手くやっていけるだろう。


 「まぁいいか。じゃあ気を引き締めていくぞ! 本番はここからだ!」


 龍雷の言葉と共に4人で試験会場Bへと向かった。


 

 

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