第12話 入学試験

 ドラマの挨拶をしてから2日が経った。


 現実世界では高校の勉強に対応すべく、新しく追加される数Ⅰと数Aの予習を。


 異世界では入学試験に向けて【冷氣】を扱えるように訓練している。


 場所は宿の隣にある広い草原だ。


 【迷宮学園】の入学試験には、筆記、実技の2つがあり、実技では例外を除いて魔法が必須となる。


 俺は【冷氣】を氷属性の魔法に見立てて使用しようと考えている。


 だが、全く制御が出来ない。


 戦争をした時に発動できたのはマグレだったのだろうか。


 どんな技も出す事が出来ない。


 今【冷氣】を使おうとすると、技は発動しないのに体温だけ下がっていってしまい、体の内側に積雪しているような感覚になる。


 その度に龍雷や響の炎系魔法で温めてもらっている。


 「はぁ、はぁ、できない……」


 「まぁ、そんな落ち込むなって!」

  

 「そんなこと言ったって試験明後日だよ!」


 あと2日でどうにか出来る問題じゃない。


 【氣】を扱う時は出来るという感覚がまだあった。


 だが、【冷氣】は扱えるイメージが湧かない。


 この世界で魔法を使うのに必要なのはイメージだ。


 そのイメージが鮮明であればあるほど、魔法の質も上がっていく。


 【冷氣】も同じ要領で出来るかと考え、氷や雪のイメージをしてみたが悉く失敗した。


 「じゃあ限界突破で2%、3%にあげてみたらどうだ? 【氣】も最初はその状態でしか扱えなかったわけだし」

 

 そう響に言われてハッとする。


 そうか、限界突破した状態なら全てのステータスが上がる。


 必然的に【冷氣】も使えるようになるかもしれない。


 「限界突破3%!」


 限界突破3%はまだ数十秒しか使えないが挑戦してみる価値はある。


 「【冷氣】発動! おりゃ!」


 ………………………………。


 あれ? 発動しない。


 何故だ……このままだと俺、本当に、学園通えない。世界を守れない。大切な人を……


 「この前発動できた時の条件を満たしてみたら?」


 冬香がそう言った。


 「発動した時の条件?」


 「うん、大和くんはあの時どんな事を考えていて、身体状況はどんな感じだったかとか」


 なるほど。成功例から答えを導き出すのか。


 あの時の身体状況は、限界突破を使いすぎて酷く疲弊していた。


 心理的状態は、敵国が無意味に民を襲ったことへの怒り、戦争なんて嫌だと思う悲しみ、龍雷と響の技を見て感じた焦り、人を殺したことを思い出しての後悔、そして、目の前で冬香が斬られたことに対しての憎しみ……


 全て負の感情だ。


 ん? 負の感情?


 そう言えば、【冷氣】って負の感情から生まれたんだったな。


 今までの訓練では負の感情がこもっていなかったから出来なかったのかもしれない。

 

 ならば……


 負の感情を思い出せ!


 この前、【冷氣】が暴走したのは色々な負の感情が合わさって制御できなかったからだと思う。


 負の感情の強さがそのまま【冷氣】の技の強さに変わるなら……


 「【氷球】」


 龍雷が作ってくれていた弓道の的のようなものに向かって真っ直ぐと伸ばしていた手から、氷の球が素早く飛んでいった。


 目で追うのも難しい。


 何故かは分からないが、技を撃とうとすると技名が自動的に頭に流れ込んでくる。


 氷球が的に当たると、当たったところから氷がパキパキっと広がっていき、遂には的全てを氷で覆い尽くしてしまった。


 少しだけ負の感情が強かったかもしれない。


 因みに頭に思い浮かべた負の感情は現実世界の方で小学生の頃に髪色で弄られていた時のことだ。


 今でも覚えている程度には嫌な気分になっていたので負の感情として丁度いい。


 「やったじゃん! できたできた! しかも当たったところから氷が広がっていったぞ!」


 「すげぇじゃん! 流石大和!」


 「大和君凄い!」


 みんなに褒められて少し照れ臭くなった。


 「みんなのおかげだ! ありがとう!」


 そう一言告げ、再び訓練に励んだ。



 〜2日後〜



 「大和、もう寝るの?」


 「うん」


 「なんで寝る前なのにそんなに緊張してるのよ」


 「えーっと、今日の夢はどんな内容なのかなー、なんつって」


 「ふふっ、変な奴」


 姫野さんと一緒にご飯を食べた後、風呂に入り、リビングで勉強をした俺は、時計の針が1番上で丁度重なったのを確認して部屋に戻ろうとしていた。


 隣で勉強していた姫野さんに緊張していることを見抜かれて、寝る前の挨拶をする。


 「おやすみ、明後日から学校なんだから、体調崩さないようにね」


 「うん、姫野さんもね、おやすみ」


 2階へと上がり、部屋の扉を閉める。


 姫野さんの言う通り、俺は緊張している。


 今、眠りについたらあっちの世界では入学試験当日だ。


 ここ数日はずっと【冷氣】を扱う練習をしてきた。


 ここまで努力したのはラノベを書くこと以外には初めてだったので、良い結果を残したい。


 もしここで学園に入学する事が出来ないと言うことになったらまた一年後の試験まで待たなければならない。


 そしてその一年の間に魔族や魔物の動きが活発になってこの世界の破滅に繋がる可能性すらある。


 そんなことにならない為にも、


 「絶対に合格する!」


 そう心に決めて眠りにつく。


 

 「おい大和! 遅刻するぞ! 早く起きろ!」


 「うわぁっ!」


 龍雷の声に飛び起きる。


 「あと2時間で試験始まるぞ!」


 「えっ!? 2時間!?」


 ここから迷宮学園までは歩いて3時間ほどかかる。

 

 「大和くん、ぐっすりと寝てましたもんね!」


 冬香も慌てて準備をしながら声を上げる。


 「もー、しょーがないなー! 俺が鳥になってみんなを乗せていってやるよ!」


 響もつられて声を上げる。


 「ごめん、急いで準備するね!」


 準備といっても服を着替えるだけだが。


 その後急いで宿の階段を降りていくと、


 「今日みんな試験だってね、こんなものしかないけど、持っていきなさい!」


 宿のおじさんが俺たち4人にお守りのような物をくれた。


 「それには魔力増幅の効果が備わっておる。役に立つかもしれん」


 「「「「ありがとうございます!」」」」


 宿のおじさんとお別れをして外に出る。


 「よし! 俺の背中に乗ってけ!」


 響がいきなりそんな事を言い出す。


 「おっ、久しぶりにあれやるのか?」


 「やった! 移動が楽になる!」


 「何するのー?」


 みんな分かっていて俺だけ分かってない状態だ。


 まぁ、言われた通りにするか。


 全員で響の背中に乗った。


 「おぉ、重たい……」


 当たり前だ。


 全員の体重合わせたら150kgくらいはあるだろうに。


 「【ホワイトバード、天風の翼】!」


 響の姿が見る見るうちに変わっていき、最終的には翼を広げたら5メートルはあるであろう大きな白い鳥になった。


 これはホワイトバードといい、天使とトカゲの雑種だと言う伝説がある。


 改めて響の能力に驚かされる。


 倒したモンスターの特徴、スキル、技、あらゆる物を吸収して自分のものにできる。


 チート過ぎないか?


 よく考えたら一緒にいる3人全員チートだ。


 龍雷はこの世に存在している魔法全てを使え、独自の魔法まである。その上、剣技も父親譲りの腕前で脳内にはこの世の全てを知り尽くした勇者がいる。今はまだ成長途中だが、これからも強くなっていく一方だろう。


 冬香はこの世で数人しか居ないとされる回復術と付与術どちらも使える天才の才能をもっており、他人の魔法や身体状況に関与出来るという唯一無二の存在だ。回復や付与に関しては龍雷よりも正確かつ効果的に出来るだろう。

 

 それに対して俺は、つい先日やっと氷魔法もどきのようなものが使えるようになったばかり。


 「うわあ! 風が気持ちいい!」


 「いえーーーーい!!」


 そうだ、後ろ向きになっている暇はない。


 こいつらの命を、この笑顔を守る為には前に進んでいくしかないんだ。


 「もう少しで着くぞー!」


 まだ飛び立ってから15分というところだろうか。


 いくらなんでも速すぎる。


 流石響だ。


 「あっ! あれじゃない?」


 冬香の指さす方へと目をやると、

 

 「すげぇ……」


 上空から見下ろしていても果てが見えないほど広い面積を占領しており、建物はどれも古そうな見た目をしているが決して壊れない作りになっている。そして何より、遠くからでも見える、受験者の塊。


 あれだけの人が受験するのかー。


 何千人という数の人が門の前で集まっている。


 この学園は1学年に3クラスあり、それぞれのクラスに10人ずつ配置される。


 つまり、この何千人の中の30人にならなければならないという事だ。


 地上へと降りて肛門の前にたった俺たちは圧倒された。


 「ここが迷宮学園……」


 目の前の門には垂れ幕があり、そこにはこう書いてある。


 ⦅地獄の始まりへようこそ⦆


 


 

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