第11話 芸能界

 「さ、寒い……」


 はっ! 戦争は!? 冬香は無事か?


 気を失う前のことを思い出し、飛び起きると、


 「あれ? 俺の、部屋?」


 現実世界に戻ってきてしまっていた。


 状況が心配だ。


 早くあっちの世界に行きたい。


 二度寝、は出来そうにないな……


 それよりも、


 「寒い……体の内側から凍っているみたいだ。」


 実際、右手を見てみると、氷で固められている。


 異世界の身体状況が現実世界でも作用する。


 体温が、保てない……


 暖房、暖房をつけよう……


 設定温度を30℃にして体の前に置くと、寒さが少しだけ治まっていった。


 この寒さ、【冷氣】を使ったことによる代償か?


 【冷氣】は強力だが、自分の身にも影響を及ぼすということか。


 確かにこの力を何の代償も無しに使えるとするならば強力すぎる。


 目に見える全ての範囲を凍らせるだけでなく、自分が敵と認識したものだけに攻撃を与えることもでき、今回は味方の治療にも使えた。


 どこまでが代償なしでできる攻撃なのか、まだ分からない。


 これから調べていかないとな。


 そう心に決めていると、スマホが鳴った。


 ブー、ブー、ブー


 バイブ音で机が揺れる。


 非通知だ。誰だろう……


 「は、はい」


 『こちら西園寺大和さんのお電話で間違い無いでしょうか』


 男の人だ。


 声質的に同い年くらいだろうか、


 「そ、そうですけど、誰ですか?」


 『サンライツ芸能事務所所属、上沼蓮です。今日からあなたのマネージャーをすることになります。』


 「マネージャーって、モデルとか俳優をする上での?」


 『はい。突然ですが、この後大和さん主演のドラマについて打ち合わせをしたいです。なんせ、撮影期間がもう迫って居ますので』


 ん? 撮影? ドラマ? 主演?


 「ドラマ? 俺が、出るんですか?」


 『はい、大和さんとの契約書に仕事の契約等はマネージャーに任せると書いてあったので、仕事とってきました。もし無理なのであれば断ってきますが』


 確かに俺は芸能界のことなど何も分からないのでマネージャーの人に任せるという欄にチェックしたが、こんな大きな仕事をとってくるとは……


 でも……


 「やります! やらせて下さい! 今日ならいつでも打ち合わせできます!」


 ここで挑戦しなければ意味がない!


 『ありがとうございます。それでは午後1時にサンライツスタジオに来ていただけますか?』


 「はい!」


 こうして俺主役のドラマの出演が決まった。


 12時30分、集合時間より30分早くに、サンライツスタジオに着いた。


 流石大手芸能事務所なだけあり、そのスタジオはとても大きく、人目を惹く。


 スタジオと呼んでいるが、ここはサンライツ芸能事務所の本部だ。


 入口らしき自動ドアがいくつもある。


 どこから入ればいいのか分からず、あたふたしていると、


 「大和さんですか?」


 後ろから、つい先程電話越しで聞いたばかりの声がした。


 振り返ると、赤く染められた短髪が1番に目に映った。


 身長は175センチくらいだろうか、


 第一印象は「爽やか」だ。


 キラキラした笑顔、身なり。


 そして何より、漂わせている雰囲気、【氣】が爽やかだ。


 「先程電話させて頂いた上沼蓮です。大和さんのマネージャーを務めさせて頂きます」


 「え、マネージャーって、高校生くらいに見えるんですけど、」


 「はい! 大和さんと同い年です。今年から大和さんと同じ高校に通います。色々と諸事情あって大和さんのマネージャーをさせて頂きます。同年代だと大和さんもやりやすいかなと」


 確かに、大人の人と話すのは苦手だ。


 その点相手は同い年。高校も同じらしい。


 マネージャーと学業を両立させるのは大変そうだが、本人ができるというのなら大丈夫だろう。


 そして何より【氣】が合う。


 波長が合うというのか、多分一緒にいても退屈にならないだろう。


 「じゃあ、よろしくお願いします」


 「はい!」


 「それで、入り口はどこに?」


 「ああ、こっちです!」


 そう言って案内されたのは、綺麗な自動ドアではなく裏の方にある手動ドアだ。


 「あ、ここ?」


 「分かりにくいですよね、今日はスタジオで顔合わせもあるのでこっちです!」


 顔合わせ!?


 「あのー、同い年だし、敬語やめません?」


 「いいんですか? 一応俳優とマネージャーという関係ですけど、」


 「うん、仕事仲間というより友達のように接して欲しいというか、友達に……」


 高校生にもなって「友達になって」なんていうの恥ずかしいな……


 「じゃあ友達になってくれ!」


 「えっ?」


 言いたいこと言われたー!


 「うん!」


 こうして生まれて初めての友達が出来た。

 

 「じゃあ顔合わせ行こうぜ!」


 「あの、顔合わせって?」


 「大和の主演ドラマの撮影、もうすぐ始まるから、今日監督とか演者とか、裏方の人たちが集まるんだよ、急遽決まったから言えてなかった」


 「なるほど、どういうドラマなの?」


 「ははっ、聞いて驚くなよ! なんと、高校が舞台の【青春恋愛ドラマ】だ!」


 「えっ……」


 れ、恋愛!? 


 初恋を数日前にしたばかりの俺にそんな事ができるのか!?


 「その反応だと、恋愛経験ないな? 大和めちゃイケメンなのにー!」


 「いや、実は……」


 俺は蓮に今まで髪色を弄られていたことや、顔を隠すように過ごしてきたこと、高校デビューしようとしていた事などを話した。


 「ははっ! 最高じゃん! 俳優なんて、高校デビュー大成功だぜ! 一緒に頑張ろうな!」


 「うん!」


 それから俺たちはスタジオの中に入った。


 「こんにちはー!!」


 蓮が勢いよく扉を開け、スタジオの中に入っていく。


 扉の中はモデルの写真撮影が出来るようなセットが備わっており、そのセットの前にはたくさんの人たちが集まっている。


 「おーおー、君が西園寺くんかな?」


 「あ、はい、よろしくお願いします」


 監督らしき人に話しかけられ、挨拶を返す。


 「ははっ、そんなに緊張しなくてもいいよ。まだ人が集まっていないからゆっくりしてていいよ!」


 とても感じの良い笑顔でそう言ってくれた。


 「よし、大和、あっちで座って待ってようぜ!」


 「うん」


 蓮に連れられ、少し離れたところにあった椅子のようなものに腰掛けた。


 「そういえば、ヒロイン役って誰なの?」


 これは流石に知っておきたい。


 多分一緒に行動する事が多いだろうし、心構えをしておいたら少しは堂々と話せる気がするから。


 「へへっ! 秘密。後数分もしたら来るだろ!」


 蓮はニカッと笑って教えたがらない。


 それだけ凄い人という事だろうか?


 そう考えていた瞬間、ここと外を繋ぐ扉がガチャっと開いた。


 俺はそこから入ってきた人に驚き、目を見開いて直立してしまった。


 「こんにちは、ヒロイン役を務めさせていただきます、神田エマです。よろしくお願いします。」


 神田エマ


 日本とロシアのハーフで明るい金髪が印象的な美少女。


 5歳から子役として高い評価を受け、その美貌、演技力、人となりなどから、様々な映画やドラマ、CMにまで出演している超人気女優だ。


 普段テレビを見ない俺でも知っている。


 画面越しで見るより何倍も、何十倍も可愛い。


 そんな神田エマはその場にいる人たち全員に挨拶をして回ると、こちらへとやってきた。


 「こんにちは、神田エマです。主役の西園寺大和さんですか?」


 「あっ、そ、そうでth、す。よ、よろしく、おねが、いしま、す!」


 「ふふっ、そんな緊張しなくてもいいのに、同い年で同じ高校に通うんですから。」


 「えっ?」


 オナイドシ? オナジコウコウ?


 「まさか、15歳で今年から【山蘭高校】に通うんですか?」


 「はい! 少しだけ家から距離がありますけど、あれだけ設備に充実して、仕事と学業を両立出来る学校なんて中々ありませんから!」


 確かに俺が通う学校【山蘭高校】は国内でも有数のマンモス校で、部活、学業、イベントの何を取っても高い評価を受けている。


 俺も文章を書く力を伸ばそうと頑張って受験したのだが、物語が完結してしまったので何のために行くのかと考えていたところだ。


 というか、俺の周りあの学校に通う人多くないか?


 姫野さんも、蓮も、神田エマさんも……


 「じゃあ同じ高校の同学年として仲良くしよう!」

 

 「いやです!」


 えっ、勇気出して仲良くしよっ! て言ったのに、振られた……俺と仲良くするの、そんなに嫌なんですか……


 「同学年としてじゃなくて、友達として、が、いいです!」


 「えっ?」


 「私、今まで特別扱いされてきて、友達が居ないんです。だから、友達になってくれたら嬉しいです!」


 俺の回答はもちろんYESだ!


 友達として仲良くしよう! と言おうとした瞬間、


 「じゃあ友達になろう! 俺は大和のマネージャーの蓮! 同じ高校に通うんだ!」


 蓮に先を越されてしまった。


 怖っ、陽キャのコミュ力……


 「えーっと、じゃあ友達が2人も出来ちゃいました! やったっ!」


 エマは照れたように笑みを浮かべた。


 可愛すぎだろ!

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