第7話 王都へ行こう!
「よし、王都へ行こう!」
森を抜け、ひと息ついた途端に龍雷が元気よくそう言った。
体力バケモノかよ……
「いいねー! 大和にも案内したいし!」
「私もいくー!」
他2人もバケモノか……
かといって俺も王都が気にならないわけじゃない。
自分が頭の中で描いていたものとどう違うのか、また、この国の王都は地球でいったら一昔前の欧州のような建物が大半なので海外に行ったことのない俺はどうしても気になってしまう。
王都の名前は【クライズオリジン】
王家の人間はクライズ家の血が流れているだけで武術や学に天賦の才能が宿るとされている。
「じゃあ案内してくれるかな?」
「「「よろこんで!」」」
それから俺たちは何時間もかけて王都まで歩いた。
「で、でけぇ……」
王都【クライズオリジン】は想像の遙先をいく大きさで、その規模に圧倒された。
生き生きとした人々の声が入り混じり、街中賑わっていることが外壁の外まで伝わってくる。
壁をくぐり、中に入ると、
とても賑やかな城下町が広がっていた。
左右にはレンガ造の建物がずらっと並んでおり、その前には屋台のようなものが所狭しと軒を連ね、食べ物やら、飲み物やら、ブレスレットやら、宝石やら売られている。
まるで、祭りみたいだ!
きっと毎日がこうなのだろう。
町の人たちは老若男女、皆んな笑顔で楽しそうだ。
中には尻尾や耳を生やした人もいる。
多分そういう種族なのだろう。
少し進んでみると、薄暗い路地裏でまだ幼い子供や女性たちが、首輪と手鎖をつけられて連れられている。
どう見ても尋常ではない雰囲気だ。
周りから声が聞こえてくる。
「あの奴隷可愛いな。買おうかな。」
「いやいや、あの手の奴隷は高いぞー。」
「戦闘用の奴隷も欲しいな。」
「確かに討伐が楽になるもんな。」
その声に、あの連れられている人たちは奴隷なのだと分かった。
俺が書いていたラノベでは奴隷という設定が存在しなかった。
俺の知らない所でこんな酷いことが行われていたなんて……
「ちょっとギルドによっていこうぜ!」
俺の暗い雰囲気を察したのか、龍雷が明るい声でそう言った。
ギルドというのは【冒険者ギルド】のことだ。
冒険者という職業についている人が集い、クエストやミッションを引き受ける場所となる。
だが、冒険者は危険なため20歳になるまでできない。
そんなギルドに行って何になるのだろうか……
すこし歩くと、
「絶対にここだ!」
みんながすぐに分かると言っていたが、本当にその通りだ。
灰色の、古い石造りの建物がある。
どれだけの年月が経っているのか、素人目にもこれが何百年も前からの建物だとわかる。
ブラックベアも入れるであろう大きな扉の上には
[ギルドへようこそ!!]
と大きく書いてある。
重い扉を開けてみると、
「わぁぁ!!」
休日のマルシェのように、沢山の人で賑わっていて、お酒の臭いがする。
左右には木造のテーブルと椅子があり、そこで大人たちがワイワイと談笑している。
目の前の大きな看板には、
[Fゴブリン討伐、一匹につき銅貨3枚]
[Fミニオーク討伐、一匹につき銅貨5枚]
などと、クエストのような張り紙がズラーっと貼ってある。
「あら、龍雷くんたちー! 今日もクエストを受けにきたのー?」
「はい! 今日は新しい仲間も居ますから難しいクエストも楽々こなしちゃいますよ!」
受付の綺麗なお姉さんと龍雷が仲良さそうに話している。
「あれ? 20歳からしか出来ないんじゃ?」
思わず口を出してしまった俺に龍雷が応える。
「俺たち強いから特別にやらせてもらってるんだ! 正規雇用ではないけどな! ということでゴブリン退治でもしてお金稼ぐぞー!」
俺の知らない所で龍雷たちはお金を稼いでいたようだ。
龍雷の言葉に動揺してしまった。
ラノベではこんな設定作っていない。
【王立迷宮学園】に入学するまでの物語は結構飛ばし飛ばしで書いていたからか。
とはいえ学園入学試験まであと1週間くらいしかない。
入学試験までに俺も強くならなければ……
そのためには冒険者の仕事をこなすのもいいかもしれない。
「よし行こう! ゴブリン退治!」
【王立迷宮学園】では授業を受けるのと並行してダンジョン探索もすることになっている。
この世界には「陸」「海」「空」3つのダンジョンがあり、それぞれ100階まである。
俺が目標としている魔王討伐をするためには3つのダンジョン全てをクリアしなければならない。
そして、一般人はこのダンジョンに立ち入ることすらできないため入学試験に必ず合格する必要があるのだ。
「ん? これなんだ?」
クエストの掲示板を見ていた龍雷がある貼り紙をジーーっと見ている。
その紙を見ると、
【クエストランクB:森から聞こえる謎の呻き声を調査せよ】
ギルドからの緊急依頼だった。
クエストランクBというのは中堅冒険者4人くらいで挑んで丁度いいくらいの難易度だ。
「これ受けよう!」
気がついたら俺はそう言っていた。
何か嫌な【氣】を感じる。
「よし決定だな! 俺たちはクエストランクBまで受けられるから丁度いいな!」
クエストを受けることに決めた俺たち4人は日が暮れるまでに終わらせようと急いで森に出た。
Bランククエスト
『謎の呻き声を調査せよ』
森から聞こえる呻き声の正体を調査することが、今回の成功条件だ。
調査するだけでBランク? と思ったが、何人もの冒険者がこのクエストで行方不明になったらしい。
それ以降もいろんな冒険者が調査に行っては行方不明になっていったという。
モンスターの仕業だろうか、それとも別の……
いやいや、怖いことは考えるな……
俺、お化け屋敷とか大の苦手なんだよなー。
中学生の頃文化祭のお化け屋敷でさえ、失神してしまったくらいだ。
森に着いた。
魔境ほどではないが、不気味な空気が漂っている。
魔境とは違う、何か冷たくて暗い、"氣"を感じる。
少し進むと、
[ううぅぅうぅうぅうぅーーー……]
呻き声が聞こえた。
想像していた何倍も不気味だ。
男の人がうめいている。
この声、モンスターではない。
[いやあぁあぁぁぁあぁぁ!!!!]
今度は女の人の声だ。
モンスターに襲われているのか?
そう思ったが龍雷たちはモンスターの気配を感じないと言う。
でも何だろう、さっきから【氣】が落ち着かない。
制御出来ないほどの寒気、震えが止まらない。
「限界突破2%!」
呻き声を正確に聞き取れ!
場所を、人のいる座標を正確に感じ取れ!
五感が研ぎ澄まされていく。
限界突破によって普段感じない色々なものを感じることができ、たくさんの情報が脳内流れ込んでくる。
「そこか……ここから南東に1キロくらい進んだ所から沢山の声が聞こえる。気配を感じる。」
「分かった! 急いで向かおう!」
「「うん!」」
そして俺たちは走り出した。
呻き声が近くなってきた。
「いやぁぁああああ!!!!」
「きゃぁぁああああああ!!!!」
いや、これは呻き声ではない。
叫び声だ。
人の叫び声だ。
声質的に女の人や子供もいる。
大勢の人が苦しみの声を上げている。
「急ごう!」
何が起きているんだ?
俺たちが向かおうとしている所には何が待っている?
数分走ると、声の発生源に辿り着いた。
「洞窟か?」
俺たちの目の前には聳え立つ崖とその表面に人工的に掘られたような穴がある。
「よし、入ろう」
龍雷の呼びかけに応じて歩き出した瞬間、
「ぐはっ!」
俺の後ろを歩いていた響が倒れ込んだ。
「響! 響、大丈夫?」
幼馴染の冬香が慌てて駆け寄る。
「はっ!! 龍雷! 響のお腹にナイフみたいなものが刺さってる! お腹貫通してる!」
「はっ!? なんで?」
近くに何かがいる。
【氣】を感じろ。
すううぅぅぅっと息を吸い、はああぁぁぁぁと吐くと何人かの人の気配を感じ取った。
囲まれている。
「龍雷、俺たち囲まれてる。4、5人の人間に」
敵にバレないよう龍雷に報告すると、
「分かった、俺と大和でなんとかしよう」
と応えた。
「蒼炎刀」
龍雷学園そう唱えると、辺りの気温が一気に高くなり、その手にはボワっと燃え盛る蒼の炎剣が握られる。
「冬香! 響に回復魔法を!」
龍雷がそう言うと、冬香はその場で回復魔法を使い始めた。
「限界突破2%!」
さっき使ったばかりだから体力がほとんど残ってない。
持って1分……早めに決着をつけたい。
「【氣纏】!」
さっき響は音もなく背後から刺された。
その一連の動きから考えるに相手は相当の手練れだ。
防御に気を張っておいて損はないだろう。
「出てこいよ! バレてんぞ!」
龍雷の言葉に、木陰や岩陰に隠れていた人間たちが出てきた。
全員黒いローブを着てフードを深くまで被っているので顔が確認できない。
「初めましてだけど、敵って認識でいいよね」
龍雷の冷たい声が辺りを静まり返らせる。
ピリッとした【氣】が感じられる。
声も、顔も、雰囲気も、全てが冷たい。
普段温厚で何をしても許してくれるような、いつも笑顔でみんなを引っ張っていってくれるような、そんな龍雷が静かに、冷たく、キレている。
響が倒れている姿を、冬香が泣きながら治癒している姿を目の前にして静かに怒っている。
そんな【氣】を感じる。
「五の太刀、蒼炎舞刃そうえんぶじん!」
龍雷が怒りの舞を踊るように蒼く輝く刀を振り翳す。
あたり一面が焼け切れ、黒いローブの男たち戦える状態ではない。
全員が戦意喪失している。
「この洞窟の中には何がある?」
冷たい声のまま黒いローブの男に問いかける。
「言うわけないだろ! あの方に背くようなことは許されない! 死んだ方がましだ! うぅうわあぁぁ、がじっ!」
黒いローブの男たちは思い切り舌を噛んで自害した。
「くそ、もっと生きる努力しろよ……」
龍雷はそうどこか悲しそうに呟く。
「響! 大丈夫?」
俺は響の元へ駆けつける。
「大丈夫だ、それより洞窟の中に!」
響がそう応えた。
命に別状はないようだ!
「じゃあ俺と龍雷で行ってくる!」
こうして俺と龍雷は悲鳴が絶えない洞窟の中に走っていった。
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