第3話 一目惚れ
『一目惚れ』
この気持ちを表すにはその言葉が1番合うだろう。
一目見た瞬間から、心臓の鼓動が止まらない。
モンスターと戦った時とは、全然違うドキドキ。
「えー、ぁあ、これから、よろしく、ね。」
「うん。でも、最低限話しかけないで」
悲しいことに、彼女は俺のことが既に嫌いらしい。
というより、男が嫌いらしい。
「じ、じゃあ俺は荷物運んでおくから部屋戻ってていいよ。」
「言われなくても戻る。」
うーん、全く目も合わせてくれない。
どうにかして距離を縮めたいなー。
その後荷物を運び終え、自分の部屋に行った。
6畳の部屋。
特に部屋に置くものもない俺からしたら十分すぎる広さだ。
「うーん、何か物足りないなぁ」
必要なものは全て揃っている。
ベッド、机、本棚、椅子、パソコン……
置いているものは今までと何ら変わりはない。
しかし、何かが足りない気がする。
「観葉植物でも育ててみるか?」
向こうの世界でたくさんの自然にふれ、美容院で綺麗な観葉植物に触れた俺は、身の回りに自然が欲しいと思うようになったようだ。
今日はもう暗いから、明日にでも買いに行こう!
ぐぅぅぅぅぅ……
「わぁ、久しぶりにこんな音なったな。」
お腹の音だ。
確かに今日はバタバタしてて何も口にしていない。
何か作るか。
今まで陰キャ生活を貫いてきた俺だが、唯一料理には自信がある!
昔から母は仕事でいない日が多かったので、自分で作らざるをえなかったからだ。
もう何年も料理をしてきたので、それなりに、いや、相当できると自負している。
「今日はオムライスの気分だな! 確かリビングの奥がダイニングで、その奥がキッチン……ぇ?」
階段をおり、キッチンにたどり着いた俺は言葉を失った。
「なんだ? この残骸の数々は……」
キッチンは、カップラーメンやコンビニ弁当、ポテチ、グミなどのゴミでごった返している。
「これって、姫野さんが……?
いやいや、あれだけ肌綺麗だし、食生活はいいはず……だけど、この家あの人と俺しか居ない……もんな。」
考えるのをやめて片付けようとした瞬間、後ろからガタッっと音がした。
「あぁ、姫野さんか。ねぇ、聞きたいんだけど、このゴミって全て……」
「えっ、あっ、それは、えっと、親戚がー遊びに来ててー……えっとー、」
あぁ、全部この人の仕業か。
「あぁ! もう無理! 全部私が食べたやつ! 片付けるの面倒くさくて放置してた!」
「ふふっ、あはは!」
「な、なによ!」
「ごめん、姫野さんて綺麗だし、スタイルいいし、見るからに高嶺の花って感じだったけど、人間味があってよかったって思っただけ。」
「な、なによそれ! 私まだ高校生にもなってないんだから家事なんて出来ないわよ!」
確かにそうだ。
普通に両親がいてそれなりに裕福な家に暮らしていたら、家事もうまく出来なくて当然だろう。
「でも、いつもこんな食事を?」
「ええ。この家に来てからずっとこんな感じ。」
姫野さんは俺よりも1週間ほど早くこの家に住んでいる。
1週間こんな食生活を送っていたという事だ。
「それはよくないな。これからは俺が料理作るからさ、それ食べてくれる?」
「あんた、料理できんの?」
「うん。料理は得意だよ。」
「イケメンで料理できるとか、反則でしょ……」
「何か言った?」
何かボソッと言ってた気がしたけど、よく聞こえなかった。
「何でもない! じゃあこれからは、キミが料理担当ってことでいい?」
「もちろん!」
よし! 少しだけ距離が縮まった気がするぞ!
これから彼女と少しずつ、距離を縮めていけたらいいな。
頑張るぞ!
「えっ……? まじか……」
冷蔵庫の中に食材と呼べるモノは無く、その代わり、大量の炭酸飲料、茹でて食べるインスタントラーメン、その他諸々……
あぁもう、体に悪そうなものしか無いし。
俺は昔から、母の影響もあって健康には気を使ってきたので、この冷蔵庫にあるような物は食べてこなかった。
「いつもこんな食事を?」
「うん。料理出来ないし、後片付け楽だし。」
「ちょっと食材買ってくるね。近くにスーパーとかある?」
「歩いて5分くらいのところにスーパーとか薬局とかあるよ。場所分からないだろうから一緒に行くわ。」
「えっ? ありがとう。」
正直驚いた。
俺のことが嫌いな姫野さんが一緒に来てくれるなんて。
「料理してもらうんだからこれくらいはしないとねー。」
「じ、じゃあ道案内お願いできる?」
「うん」
それから俺たちは暗い夜道、虫のジーーっという鳴き声を聞きながらスーパーへと向かった。
「卵、牛乳、肉、野菜……1週間分くらいは買っておきたいなー」
「確かに、その方が効率的ね」
「他に何か欲しいものある?」
俺の質問に姫野さんは「こっち」と言ってテクテクと歩き出した。
どこに行くのかと考えながら着いていくと、
「お菓子コーナー?」
「うん!」
おぉ、なんて幸せそうな笑顔なんだ……
「でも、姫野さん食生活良く無いから、お菓子は少しだけだよ」
「むぅ、」
不満そうに頬っぺたを膨らませ、小さな箱を持ってきた。
「じゃあこれだけ……」
意外と素直に、食べるお菓子削減を受け入れてくれて、持ってきたのは小学生のの頃よく食べた甘ーーいチョコだった。
「じゃあ行こうか!」
「うん」
そうして買い物を終え、帰り道を2人歩いた。
「いやぁ、7320円かー、結構かかったなー」
「2人分だからしょうがない」
「ははっ、確かに」
「お菓子もっと欲しかった……」
そんな感じの会話を続けていると、後ろから
ブォォーーオオオン!!!
と大きな車のエンジン音が近づいてくる。
後ろを見ると赤いスポーツカーのようなものが突進してきている。
「姫野さん、危ない!」
「えっ?」
道の真ん中を歩いていた姫野さんの腕をグッと引っ張り、道の脇へと避難させる。
車はスピードを落とす気配がなく、2秒、いや、1秒遅れていたら轢かれていただろう。
「あ、危ねぇ! 姫野さん、大丈夫?」
「だ、だ、だ、大丈、夫……」
「怖かったよね、壁側歩きな」
「う、うん」
それから3分ほど、会話はなく、家に着こうとしていたが、姫野さんが口を開いた。
「さっきはありがとう。あのままだったら、し、死んでたかも」
「う、うん、無事でよかった、それにしてもあの車危な過ぎるでしょ」
本当に危なかった。
歩道もない狭い道であんなにスピードをだして……
「あの車、ここら辺で有名な暴走族の、《スタピットドッグ》だよ、警察も手をつけられなくて困ってる」
「この時代に暴走族!? 気をつけなきゃね」
「うん、とにかくありがとう」
「うん、どういたしまして」
それから俺たちはオムライスを食べ、すぐに自分たちの部屋へと戻った。
「いやー、今日は色々あったけど、シェアハウス、意外と上手くやっていけそうだ」
少し安心して眠りにつこうとして、夢? の世界が頭によぎった。
モンスターが怖い。
この身で痛みを感じ、この身で目の前の恐怖に立ち向かった。
魔法が使えず、知らないことも沢山ある。
向こうの世界に行ったらアレ試してみるか。
そうして眠りに着いた。
「大丈夫ですか?」
男の子の声がする。
目を開けてみると、黒髪黒目の男の子、東龍雷が目の前にいた。
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