第14話 雑魚狩り配信
やつか!? あいつの攻撃を避けるには――
「葵、うしろだ! 伏せるぞ!」
「へ?」
何か言おうとした葵を地面に押し倒す。
「サ、サブローししょー! 配信中っす! これじゃあ、えっちな映像流したってことで免許停止されるっすー!」
コメント欄には『セクハラ配信に失望しました』、『葵たん、貞操の危機』、『もりあがってまいりました』とよく分からないものが流れ出していく。
ダンジョンの奥でキラリと何かが光ったかと思うと、熱量を持った光線が頭上を通過した。
「な、なんすかーあれ! 熱いっす! ヤバい気しかしないっす!」
「ただのクリスタルゴーレムだ。やつじゃなかった。あれくらいなら、お前でも狩れる雑魚だろ」
光線を撃ち出したのが、クリスタルゴーレムだと聞いた葵の身体が震えだした。
「サブローししょー、あたしを殺す気っすか! クリスタルゴーレムなんて、第一階層に出ないはずのSランク指定された害獣っス! なんで、そんな凶悪なやつがいるんすか!」
「俺が知るか。ただ、あんなのは雑魚中の雑魚だぞ。ビビるな。俺が外で教えてやった魔法でなら爆砕できるはずだぞ。防護魔法もあるし、問題ない。やってみろ」
葵は珍しく声も出さずに首を勢いよく左右に振った。
最強最悪のスライムには強気なのに、あんなクソ雑魚の魔物に怯えるとは……。
葵のやつは変わっていやがるな。
「本当に、本当に大丈夫っすか? あたし、死んじゃうってことはないっすよね?」
「死なんし、俺が死なせん。最悪、指一本でも残ってれば、再生させてやれるから問題ない」
「ええっ!?」
葵が涙目でこちらを見てくる。
涙目の葵を見てたら、可哀想な気がしてきたので、冗談であることを伝えてやることにした。
「嘘だ。障壁が破られるなんてことは起きない。戦士の中の戦士たる勇者に任じられた者として誓っていい」
「サブローししょー、信じてるっすよ! 死んだら恨んでやるー! ちくしょー、やってやるっすー!」
涙を拭って、やる気を見せた葵が、魔法の詠唱を始めた。
「炎精よ! 純粋なる炎の輝きとなり、我に宿りし力を顕現せよ!
詠唱により、サラマンダーの力を借りて、葵の指先にできた炎の矢が撃ち出される。
撃ち出された炎の矢は、一直線にクリスタルゴーレムの頭部に向かった。
ふむ、ちょっと狙いが甘いな。
あれでは致命傷は与えられん。
まだまだ、精度が悪い。
葵の放った炎の矢はクリスタルゴーレムの頭部を掠めると、奥の壁にぶつかり爆発と熱風をダンジョン内に解き放つ。
「は、外したっす! サブローししょー! 外したっす!」
「油断するな。来るぞ!」
葵の存在を察知したクリスタルゴーレムの赤い瞳が光ると、新たな光線が彼女の身体に向かって一直線に放たれた。
「ひぐぅ!」
葵にかけた多数の防護魔法はそれぞれの効果を発揮し、クリスタルゴーレムの光線を完全に無効化した。
「おい、立てないのか?」
コクコクと無言で頷く。
「傷はないぞ?」
腰の辺りを指差しているので、恐怖で腰が抜けているらしい。
コメント欄は『スパルタ師匠』、『サブローの防護魔法ヤベー固い』、『クリスタルゴーレムってあんな弱かったか?』といったものが書き込まれている。
あんなやつ、駆け出しでも余裕で倒せる雑魚の中のクソ雑魚なんだがな……。
葵を戦士として鍛える気はないが、ハイシンの助手としてダンジョン探索に同行させるなら、もう少し鍛えてやった方がいいかもしれん。
スライムの件もあるからな。
最低限の自衛力は身に着けてもらわないと。
とりあえず、今日のところは俺が倒してやるか。
「はぁ~。しょうがねぇな。弟子のお前がやらんなら、俺がやる。あんなのは魔法もいらないし、武器もいらん。これで十分」
どろーんに向かって拳を作って見せてやると、赤い目でこちらに視線を向けたクリスタルゴーレムに近づく。
「硬いと言われてるクリスタルゴーレムは、この腰の部分が一番もろい。この腰と上半身の付け根を狙って。拳で一撃入れてやれば――」
軽く握った拳で腰と上半身の付け根を殴り飛ばす。
拳が触れると、クリスタルゴーレムの腰に、ひび割れが走り、一気に身体中に広がると、粉々に砕け散った。
「といった感じに、粉砕できるわけだ」
コメント欄には、『ワンパンキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』、『人外の強さ過ぎて草』、『ふ ん さ い』などが流れる。
ピロン!
”引退探索者:2000円 祝! クリスタルゴーレム撃破記念! すごい! あんな倒し方があったなんて知らなかった”
ピロン!
”推し配信者なし:500円 ヤベー、痺れた。サブロー推せる!”
ピロン!
”葵たんガチ勢:1000円 葵たん、お見舞い金! 師匠がスパルタすぎ!”
ピロン!
”魔物考察者:500円 クリスタルゴーレムをワンパンだと!? 歴史が変わる配信だ!”
すーぱーちゃっとが次々にコメント欄に表示されていく。
コメント欄の一番下にすーぱーちゃっと合計金額、2万8500円と記された。
「すーぱーちゃっと、かたじけない。こんなつまらないものを見せてしまって申し訳ないと思う」
「サブローししょー、立てないっすー。おんぶしてくださいっすよー」
「今日は、葵があんな有様なので、ハイシンはここまでとさせてもらう。次回こそは、スライムを必ずや討伐し、ダンジョンの中を安全にして見せることを約束しよう!」
コメント欄に『スライム絶滅おっさん』、『スライムぜつゆるマン』、『安定と安心のスライム全力おっさんで草』といったものが流れた。
そろそろ皆もスライムの危険性が理解してもらえてきたと思う。
ダンジョンから出たら、ひよっこ社長に面会し、スライムの危険性を説いて、絶滅作戦を敢行せねば多くの死人が溢れることになる。
「さて、おんぶしてやるからダンジョンから出るぞ。これから、ひよっこ社長のところへ行く」
ハイシン用のどろーんを回収すると、腰が抜けて動けない葵のもとに駆け寄る。
「へ? ゆいな嬢のところっすか? なんで?」
「なんでもクソもあるか! お前がやり損なった凶悪なスライムが、低層階にウロウロしているのを放置できるわけがないだろう!」
「だから――それは――」
「口答えは許さん! 戻る!」
有無を言わさず葵をおんぶする。
「サブロししょー、話を聞いてっす!」
「ならん! ならん! 俺の制止を無視してスライムを攻撃するからこんなことになっているんだ!」
俺は葵をおぶると、ダンジョンの入口に戻り、装備を預けると、急いでダンジョンスターズ社に駆け込んだ。
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