大和直衛

 防御が厳しいと見て、米軍攻撃隊は周辺の護衛を取り払おうと大和から周囲の駆逐艦や重巡に狙いを変えてきた。

 涼月も狙われ、回避運動を行う。


「本官が大和から離れてしまいます」


「だが、避けないわけにもいかない」


「艦長! 内部の輪形陣が!」


 見張の言葉に大和の方へ目を向ける。

 輪形陣は二重で、大和を中心に周囲を長門と重巡が、更に外側の輪形陣を軽巡酒匂と駆逐艦からなる第一水雷戦隊が守る事になっている。

 だが、外周が突破され、重巡が襲撃を受け輪形陣は大きく崩壊していた。


「大和が襲撃されています!」


 大きく崩れた箇所から敵機が侵入し大和に攻撃を仕掛けていた。


(どうする)


 このまま、定められた位置で防空戦闘を行うか。

 離れて大和の護衛に向かうべきか。

 一瞬悩んだが艦長の平山中佐は決断した。


「転舵! 大和に向かえ! 大和に近付く敵機を撃退するのだ!」


 本来なら予め決められた定位置に留まるべきだ。

 だが、大和の護衛に付いている重巡が回避運動で大和から離れている。

 空いた穴を塞ぐには涼月が代わりに入るしか無かった。


「敵機! 大和に接近!」


 重巡が離れた隙を狙って敵機が殺到している。

 大和を守るためには涼月が隙間を埋め、守るしか無い。


「行かせるな! 撃ちまくれ!」


 弾幕を張り大和へ接近する敵機の大群を阻止しようとする。

 しかし、敵機、アヴェンジャー雷撃機は涼月の対空砲火に怯むこと無く、僚機を撃墜されてもそのまま突破し、大和に向かう。


「敵機魚雷投下!」


「南無三」


 魚雷が大和へ延びて行き当たる、と思った。

 だが、すぐに大和は進路変更して魚雷を躱した。


「凄い。森下艦長の操艦は天下一品だな」


 森下少将が第一機動艦隊航海参謀時代、平山別の駆逐艦で指揮を執っていた時だが、幾度も敵機からの回避を指導された。

 厳しい訓練だったが、お陰で回避の腕が上がり自分も部下も艦も無事に生き残る事が出来た。

 森下艦長には感謝しかない。

 その腕を、今こそ見せる時だ。

 平山は俄然やる気になった。


「おい航海長! 大和との距離を詰めろ!」


「分かっております。しかしこちらが優速の上、大和が急に舵を切るとどうしても飛び出してしまいます」


 大和は二七ノット、涼月は三五ノット以上出せる。

 速度差があるため、どうして涼月が追い抜いてしまう。

 しかも大和は、曲がり始めは鈍いが、一度旋回を始めると巨艦に似合わぬ、急速な旋回を見せるため、追いつくのが大変だ。

 それに森下の回避運動が加わると、キレのある動きとなり、俊敏な駆逐艦でも追いつくのが困難だ。


「分かっている。だが、近付かなければ護衛出来ない」


「左舷後方より敵機! 大和に向かう!」


「取り舵一杯! 大和に近づけ! 対空砲! 弾幕を張れ!」


 敵機の針路を妨害するべく機首に二五ミリ機銃を撃ち込む。


「大和回頭! 今度は近付きます!」


「面舵一杯! 回避した後、一周回れ! 距離を調整しろ!」


 速度差がありすぎるため、その場で一回転して大和との距離を調整する。

 速力差があるなら落とせば良いが、艦は急な加減速は出来ない。

 下手に速度を落とせば敵の良い的だ。

 その場回頭して、走る距離を長くして定位置を保つことにした。


「新たな敵機! 左舷より接近! 大和へ向かう!」


「取り舵! 敵機の正面に弾幕を張れ!」


 さらに敵機に向かって最適な方向を向く。

 ジグザグ航行になるが、速度差がある分、問題ない。

 激しい涼月の弾幕に恐れをなして、敵機は引き返していった。


「よし、諦めたか……」


 敵機が去り戦闘が一段落した時、艦橋の壁に大穴が開いた。


 突然外壁に貫通痕が開き、平山は驚いた。

 それも一つだけではなく、数カ所が数秒でだ。

 しかも艦橋内の器機を破壊し、乗員を死傷させる。


「ぐはっ」


「伏せろ!」


 銃撃を受けたと分かった瞬間平山は叫び真っ先に床に倒れる。

 慌てて、総員が伏せる。 

 その間に計器類や角度指示器が破壊され破片が飛び散る。

 銃撃は暫し続いたが、艦橋を一掃してようやく破壊は終わった。

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