対空戦闘開始

 大和の発砲を見た敵編隊は、回避する為にバラバラになる。

 三式弾はどうしても遠距離砲撃になるため炸裂するまで時間がかかり敵に逃げる猶予を与えてしまう。

 だが、それは想定内。

 ばらけた敵機を狙って上空の戦闘機隊が襲撃をかける。


「良いぞ! やれ!」


 三四三航空隊をはじめとする味方戦闘機部隊の活躍に機銃員達は歓声を上げる。

 先日の呉空襲で襲撃された不安から味方航空隊にも見捨てられていたのでは、という思いもあって援護があるのが嬉しいのだ。

 襲撃された敵機は慌てて爆弾魚雷を投下するが、数が多く、残りは襲撃を仕掛けてくる。

 当然、涼月達に接近する。


「左舷上空に敵艦爆! 大和が狙われている!」


「対空戦闘始め」


 見張の報告を受け艦長が命じる。


「敵機! 左三〇度! 高度四〇〇〇! 的速一五〇ノット! 的針六〇度!」


「諸元入力完了」


「照準良し」


「一番二番一〇サンチ砲! 射撃開始!」


 艦橋前にある二基の高角砲が射撃を開始した。

 発砲速度と初速の早い良い対空砲だが、砲身命数が短いの玉に瑕だ。

 予備の砲身を搭載する事も考えられたが、作業が困難なため却下された。

 いつもなら命数を気にするが今は戦闘中だ。

 弾のある限り、敵機に向かって撃ちまくる。


「新たな艦爆! 後方より接近!」


「そっちは後部と三番四番に任せろ! 一番二番は前部が現在の目標を追尾!」


 前後の高射装置のおかげで、秋月型は最大二つの目標を狙える。

 高射装置は精密機器であり、生産数が限られるため、当初は前部の一基のみという案も存在したが北山重工の努力により、量産に成功し、当初の計画通り二基ずつ搭載出来た。

 おかげで敵機の大群に対応できる。


「敵機、離脱!」


「次の目標を探せ! 攻撃を仕掛ける奴を狙え!」


「左舷、低空より敵機!」


「雷撃機だ! 大和に行かせるな! 機銃群! 対応しろ!」


 海面すれすれにやってくる敵機を銃撃する。

 撃墜は無理だが進路上に弾幕を張って攻撃を断念させるのが、目的だ。


「敵機、離脱!」


「よし、次だ!」


「大和の周辺に水柱!」


 見張の叫び声が聞こえた。

 すぐに大和に目をやると、水柱が立っている。


「被弾したか」


 最悪の想像がしたが、水煙から出てきた大和は無事だった。


「ヒヤヒヤさせる」


「右舷より敵機接近!」


「大和を攻撃しやがった連中か!」


「食らいやがれ!」


 血気に逸った機銃員が引き金を引き敵機を攻撃する。


「射撃止め! 馬鹿者! 逃げる敵機など放っておけ! 攻撃を仕掛ける敵機を狙え!」


 弾薬は定数を満たしているが、敵の空襲がどれだけあるか分からない。

 空襲に備えて弾薬は節約したい。

 攻撃を終えた敵機を落としても撃墜数が増えるだけで、護衛の任務は果たせない。


「敵機、後方から回り込もうとしています」


「射程外だ! そっちは僚艦に任せろ!」


「大和! 右に転舵しています!」


「離れるな! 面舵!」


 すぐに大和を追いかける。

 第一艦隊は大和を中心に輪形陣を形成している。

 涼月は外側の輪形陣に位置を占め、敵機の侵入を防ぐ第一の壁だ。

 大和から離れないように、追いつこうとする。

 艦長の指揮もあり、無事に元の位置を占めることが出来た。


「新たな敵機! 右舷より接近!」


「迎撃せよ!」


 大和が回避のため、北上した為、今度は右舷から敵機がやってくる。


「千客万来だな」


 雲霞の如く、敵機が襲来する。

 各艦は必死に対空射撃を行っているが、敵機が多い。

 だが、今のところ被弾艦は無い。


「無事に済んでいますな」


「だが、そうもいくまい。そろそろ来るぞ」


 軽口を叩く先任を艦長は戒める。


「敵機接近! 本艦に向かってくる!」


「拙い! 取り舵一杯!」


 敵機が、ロケット弾を発射した。

 涼月は素早く回避運動をしたため被弾しなかったが、敵機の突破を許す。


「野郎!」


 脇をすり抜けていく敵機を見て機銃員が弾を当てようと追いかける。


「射撃止め!」


 だが、艦長が射撃を止めさせた。


「何故です!」


「周りを見ろ! 射線上に味方艦が居るぞ!」


 急回頭したため、射線上に味方艦がいた。

 それに気が付いた艦長が慌てて止めたのだ。


「連中、周辺の護衛艦に狙いを変えてきたな」


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