第32話
「終わってなくても大丈夫だ」
慎也は佳奈の肩を抱きしめて言った。
「佳奈は俺が絶対に守る。だから、大丈夫」
終わっていなかったとしても。
これからも続いていくとしても……。
佳奈は慎也の腕の中でギュッと目を閉じたのだった。
☆☆☆
その夜、5人が夢を見た。
それは歪んだ家の出てくる夢だった。
その家が目の前に現れた瞬間、佳奈は足元から崩れ落ちていきそうな感覚に陥った。
終わっていなかった。
まだ、続いていた。
現実世界で慎也が言ってくれた言葉が蘇ってくる。
『佳奈は俺が絶対に守る。だから、大丈夫』
その言葉がなかったら、夢の中でも動けずにいただろう。
佳奈はグッと両足に力を込めて足を前に進めた。
どうせこの先に行かないといけないことはわかっている。
歪む家の中に足を踏み入れると、重たい空気が体に絡みついてくる。
それを振り払おうと手を振り回してみても、空気はまるで底なし沼のように体を包み込んできて離れない。
佳奈は重たい空気に抵抗するのをやめて前へ進んだ。
キシム廊下をまっすぐに進み、目的の部屋の前に到着する。
ドアノブに手を触れた時心臓がドクンッと大きくはねた。
この先になにがあるのかすでに知っている。
仲間の誰かの首無し死体だ。
首の断面はとてもキレイで、布団には血が染み込んでいる。
首のない死体なのにそれが誰だかわかるのだ。
見たくない。
これ以上先に進みたくない。
そんな気持ちにはおかまいなしに、夢の中の佳奈はドアを開ける。
中はなにも置かれていない部屋だ。
月明かりに照らし出されている中央の布団に視線を向ける。
その瞬間佳奈はか細い悲鳴を上げていた。
まだなにもわからない。
首の断面も見ていない。
それなのに、わかってしまった。
これは、この体は……!!
「慎也!!!」
叫び声を上げると同時に飛び起きていた。
全身汗に濡れていて呼吸は荒く、喉はカラカラだ。
部屋の中を見回すと美樹と春香が寝息を立てている。
しかし同じ悪夢を見ているようで2人共苦しそうにうめき声を上げている。
そんな2人が目覚める前に佳奈は部屋を飛び出した。
それとほぼ同時に他のメンバーも目を覚ましたが、慎也の部屋に一番にかけつけたのは佳奈だった。
「慎也!」
飛び起きたときと同じように名前を呼び、部屋のドアを開け放つ。
慎也の部屋はマンガや雑誌が乱雑に床に散らばっているのに、一瞬夢の中でみたあの部屋と同じに見えた。
月明かりに照らされているベッドへ視線が釘付けになる。
「佳奈っ!」
後ろから美樹と春香の声が聞こえてきても、佳奈はそこから一歩も動くことができなかった。
「佳奈、大丈夫か?」
起き出してきた大輔と明宏も心配そうにしている。
佳奈は大きく息を吸い込んで慎也の部屋に一歩足を踏み入れた。
その瞬間感じる重たい空気。
いつもの慎也の部屋とは違う雰囲気。
あの5人の影がここにも来たのだ。
慎也の首を取りに来たのだ。
ベッドへ近づくにつれてドッドッと心臓が早鐘を打ち始める。
佳奈は意を決して勢いよく布団をめくりあげた。
そして数秒後、佳奈の悲痛な叫び声が家中に響き渡っていたのだった。
首取り様2へつづく
首取り様1 西羽咲 花月 @katsuki03
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