第31話

「いいね、やろうよ慎也」



「佳奈がそう言うならいいけど」



そんな言い方をしながらもまんざらではなさそうな表情だ。



慎也からの了承が下りると大輔たちは慎也よりも先に玄関へ上がっていた。



「おじゃましまーす!」



と、誰もいない家に声をかけている。



「お前ら、ちゃんと靴揃えろよ!」



乱雑に散らかって行く玄関を見て慎也は顔をしかめる。



「慎也だって普段は気にしないくせに」



隣で佳奈に突っ込まれて慎也はむくれてしまった。



本当はこうしてにぎやかに友人たちと過ごすのが楽しいのだ。



夜は化け物と戦って首を探し、昼間は家に一人きり。



ここ数日間慎也がそんな生活をしてきたことを知っていて、みんなも心配していたのだ。



「よかったね」



佳奈に言われて慎也はやっぱりそっぽを向いて「別に」と気のない返事をする。



だけどその横顔が嬉しそうに笑っているのを佳奈は知っていたのだった。


☆☆☆


庭でみんなでする花火は格別だった。



どれだけ大きな花火大会にも劣らない楽しさがある。



2本の花火を両手に持って慎也を追いかける大輔。



明宏は美樹と一緒に線香花火をしている。



春香は大輔を止めようと追いかける。



そして佳奈は少し離れた窓辺からみんなのことを見つめていた。



やっと夏休みらしいことができてる気がして、嬉しかった。



この光景をずっとずっと見ていたいと思った。



「佳奈!」



慎也が花火を持ってこちらに手を振ってきた。



佳奈は満面の笑みで頷き、駆け寄っていく。



本当に楽しかった。



こうして6人で集まっていることが。



だけど、佳奈の胸にはまだコツンッコツンッと違和感がノックし続けていた。



無視し続けていると、やがてそれは胸を殴りつけるような大きなノックに変貌していくことなんて、知りもせずに……。


☆☆☆


その日遅くまで花火をした6人はそのまま慎也の家に泊まることになった。



「あ~、本当に楽しかったね!」



パジャマ姿の美樹が布団にくるまってくすくす笑う。



「本当だよね。花火もキレイだった」



春香が同意する。



みんな今までの恐怖や理不尽を払拭するかのように大はしゃぎだった。



思い出してもおかしくて、佳奈も笑えてきた。



「もう終わりなんだよねえ?」



不意に春香がそう聞いてきて、笑い声が消えていった。



美樹の顔に不安が浮かんできている。



「大丈夫だよ。私達頑張ったじゃん」



佳奈は力強く言う。



だけど胸の中の違和感はさっきまでよりも鮮明に聞こえてきていた。



3つ見つけたガイコツ。



だけど地蔵の数は5体。



数が合わないことがこんなに気になるなんて考えてもいなかった。



「そうだよね。大丈夫だよね」



美樹が布団の中で微かに震えている。



元気づけようと思ったとき、佳奈のスマホが震えた。



画面を確認すると慎也からメッセージが届いていた。



同じ家の中にいるのだから直接部屋までくればいいのにと思ったが、きっと女子2人に遠慮したのだろうと思い直した。



「ごめん、ちょっと行ってくるね」



スマホを片手に立ち上がると、それだけで理解したように2人は微笑んだ。



部屋を出て庭へ向かうと月明かりに照らされる慎也の姿があった。



いつもツンツンに立てている髪の毛は、お風呂に入ってから下を向いている。



以外とツヤツヤとしたキレイな髪の毛をしているんだ。



佳奈はしばらく庭の影から慎也の様子を見つめていた。



整った顔立ちの慎也は夜の庭に立っているだけで絵になる。



こんなこと、絶対に口には出せないけれど。



「佳奈」



気配に気がついたのか、慎也が振り向いた。



佳奈は今来たように装いながら小走りに慎也に近づいていく。



夜でも肌に張り付くような熱は冷めなくて、じっとりと汗が滲んでくる。



「星でも見てたの? らしくないなぁ」



明るく言いながら慎也の横に立って空を見上げる。



満点の星空とまではいかなくても、そこそこの星空が出ている。



「キレイだろ」



「まぁまぁかな」



答えてから、佳奈は慎也へ視線を戻した。



「足、大丈夫?」



「あぁ。大したケガじゃない」



今日動き回れていたことを思い返せば本当に大した怪我ではなかったんだろう。



それでも佳奈の胸は痛んだ。



慎也は自分のためにこの怪我を追ったのだ。



「明日、病院に行かないとね」



「そういえば行ってなかったな病院」



思い出したように言うので思わず2人で笑いあった。



病院に言えば何針か縫うことになるかもしれない。



それくらいの傷を、自分で包帯を巻いただけで終わらせてしまっているのだ。



佳奈は慎也の肩に自分の頭を持たれかけた。



慎也の熱が伝わってくる。



どれだけ暑くても邪魔にならない熱だった。



「あれで、もう終わったんだよね?」



その質問には慎也は答えられなかった。



佳奈が行っていたように、ガイコツの数が足りない。



それはやはり気がかりなところだった。

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