第30話

☆☆☆


自分の頭部が発見された場所を佳奈はしげしげと見つめた。



こんな森に自分の頭があったなんてなかなか信じられることじゃなかった。



でもそれはきっと、春香と明宏も同じだったと思う。



気を取り直してスコップを握りしめた。



朝からの作業で手のひらには豆ができて、スコップを握る手には力が入らない。



それでもやらないといけない。



佳奈はグッと奥歯を噛み締めて自分の頭があった場所を掘り返しはじめたのだった。



「あった!」



それは日が暮れる前に発見された。



声をあげた春香のところへ集合してみると、たしかに土の中から白い骨が覗いている。



「よかった。これで全部だね」



美樹が泣き出してしまいそうな声で言う。



その言葉を聞いた瞬間、また佳奈の胸にコツンッと石がぶつかってきた。



言い知れない不安と共に違和感が刺激してくる。



その間にも他の4人は土を掘り返してガイコツを取り出し始めている。



さっきの林の中に比べると柔らかい土は掘りやすく、ガイコツはあっという間にその全貌を表した。



「すごいな。3つともここまでキレイに形を留めてるんだもんな」



大輔が関心したように言いながら、上着でガイコツを包み込んだ。



「誰かが意図的に埋めたって感じがする。胴体と頭部をバラバラの場所に」



明宏が深刻な声色で言った。



「それって、生きている間に首を取られたってこと?」



美樹の言葉に明宏は左右に首をふった。



「そこまではわからない。でも、なんか悪意を感じるよな」



悪意……。



きっとそうなんだろう。



あの5体の地蔵は誰かからの悪意を受けていた。



あるいはそのせいで死んでしまった。



だからこそこうして、自分たちは巻き込まれているのだ。



「行こう」



慎也が静かな声で言ったのだった。



3つのガイコツを発見し、そしてそれはすべて地蔵のもとに返された。



「これでもう、怪異は起きないだろ」



大輔と慎也は自信満々になっている。



しかし、このときになって佳奈はようやく胸を刺激し続けてきた違和感の正体をつかめるようになっていた。



地蔵の前に置かれた3つのガイコツ。



しかし、地蔵の数は5体だ。



どう見てもあと2つ、ガイコツが足りない。



「ねぇ、もう2つは探さなくて良いのかな?」



喜んでいる5人に水を指すのは気が引けたけれど、勇気を出して言ってみた。



すると明宏が顔をしかめる。



「それは僕も気になってたところなんだけど……もしも5つ全部を探そうと思ったら、また今夜誰かが首を切断せれることになる」



その言葉に佳奈は首を切られたときの痛みを思い出して身震いをした。



春香も青ざめて、黙り込んでしまった。



「なんのヒントもなしにガイコツを見つけることはできない」



明宏の言う通りだった。



もう太陽も沈んでしまって周囲は真っ暗だ。



こんな中、宛もなくガイコツを探し歩くことなんて現実的じゃない。



「きっと大丈夫だ、佳奈」



慎也が大きな手を肩に回してきた。



少し汗臭かったけれど、手のぬくもりを感じると安心できる。



「うん、そうだよね」



自分たちはやれるだけのことをやったんだ。



今までに経験したことがないほどに頑張った。



だから、きっと大丈夫



そして6人は地蔵へ向けて手を合わせたのだった。


☆☆☆


「で、なんでみんな俺の家に来てんだよ」



慎也が玄関先で仁王立ちして大輔、明宏、春香、美樹の順番に睨みつけていく。



佳奈は慎也に肩を抱かれたままでいた。



足をケガしてる慎也を突き放すことはできなくて、佳奈はここまでついてきてしまったのだ。



「え、だって」



「なぁ、おい」



「うん……」



「ね、わかるよね」



キチンと説明せずに言葉を濁す4人。



「なんだよ、ハッキリ言えよ!」



慎也は苛立ちをそのまま4人へぶつける。



そんなに怒鳴らなくてもいいのにと佳奈は呆れそうになってしまう。



「お前の家、両親いねぇんだろ?」



ハッキリ聞いたのは大輔だった。



「あ? あぁ、いないけど?」



「そういえば旅行に行ってるんだっけ?」



佳奈は夏休み前の慎也との会話を思い出していた。



『俺の両親夏休み入ってすぐに2人で旅行に行くんだってよ』



『へぇ。慎也も一緒に行けばいいのに』



『俺は邪魔なんだってさ』



別に寂しがる風でもなくそう言っていたんだった。



そんな両親はまだ帰ってきていないらしい。



ということは、ここ数日間の深夜の苦悩も知らないままということだ。



「でね、これ!」



春香がジャーン! と、効果音付きで後手から花火を取り出した。



佳奈と慎也はそれを見て目をパチクリさせている。



「一緒に花火しよう!」



美樹が元気に宣言する。



「慎也の家の庭、広いだろ?」



明宏が後を続ける。



「そりゃまぁ、広いけど」



一体いつの間に花火なんて用意していたのかと、佳奈はおかしくなってきた。



みんなこのためにゾロゾロと慎也についてきたみたいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る