第29話
☆☆☆
明宏の頭部を見つけたのは林の中だった。
木々が茂る林は夏でも涼しくて、スコップを使う手が休まることはなかった。
「僕の首はこんな場所にあったのか」
明宏は林の中を見回してため息を吐き出した。
明宏の頭部を発見したときのことはよく覚えている。
最初はただの丸い岩だと思った。
黒くてツヤツヤとした髪の毛がなければ、それが頭部だとは思わなかっただろう。
みんなでスマホの明かりを集めて岩を映し出した。
そして浮かび上がってきたのが明宏の頭部だったんだ。
「確かこの辺だったよね」
美樹が明宏の頭部を見つけた場所まで歩いていく。
あの時は夜中だったかし、はっきりした場所はわからない。
だけど林の手前の方であったことは覚えている。
「たぶんな。とにかく土を掘ろう。そうすればまたガイコツが出てくるはずだ」
慎也は確信を持った声でそう言ったのだった。
☆☆☆
さきほどの山の斜面とは違い林の中の土は粘土質で、重たくて掘り返しにくかった。
1度掘り返すとスコップにベッタリと土がくっついてなかなか離れない。
「くそっ。なかなか進まねぇ」
さっきから力任せに土を掘り起こしている慎也も、苛立ってきている。
「少し休憩しようよ。1つめを見つけたときからほとんど休憩してないじゃん」
佳奈はみんなに声をかけて、コンビニで調達してきたジュースを配った。
男子たちがスコップを探してきている間に、準備しておいたのだ。
一応レジャーシートなんかもあって、ちょっとしたピクニック気分になれる。
「あぁ~。ガイコツがあるってことはわかってんのになぁ」
思うように作業が進まず、慎也が天を仰ぐ。
「焦らなくても大丈夫だよ。夜までにはまだまだ時間があるんだから」
佳奈はそう言って慰めることしかできなかった。
そういう佳奈の胸には未だに違和感がノックを続けている。
違和感の正体はまだわからないままで、佳奈は混乱するばかりだ。
もしかしてガイコツを探すというやり方が間違えているのではないかと、怖くもなる。
だから、自分の頭を強く左右に振ってその考えを打ち消した。
きっと大丈夫。
夢に出てきた影たちは地蔵で。
地蔵は首を探してもらうためにこんなことに私達を巻き込んだんだ。
「大丈夫か佳奈。疲れたならもう少し休んでていいぞ」
はっと我に返るとみんな水分補給を終えて作業に戻るところだった。
佳奈は慌てて立ち上がった。
「大丈夫だよ」
そう言い、スコップを手にしたのだった。
☆☆☆
それから更に30分ほど重たい粘土状の土を掘り返したとき、スコップの先がなにかにぶつかった。
スコップを伝ってその感触を感じた慎也は土の中を覗き込んだ。
その穴はあ30センチほど掘られたところで、人の頭くらいはすっぽりと入ってしまう大きさがきでていた。
「あたぞ!!」
軍手をした指先で土をかき分けて、慎也が叫ぶ。
その声に他の5人も集まってきた。
「本当だ、ガイコツだ!」
春香が興奮気味の声を上げる。
土から覗いているガイコツは目元くらいまで見えていて、周りの土をどかしていけばすぐに取り出すことができそうだ。
そこから先はガイコツを傷つけないように慎重に作業が進んでいった。
スコップを使うのは憚られ、落ちていた枝を使って掘り進めていく。
まるで遺跡を発掘しているような感じだ。
そしてどうにか掘り出した骨をまた大輔の上着にくるんだ。
「これで2つ目」
地蔵の前にガイコツを置く。
太陽は少し傾きかけていて、山や林の中での作業は難しく鳴り始めている。
「私の頭はどこにあったの?」
早足で前を歩く慎也に聞く。
「森の近くだ」
その答えに佳奈はグッと息を飲み込んだ。
こんな時間から森の周辺や、森の中を調べることになるなんて……。
今日中にもう1つのガイコツを探し出すことができるのか、不安が胸に膨らんでいく。
そんな不安を察知したように慎也が振り向いた。
そしてニカッと無邪気な笑顔を浮かべる。
「心配すんな。ぜったいに見つけるから」
なんの根拠もない言葉だったけれど、佳奈はその言葉に救われてようやく微笑むことができたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます