第25話

☆☆☆


しばらくすると民家が途切れて前方に森が見えてきた。



「嘘だろ……」



慎也は森の前で立ち止まり、絶望的な声を出す。



もしも佳奈の首が森の中にあったりしたら、探し出すのにどれだけ時間がかかるかわからない。



けれど、明宏の首は林の中で見つけたのだ。



この森を無視して進むことはどうしてもできなかった。



スマホの明かりを頼りにひとり森の方へと足を進める。



大きな山じゃないから遭難することはないにしても、朝までに首を見つけられるかどうかは怪しい。



それでも……!



一歩森の入口に足を踏み入れる。



この時慎也は首が見つからないという最悪の事態も想定していた。



首を見つけることができずに朝になったときどうなるのか。



検討もつかないことだった。



しかし、一歩足を踏み出した瞬間スマホの明かりが何かを捉えたのだ。



それは肌色の丸いもので、考えるよりも先に近づいていた。



「佳奈!?」



ソレの前に膝をついて確かめる。



長い黒髪をあきあげるとそれは間違いなく佳奈の首だったのだ。



「佳奈!!」



思わず首を抱きしめる。



血と土の香りが鼻腔を刺激する。



やっと見つけた……!



大輔がしていたように自分の上着を脱いで佳奈の頭部にかぶせた。



それを両手で抱きしめて森から抜け出す。



「慎也、見つけたのか!」



森から出て見ると、他の4人が集まってきていた。



それぞれ探してみたけれど見つけることができず、戻ってきたところだったみたいだ。



「あぁ」



慎也は力強く頷く。



誰もがみんな慎也のケガに気がついていたけれど、なにも言わなかった。



ドクドクと血が流れ続けていても、慎也も少しも気にしている様子はない。



佳奈の首を届けるということで頭がいっぱいで、自分の足のことなど忘れてしまったのだ。



しかし、佳奈の家に向かう途中でまた黒い化け物が出現したのだ。



それは慎也が攻撃して撃退した化け物だったが、しつこく立ち上がってきたようだ。



「しつこいな」



慎也の声が苛立つ。



雑魚キャラだと思っていたけれど、実はもう少し強い敵キャラだったのかよ。



佳奈の頭部を抱えたまま攻撃するのも、逃げるのも難しい。



「慎也こっち!」



春香の声が聞こえて視線を向けると、春香はいつの間にか化け物の後ろへと回っていた。



民家の庭を突っ切ったみたいだ。



化け物は完全に慎也をロックオンしていて、後ろの春香には気がついていない。



慎也は頷き、佳奈の頭部を春香へ向けて思いっきり投げた。



届け!!



慎也の願いは届き、春香が頭部をキャッチする。



そして同時に走り出した。



黒い化け物はようやく春香に気がついて体の向きを変えようとしている。



そうはさせるかよ!



慎也と大輔は同時にバッドを振り上げた。



春香に気を取られている黒い化け物の頭部めがけて振り下ろす。



黒い化け物の体は大きく左右に揺れて、そのまま倒れ込んだ。



「もう起きて来るなよ」



慎也はそう言い捨てて春香の後を追いかけたのだった。





目が冷めた時、佳奈は自分の心臓をパジャマの上から掴んでいた。



ドクドクと高鳴っている心臓。



全身を濡らす寝汗。



目を開けていてもまだ夢の中にいるような感覚が続いていた。



「生きてる……」



上半身を起こして自分の両手の平を見つめてつぶやく。



佳奈が夢でみたのは自分の首が切断されるまでの様子だった。



それ以降の記憶はなく、気がついたらベッドの上で目を開けていた。



でも、夢の中で首を切られたときの感触は嫌というほどしっかり記憶していた。



動きたいのに動くことができず、眼球だけで首のない5人を見たこと。



そしてその1人に首を切られたこと。



自然と右手が首筋に触れる。



ちゃんと頭部はそこにくっついているのに、確認せずにはいられなかった。



しばらくそのままの状態え動けずにいると、枕元に置いてあったスマホが震えた。



そのバイブ音にビクリと体をはねさせて、佳奈はスマホを確認した。



珍しく慎也からの着信だ。



佳奈はカラカラに乾いている唇を舌で舐めてから電話に出た。

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