第26話

「はい」



『佳奈、大丈夫か!?』



出た瞬間怒号のように聞こえてきた慎也の声に、ふっと全身の力が抜けていく。



いつもどおりの様子に安心した。



「うん。昨日頑張ってくれたんだよね? ありがとう」



『そんなの当たり前だ! それより、体は大丈夫か? なんともないか?』



自分だって大変な体験をした後なのに、必死になってこちらの心配をしてくれる。



慎也らしさに、気がつけば佳奈はくすくすと笑っていた。



さっきまで胸の中に巣食っていた重たい感情が少しだけ晴れている。



『その調子なら大丈夫そうだな』



笑い声を聞いた慎也も、ようやく安心したみたいだ。



「うん。本当にありがとうね」



『今日、これから集合できるか?』



「もちろん」



佳奈は真剣な表情に戻り、頷いたのだった。


☆☆☆


ファミレスに集合したとき、佳奈はすぐに慎也の異変に気がついた。



今日の慎也は太ももに包帯を巻くために短パンを履いてきているのだ。



元気な少年のような格好にしばしあっけに取られ、そして誰にも聞かずにケガ原因を理解した佳奈は思わず慎也の胸に飛び込んでいた。



「慎也の方が大丈夫じゃないじゃん!」



ギュッと抱きついた状態で叫ぶ。



ファミレスの店員が何事かとこちらへ視線を向けているが、佳奈は気にしなかった。



「大したケガじゃなかったんだ。大丈夫だって」



慎也はなだめるように佳奈の頭を撫でる。



確かに存在している頭部に、慎也は大きく息を吐き出した。



今朝電話で安否を確認したものの、やはりこうして実際に会って触れ合うことで安心できることがある。



「それで、佳奈のところにも黒い影が来たんだろう?」



しばらくして落ち着いてから、大輔が質問した。



「うん。来た」



思い出して青ざめ、うつむいてしまう。



あの5人が部屋に入ってきたときの冷気や、首を切られた時に痛みがリアルに蘇ってくる。



「大丈夫?」



隣に座っていた春香が心配そうに佳奈の手を握りしめてきた。



春香はもう1度首を切断されているから、佳奈が今どんな風に怯えているのか理解できるのだ。



佳奈は小刻みに頷き、水を飲んだ。



「その時に気になることを言われたの」



みんなに会ったら話さないといけないと思っていたことだった。



「言われたこと?」



明宏が身を乗り出してくる。



敵から言われた言葉はきっと大切なヒントになる。



「うん。『お前たちには我々が見えた。選ばれたのだ』って。どういう意味だと思う?」



明宏は顎に手を当てて考えこんだ。



言葉のとおりに受け取れば、自分たちは黒い首なしの影を見たことがあるということになる。



だけどどれだけ記憶をたどってみても、そんな化け物今まで1度も見たことはなかった。



「我々っていうのはもしかして、あの地蔵のことなのかもしれない」



しばらく考えていた明宏が顔を上げて言った。



「地蔵?」



慎也が眉間にシワを寄せて聞き返す。



「ほら、ネットの記事を見ただろう? あの首無し地蔵はホラースポットとして知られている。それなのに、地蔵はなかったと発言している人が多い。だけど僕らはたしかに地蔵を見たよな?



 それに佳奈が夢で聞いた言葉を当てはめて考えると、あの地蔵は選ばれた人間にしか見ることができないものだった。そして、僕らは選ばれた。そういうことになると思うんだ」



憶測でしかなかったが、たしかにそのとおりだった。



ネット記事をもう1度確認してみても、やはり地蔵はなかったと言っている人が多数いることがわかる。



「じゃあ、夢の中に出てくる首なしの影はあの地蔵たちってこと?」



美樹の質問に明宏は頷く。



「おそらく、その可能性が高いと思う」



「でも、どうして私達にはあの地蔵が見えたんだろう?」



質問する春香に、明宏は困ったように首をかしげた。



「今の段階ではまだそこまではわからない。けど、肝試しをしたときから何かがおかしかったことは確実なんだと思う」



夏休みに入る前から私達はこの試練を背負うことが決まっていたのかも知れない。



そう思うとなあんだか悔しくて、佳奈は下唇を噛み締めた。



何者わからない力が加わり、私達は今大変な思いをしているんだ。



「そう言えば、地蔵の近所の人の反応もおかしかったよね。人が良さそうだったのに、地蔵の話をした瞬間逃げ出した」



佳奈は思い出したように言う。



あの反応は誰がどう見てもおかしかった。



「うん。もしかしたらあの人は地蔵が見えない人なのかもしれない。それなのに地蔵が見えるという僕たちが現れて、あんな態度になったんだと思う」



明宏はほぼ確信している様子で頷いた。



「よし、じゃあまた地蔵に行ってみるか」



考えるよりも行動する派の慎也がさっそく席を立つ。



「ここでグダグダ考えてても、ラチがあかないからな」



大輔も立ち上がり、佳奈たち6人は再び地蔵へと向かったのだった。

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