第22話

さすが、明宏だ。



単純な慎也の行動なんてすべてお見通しだった。



「サンキューな」



慎也は大輔と明宏へ向けて言った。



2人がいなければ今ごろ自分の首はなくなっていただろう。



地面に伸びている黒い化け物をそのままに、慎也は三叉路に向き直った。



「ここで足跡は途切れてる。どっちにけばいいかわからないんだ」



「それなら手分けをして探そうよ」



そう言ってくれたのは美樹だった。



小ぶりなナイフを持つては小刻みに震えていて、顔色は悪い。



けれどなにかしなければと考えて持ってきたのだろう。



「俺は1人で行く。春香と大輔は真っ直ぐ。美樹と明宏は左手を探してほしい」



慎也が言うと4人は同時に頷いた。



「黒い化け物は取った首を守るためにいるんだと思う。ここから先は出現率も高くなる」



明宏が冷静な声で言った。



「そうか。本当に1人で大丈夫か?」



大輔が慎也を心配している。



ついさっき殺されそうになったばかりなのに、慎也は大げさなほどに頷いてみせた。



「俺なら大丈夫だ」



どこからそんな自信がでてくるのかわからないが、慎也がそう言うのならそうなのだろうと妙に説得力があった。



「佳奈の首が見つかったらすぐに連絡してくれ」



「もちろんだ」



大輔が頷く。



「よし、行くぞ!」


☆☆☆


1人左手の道へ歩き出した慎也はすぐに気配を感じた。



こちらを殺そうとしている禍々しい気配。



左手の道には塀の高い民家が立ち並んでいて、どこから黒い化け物が出てきてもおかしくんなかった。



息を殺し、いつでもバッドを振り回せるように大勢を低くしてゆっくりと前進する。



点々と街頭の明かりがある以外に他に光は当たらない。



月明かりは背の高い塀によって遮られてしまっている。



スマホの明かりをつけておくべきだった。



そう思ってももう遅い。



さっきみたいにスマホを探っている間に殺されそうになるかもしれないのだ。



暗闇を諦めて更に前進していくと、民家の塀の奥に何かが動く気配があった。



咄嗟に足を止めて様子を伺う。



こちらが相手の様子を伺っているのと同じで、相手もこちらの様子を伺っているのがわかった。



いる!



気配にハッと顔を上げたとき、塀よりも高い黒い化け物が姿を見せていた。



黒い化け物は塀の上によじ登っていて、今にもこちら側に降りてきそうだ。



「くるならきやがれ!」



バッドを構えて敵をにらみつける。



黒い化け物は言葉が理解できるかのように塀から飛び降りた。



そのまま一気に間合いを詰めてくる。



敵のすごいところはこの動きだ。



とても人間では追いつくことができない速さ。



まばたきをしている間に敵は攻撃できる大勢に入っている。



けれど、今回はこちらも敵の姿を確認してからの余裕があった。



敵が道路へおりてくるときにはすでにバッドを構え、そして降りてくると同時に振りかぶっていたのだ。



確かな手応えを感じた。



バッドを通して手に伝わってくる衝撃は間違いなく相手にヒットした感触だった。



黒い化け物は「ギャッ!」と短い悲鳴を上げて逆側の民家の壁に吹っ飛んだ。



「お前なんかの相手をしている暇はねぇんだよ!」



慎也は黒い化け物が動けなくなるまでバッドで殴打し、ようやく足を前に進めた。



これで2体。



もう3体も黒い化け物が残っていることになる。



他の連中が無事ならいいけれど。



民家の並ぶ道はどんどん月の光が弱くなり、暗闇は更に濃くなっていくようだった。

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