第18話
『で? 地蔵に来たらどうなるんだ?』
不意に慎也が我に返るようなことを言った。
『え?』
佳奈は思わず聞き返す。
『ほら、肝試しって言えば怖い場所に行ったら祟られるとか、そういうやつじゃないのか?』
慎也はちっとも怖くないのか、さっきから地蔵の首をペチペチと叩いている。
『そういう噂は聞いたことがないよ』
明宏の説明に慎也は途端につまらなさそうな表情になった。
『なんだよ、特になにもないのか』
『慎也は祟られたかったの?』
佳奈が聞くと慎也はファイティングポーズを取り『幽霊と対決してみたかったんだよ』と、真剣な表情で言った。
それからじばらく地蔵の周りにいたけれど、特におかしな現象が起きることもなく、6人はそのまま帰ってしまったのだった。
☆☆☆
そして、今。
まさに祟とも言える不可解な出来事に巻き込まれている6人だ。
「地蔵と言えば、それくらいだよね」
夏休み前のことを思い出して佳奈がつぶやく。
「そうだな。結局肝試しのことを持ち出したのが誰かわからないままだしなぁ」
慎也が頷く。
あれは今になっても不思議な経験だと思う。
肝試しをしようと決めた日だって、6人全員の予定が偶然空いていたのだ。
そんなこと今まで1度だってなかった。
それぞれ恋人同士だから、自然と休みの日はそれぞれに予定が入っているものだった。
まるでずっと前から肝試しを計画されていたようで、得体の知れない気味の悪さを感じる。
「あの時、地蔵の首を叩いたりしたからじゃないか?」
明宏が慎也を睨んで言った。
確かに、あの行いはどうだったのかと思っていた。
「なんだよ。今さらそんなこと言われても」
慎也はバツが悪そうに明宏から視線をそらした。
「でも、あの場所を知っていたのは明宏だったよな」
大輔に指摘されて、今度は明宏が目を見開いた。
「それはただの偶然だよ。噂に聞いていて実際その場に行ったのはあの時が初めてだったし」
早口になって言い訳をする当たりが怪しいと、慎也と大輔が2人して明宏を睨む。
「仲間割れはよしてよ」
美樹が呆れ顔で仲裁に入った。
こんなところで喧嘩を始められたら、ちっとも話し合いは進まない。
「それなら、地蔵のところまで行こうよ」
佳奈は立ち上がって提案した。
険悪なムードになった男子3人が視線を向ける。
「今回のことと地蔵が関係しているなら、きっとなにかヒントも見つかるよ」
佳奈の言葉に喧嘩しかけていた3人は渋々といった様子で頷いたのだった。
首無し地蔵には1度行ったことがあるので、迷うことなくたどり着くことができた。
以前来た時と同じように東屋の中に鎮座している5体の地蔵。
相変わらず苔むしていて、誰の手入れもされていないみたいだ。
「こういうの、ちゃんと管理しないといけないのにね」
地蔵を見下ろして美樹がつぶやく。
「そうだね。手入れしてないから肝試しの場所になったのかも」
「だから地蔵が怒って俺たちに変なことをさせてるのか?」
佳奈の言葉に、慎也が横槍を入れた。
「それはわからないけど……」
だけど、ここが全くの無関係とは思えなかった。
地蔵の呪い、とまでは行かないにしても、なにかあると思う。
「この街に首なし地蔵って他にもあるのかな?」
美樹が明宏に聞いた。
明宏は顎に指を当てて記憶をたどる。
「いや、ここ以外には聞いたことがないな。もしかしたら僕が知らないだけかもしれないけど」
「ここしかないなら夢の中で言われる『地蔵の首になる』っていうのは、この地蔵の首になるってことで間違いなさそうだな」
大輔が一歩地蔵に近づいて行った。
「朝になるまでに首を見つけられなかったら、この地蔵のどれかの首になる……」
佳奈は不意に自分の首が地蔵についている場面を想像してしまい、慌てて首を振って想像をかき消した。
こんなところにいるとつい余計な想像をしてしまう。
他になにかヒントになりそうなものがないか地蔵の周りをくまなく調べることにした。
苔むした地蔵のまわりは雑草がひどく、それをかき分けて、草に首を突っ込むようにして調べる。
草のむせるような匂いを我慢して15分ほど集中して調べたとき、慎也が「あっ!」と声を上げた。
草の間から顔を上げてみると、慎也は1人地蔵から離れて歩道へと向かっているのが見えた。
「これ、足跡だぞ!」
そう言われて他の5人もかけつけた。
そこには確かに夜の間に見たあの素足の足跡がついているのだ。
しかも北へ向けて転々と続いている。
「これ、首を探してる時に見たやつだよね?」
春香がつぶやくように言う。
隣にいた佳奈が頷いた。
きっとそうだ。
こんな風に濡れた素足で歩く人が他にもいるなら別だけど、きっといない。
しかもこの足跡はいつも5人分あるのだ。
今回は数も同じだ。
それから6人はその足跡を追いかけて移動を始めた。
足跡は自分たちの味方なのか、それとも自分たちを惑わせる存在なのか未だによくわからない。
だけど、今はこれしか頼りになるものがなかった。
その足跡はいつものように途中で途切れていた。
「ここまでか」
立ち止まったのは地蔵から100メートルほどしか離れていない場所だった。
右手が道路で左手が民家。
特に変わった様子もない場所だ。
それでもここまで来たのだからと周辺を調べてみることになった。
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