第16話
ただ、それを大事そうに抱え上げたのは美樹だった。
美樹はガタガタと震えていて、今にも頭部を落としてしまうのではないかと心配したが、頑として自分が運ぶことを譲らなかった。
とにかく、これで時間は大丈夫そうだ。
無事に見つけた頭部を抱えて林から出ると明宏の家へ向かう。
明宏の家は学校から近く、ここからだと歩いて20分ほどかかる。
でも大丈夫だ。
日が昇るまでまだ1時間はある。
佳奈はスマホで時計を確認して自分に向けて頷いた。
頭部を元に戻すことができれば、自分たちもまたベッドの上で目覚めることができる。
そして明宏も目を覚ますはずだ。
目的の家が見えてきたことで全員の気が緩んでいた。
美樹は早足になり一番前をどんどん進んでいく。
その次に大輔。
そして佳奈と美樹。
最後尾に慎也が続いた。
美樹が家の前にたどり着く。
「明宏の部屋は2階なんだけど、どうやって入ろうか」
美樹が戸惑った様子でこちらを振り向いたときだった。
美樹の後方に黒い化け物の姿が見えたのだ。
化け物は待ち構えていたように庭先から出現し、刃物になった両腕を高く掲げている。
「美樹、しゃがめ!!」
大輔が叫ぶ。
「え?」
美樹は何事か理解できずに目を丸くする。
大輔は構わずバッドを振り上げた。
グシャッ!!
大輔がバッドを振り下ろすのと、美樹がしゃがんだのはほぼ同時。
バッドは美樹の後方にいた化け物直撃していた。
化け物は「ギャッ!」と声を上げて倒れ込む。
大輔は倒れた化け物に2度3度とバッドを振り下ろした。
「大丈夫?」
ようやく我に返った佳奈は美樹に手をかして、引き起こした。
こんなところに黒い化け物が潜んでいるなんて思っていなかった。
最後まで油断は禁物だ。
「玄関が開くはずだ」
後から来た慎也がそう言って、玄関を開ける。
たしかに鍵もかけられておらず、なんの抵抗もなく玄関ドアが開いた。
ゲームの中でこの場所が必要なものだからだ。
再び美樹を先頭にして、5人は明宏の家に上がった。
佳奈は初めてこの家を訪れるけれど、とてもキレイで清潔な印象を受けた。
それでも気味の悪さや気持ちの悪さを感じるのは、やっぱりこの空間のせいだろう。
美樹は明宏の頭部を抱きかかえたまま階段を上がり、廊下の奥の部屋へ向かった。
そこには木製のプレートが掲げてあり、ローマ字でAKIHIROと書かれている。
ドアを開けて中へ入ると窓からの月明かりがベッドの上を照らし出していた。
昨日見た春香の光景がありありと思い出されていく。
それと全く同じ様子で明宏の体が横たわっていた。
「そんな……!」
春香がショックを受けた声を上げ、手で口元を覆った。
初めてじゃなくても、この光景には胸が痛む。
見たくなくても視界に入ってくる首元は、やはり鋭利な刃物でキレイに切断されているようだ。
美樹はベッドの横に膝をついて、大輔に上着をかえした。
そして明宏の頭部を大切ように枕の上に置く。
「これで、いいんだよね?」
美樹の声が歪んで聞こえた。
それだけじゃない。
家の中全体が歪んでいるように見えた。
足元がふらついて立っていることができない。
春香が大輔に手をのばすのが見える。
そして佳奈たち5人は再び意識を手放したのだった。
ハッと息を飲んで目を覚ました。
全身にビッショリと汗をかいていて鼓動が早い。
佳奈はベッドに横になったまま手の甲で額の汗を拭った。
ぼーっと天井を見上げている間にポンポンと続けてスマホが鳴る。
フーっと大きく息を吐き出し、右手を伸ばしてスマホを手に取る。
画面を確認してみると、思っていたとおりグループメッセージからの知らせだった。
《明宏:みんなありがとう》
最初に明宏からのメッセージが名入り、佳奈はようやく体を起こした。
その次には大輔や慎也のメッセージが続いている。
とにかく明宏は無事だったようだ。
そうとわかるとふっ体から力が抜けていく。
ともすれば再びベッドに逆戻りしてしまいそうになる体を、どうにか立ち上がらせた。
これからまたみんなと会って話し合いをすることになるだろう。
寝ている暇なんてなかった。
佳奈は汗に濡れたパジャマを脱ぎ捨て、シャワーへ向かったのだった。
☆☆☆
朝早い時間からファミレスで集合すると、すでに他の5人は集まっていた。
佳奈は慎也の前の席に座り、窓際に座っている明宏へ視線を向けた。
顔色は悪いけれどしっかりと現実をうけとめているようだ。
「みんな。昨日は本当にありがとう」
明宏は生真面目に頭を下げてお礼を言った。
「そんなの気にしなくていいって」
慎也が言う。
佳奈も同意を示して頷いた。
今大事なのはそういうことじゃない。
2日続けて起こったこれは1体なんなのかということだ。
「僕のところにも、たぶん春香と同じ5人が来た。黒い影で、頭はなかった。そいつらの中の1人が鉈で僕の頭を切断したんだ。本当に切られたみたいな痛みだった。今でもまだ覚えてる」
明宏はそう言って自分の首に触れた。
春香と同じように傷ひとつ残っていない。
「それからは記憶がないんだ。気がついたら朝になってた」
「俺たち、なにに巻き込まれてるんだろうな」
腕組みをして話を聞いていた慎也がつぶやく。
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