第15話
これじゃ間に合わない。
咄嗟に佳奈は前に出ていた。
「ウリャッ!」
と声を上げて右足を高く上げる。
そして化け物が腕を振り下ろすより先に、化け物の腹部に蹴りを入れていたのだ。
化け物がうめき声を上げて後退する。
倒れるほどの攻撃ではなかったけれど、たしかに効き目はあった。
佳奈は続けて蹴りを入れて、3発目で黒い化け物は後ろ向きに倒れ込んだ。
ドッと倒れ込む音を聞いた慎也と大輔が振り向く。
「佳奈……」
美樹が呆然として佳奈を見つめる。
佳奈は少し微笑んで「護身術で鍛えてたの」と、答えたのだった。
☆☆☆
化け物は全部で5体いる。
それを念頭に置いた状態で5人は再び明宏の頭部を探しはじめた。
足跡が消えた場所を中心にして、民家の庭先や畑の中をくまなく探す。
しかし、頭部はそう簡単には見つけることができなかった。
「どうしよう、見つからない」
2時間ほど経過したとき、美樹の焦りの声が聞こえてきた。
佳奈は空を見上げる。
まだ夜明けまでには時間はあるけれど、頭部を見つけた後は明宏の家まで運ばないといけないのだ。
そこまでの時間を考えると、のんびりしている暇はなかった。
「後は林の中か」
バッドを片手に持ったまま探していた慎也が言う。
さっき林の中から黒い化け物が出現したので全員それとなく避けていた場所だ。
けれどこれ以上探して見つからないのなら、林の中に行くしかない。
5人はそれぞれ目を見交わせた。
互いの意思を確認するように頷きあう。
このまま明宏の頭部を見つけることができなければ、自分たちに朝はこない。
永遠にこの夜に閉じ込められることになるかもしれない。
実際はどうなるのか検討もつかないが、そう思い込むことで動くことができた。
林の中は腐葉土のせいで足元が悪く、なかなか前に進むことができなかった。
木々の間から差し込む月明かりは弱々しくて、それぞれがスマホの明かりを灯してどうにか歩くことができていた。
「本当に、こんなところあるのかな」
佳奈は思わず呟いた。
昨日はあれほどわかりやすい場所にあったのに、今日は本当に隠されている感じがする。
これはただの偶然だろうか?
それとも、頭部の隠し場所にもちゃんとした理由があるんだろうか?
考え事をしながら歩いていると、佳奈のスマホの明かりが不自然な岩を照らし出した。
それは普通の岩にしてはツルリと丸く、苔むしているのか海苔のように真っ黒だ。
その苔はスマホの光によってツヤツヤと輝いて見えた。
「あれって、もしかして……」
春香が佳奈の隣で立ち止まり、つぶやく。
「後頭じゃない?」
「え?」
春香の言葉に一瞬佳奈の思考は停止した。
人間の、後ろ頭。
そう言われて見れば岩の苔だと思っていた部分が髪の毛のように見えてくる。
佳奈はゴクリとつばを飲み込んで、その岩に近づいた。
一歩近づくごとに鼓動が早くなっていく。
これ以上は近づかないほうがいいと、本能が叫んでいる。
それでも夢の中の佳奈と同じように、今回も足を止めることはなかった。
隣にピッタリと春香がついてきてくれていることも、心強かった。
「おい、どうした?」
急に静かになった佳奈たちに大輔が気がついてスマホを明かりを向けてくる。
その光はすぐに地面へと移動して行った。
「あったのか!」
大輔が叫んで走ってくる。
その声を聞きつけた慎也と美樹もすぐにやってきた。
全員のスマホの明かりが岩を照らし出す。
しばらくその状態で誰も動くことができなかった。
岩の前へ移動して確認するのが恐ろしかった。
と、その時だった。
美樹が1人で動き出した。
みんなの気持ちを悟ったのか、ゆっくりゆっくりと岩の周りを回って移動する。
「美樹……」
佳奈の声はかすれて誰にも届かない。
美樹が岩の前に回り込んでそれをスマホの明かりで照らし出した。
同時に息を飲み、その場に崩れ落ちるように膝をつく。
右手で口を覆い、必死で悲鳴を押し殺す。
その態度だけで十分理解ができた。
大輔は昨日と同じように上着を脱いで、明宏の頭部にかぶせた。
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