第14話
「今のところヒントはなにもないよね。だから、もう1度昨日春香の首を見つけた場所に行ってみるのはどうかな?」
佳奈は淀みなく言った。
これはファミレスに来るまでの間に考えていたことだった。
この世界をゲームの中だと過程して、関係のない場所には行くことができなくなっている。
それでもこの世界全部を探している時間はないはずだ。
今日も夜明けまでには明宏の首を見つけて、持っていかないといけない。
「昼間行ったばかりだけど、それしかないよね」
同意してくれたのは春香だった。
昨日犠牲になった春香だけれど、今は冷静そうに見える。
「そうだな。じゃあ、とりあえずそこに行ってみるか」
慎也がバッドを握りしめて立ち上がる。
それに合わせて他の4人も立ち上がった。
今回はひとまず行き先が決まっているので、全員で移動することになった。
ファミレスの外に出るとまた異様な空気が肌に絡みついてくる。
熱いのに、肌寒さを感じる。
「美樹、大丈夫?」
一番うしろをついてくる美樹に春香が声をかけた。
美樹は青い顔で何度も頷く。
「大丈夫だよ。明宏の首はきっと見つかるから」
自分に言い聞かせるようにして返事をしてまた歩く。
昨日の場所に到着するまでに黒い化け物に出会うかと思ったが、すんなりとそこに到着することができた。
月明かりの中で道路に立ち尽くす5人。
「さすがに同じ場所にはないか」
慎也が周囲を見回しながら言った。
「でもこの足跡、なにか変じゃない?」
佳奈が昼間見つけた足跡がまだ残っていることに気がついて指摘した。。
それは黒くシミを作っていて、この真夏の太陽でも蒸発することがなかったようだ。
それだけでも異様だったが、その異様さの原因は別のところにあった。
「これ、向きが変わってないか?」
大輔がマジマジと足跡を確認して言う。
確かにそれは昼間見たのとは別の方向へ向かった伸びているのだ。
5人は互い目を見交わせた。
この足跡について行けばもしかしたら明宏の首を探し出すことができるかもしれない。
けれどそれは同時に、この足跡を残した5人の人物と対面するかもしれないということになる。
もしもその5人が、あの化け物のように攻撃してきたら?
そう考えると足がすくんでしまって動かなくなる。
「行こう」
かすれた声で言ったのは美樹だった。
美樹はジッと黒い足跡を見つめている。
「美樹……」
「大丈夫。絶対に明宏を見つけ出す」
美樹はそう言い切って、先頭をあるき出したのだった。
☆☆☆
あの足跡はしばらく続いていたけれど、昼間と同じで途中で途切れて消えていた。
美樹はそこで立ち止まり、周囲を確認している。
山から少し離れた場所で、周りは林と民家と畑があるばかり。
見える範囲で明宏の首がありそうにはない。
「ここからどう探すかが問題だな」
慎也がつぶやく。
ここまで来たらとにかく周辺を探してみる他ない。
手がかりは途切れてしまったのだから。
それぞれがそう感じ始めていたときだった。
ガサガサと林の木々が揺れる音が聞こえてきて全員が視線をそちらへ向けた。
シンとした闇の中、何かが林の中でうごめいている。
「野生動物?」
春香が誰にともなく質問する。
「違う」
大輔が短く返事をして両手でバッドを握りしめた。
そう、この世界には自分たちと化け物以外の生物はいない。
林の中になにかがいるとすればそれは……。
途端に背の高い黒い化け物が林から2体飛び出してきた。
化け物は一気に距離を詰めて襲いかかってくる。
鋭利な刃物になっている両腕を振り回して、ブンブンと空を切る音が響く。
「下がってろ!」
女子3人を背中側に押しやって慎也と大輔が目の前に立ちはだかった。
化け物2体が襲ってきても全く動じていない。
1体の化け物が慎也の目の前までやってきたとき、バッドが振りかぶられた。
両腕で全身の力を込めて振られたバッドが、化け物の腹部に命中する。
ドゴッ! と鈍く嫌な音が暗闇に響く。
化け物はひるみ、体勢を崩して横倒しに倒れた。
そのすきに近づいて来ていたもう1体を大輔がバッドで叩きのめす。
倒れ込んで苦しむ化け物に立て続けにバッドが振り下ろされる。
化け物は「ギャッ!」短い悲鳴を上げて動かなくなった。
すごい……。
佳奈は目の前の光景が信じられなくて、何度も瞬きを繰り返した。
だけどこれも夢ではないのだ。
慎也と大輔の2人が黒い化け物を退治してしまった。
呼吸することも忘れて戦闘を見守っていたので、自分たちの後方からもう1体の化け物が接近していることに気が付かなかった。
「あれ!」
美樹の悲鳴に我に返り、佳奈は振り向いた。
そこは暗闇だった。
月明かりをも消してしまう暗闇が突如現れたと思ったが、違った。
それは目前まで接近している黒い化け物だったのだ。
刃物の腕を振り上げて今にも美樹の体を切り裂いてしまいそうだ。
男子たちはまだ2体の化け物に攻撃を続けている。
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