第13話

やめて。



それ以上は見たくない!



どれだけ願っても夢は止まらない。



見たくないものを見せてくる。



そして目覚めることも許さなかった。



佳奈が布団をめくりあげた。



その瞬間現れる首のない体。



頭部がなくて誰かわからないはずなのに、佳奈には即座にそれが明宏だと理解した。



銀縁メガネのインテリが微笑む様子が目に浮かぶようだ。



あぁ……。



次は明宏だ。



そう思ったときだった。



部屋の暗闇の影からいつの間にか5人の黒い人間が姿を見せていた。



5人は全員首から上がなく、それなのに佳奈のことがしっかりと見えているかのように近づいてくる。



佳奈は逃げようとしてその場に尻もちをついた。



夢とは思えないような痛みに顔をしかめる。



「朝までに首を見つけろ、できなければ地蔵の首になる」



それは春香のときにも言われた言葉だった。



「朝までに首を見つけろ、できなければ地蔵の首になる」



佳奈は咄嗟に両耳を塞ぐ。



そんなことをしても意味がないとすでにわかっているのに、やらずにはいられないほど気味の悪い声だった。



「朝までに首を見つけろ、できなければ地蔵の首になる」



「朝までに首を見つけろ、できなければ地蔵の首になる」



「朝までに首を見つけろ、できなければ地蔵の首になる」



「イヤアアアア!!」



悲鳴を上げて飛び起きた。



心臓がバクバクと早鐘を打って今にも爆発してしまいそうだ。



全身にビッショリと汗をかいていて、呼吸はひどく乱れている。



窓から差し込む月明かりは弱々しくて、手探りで電気のリモコンを探してつけた。



室内が明るくなって幾分安心したが、まだ心臓はうるさいままだ。



また、あの夢を見た。



今度は明宏の首がなくなっていた。



ドクドクとうるさい心臓を服の上から押さえつけてスマホを手に取る。



そこにはすでに大輔と慎也からのメッセージが届いていた。



《慎也:夢、見たか?》



《大輔:また夢を見た。今度は明宏だ。春香も同じ夢を見た》



佳奈はどうにか呼吸を整えて全員にメッセージを送った。



《佳奈:私も見た》



美樹からのメッセージは届かない。



が、同じ夢を見ていることは確実だと言えた。



きっと明宏だったから混乱してメッセージを送るどころじゃないんだろう。



《慎也:今から集まれるか?》



《大輔:もちろんだ。春香と一緒に行く。美樹は?》



《佳奈:美樹の家に寄ってみる。先に週合してて》



そしてそのグループメッセージには当然のように明宏は現れなかったのだった。


☆☆☆


夜中の街ってどうしてこう顔が違うんだろう。



昼間とは全然違う。



佳奈は1人で美樹の家へと向かっていた。



肌に張り付いてくる外気はベットリと生ぬるく、気味が悪い。



足元は底なし沼でできていて、少し歩くだけでぶずぶずと沈んでいってしまいそうな気分になってくる。



なんといっても、そこの角を曲がれば昨日の黒い化け物が出てくるのではないかと、不安で仕方がなかった。



それでもどうにか何にも遭遇せずに美樹の家までやってきた。



大きな家を見上げて門柱をとおりぬけて玄関へ急ぐ。



少し躊躇したが、そのままチャイムを鳴らすことにした。



ここまで10分ほど歩いてきたけれど、昨日と同じで誰ともすれ違うことはなかった。



犬や猫、鳥の羽ばたきすら聞こえてこない。



きっと、美樹の両親もいないはずだ。



チャイムを鳴らしてからしばらくすると足音が聞こえてきて玄関が開いた。



「美樹」



中から出てきた美樹の目は真っ赤で、顔は真っ青だ。



「夢を見た?」



聞くと美樹は力なく頷いた。



「みんなもう集合してるから行こう」



佳奈は美樹の手を握りしめて歩き出す。



美樹も抵抗はしなかった。



ただずっと鼻をすすりあげている。



「大丈夫だよ美樹。だって春香だってちゃんと戻ってきたんだし」



「うん。わかってる」



それでも美樹は泣き止まない。



あのリアルで衝撃的な夢を見たら、それが自分の彼氏だったら、誰でもこうなってしまうだろう。



それ以降は佳奈もなにも言わなかった。



1度経験しているから、自分たちがやるべきことはもうわかっている。



ファミレスに到着して中に入ると春香が駆け寄ってきた。



「本当に誰もいないんだね」



夜の街をここまで歩いてきて、ファミレスの中にも誰の姿もなくて、随分と混乱しているみたいだ。



「それ、どうしたの?」



すでに席についている大輔と慎也を見て、佳奈は思わずそう聞いた。



2人の前のテーブルには木製のバッドが置かれているのだ。



「昨日は化け物がいただろ。今日もきっといる」



慎也はバッドを両手で握りしめて力強く言った。



戦う気まんまんの様子だ。



確かに、素手であの化け物と対決するのは困難そうだ。



自分も家からなにかもってくればよかったかもしれない。



戦うつもりなんて少しもなかった佳奈は少しだけ後悔した。



「それで、今日はどこを探す?」



大輔が目の前に置かれているジュースに口をつけてから言った。



ドリンバーから勝手に拝借したみたいだ。



人はいなくてもそういうところはちゃんと機能しているらしい。

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