第8話
「あの黒い化け物、まだいやがる」
道路にはさっきと同じかどうかわからないが、黒い化け物が1体うろついていた。
自分たちを仕留めそこねたから、探しているのかもしれない。
慎也と佳奈は路地に身を隠し、逆側の大道りへ出ることにした。
「ちょっと待ってろ」
途中で慎也はそう言うと、民家の裏口へと入っていた。
しばらく待っていると1本の傘を握りしめて戻ってきた。
「相手は素手が武器になってる。これくれい持っていないと話しにならないだろ」
傘くらいで太刀打ちできる化け物とは思えなかったが、それでもなにも持っていないよりはマシだった。
周囲を警戒しつつ路地を歩き、大通りへと出た。
そこには黒い化け物の姿はなく、ようやく春香の首探しに専念できそうだ。
「私はこっちを探して見る」
佳奈はそう言うと、ゴミ収集場所を目指して歩き始めた。
慎也が言っていたように、これをゲームだと過程して、余分な場所は調べられなくなっているのだとしたら、後は行ける範囲ですべての場所を調べるしかなかった。
広い道路に面しているゴミ収集所は物置タイプで、側面は中が見えるように金網になっている。
すでにいくつかのゴミ袋が捨てられていて近づくと生ゴミの匂いが鼻腔を刺激した。
その中にもしかしたら春香の首があるかもしれない。
そう思うと、黒いゴミ袋が異様なもののように見え始めた。
自分の恐怖心をどうにか押し込めて物置のドアを開ける。
それはギィィィときしむ音が響かせならも開いていった。
ここは探すことができる場所だったようだ。
益々ゴミ袋が禍々しいものに見えてくる。
もしもここに春香の首があったとして、それをどうすればいいんだろう?
夢の中の人物は首を見つけ出してどうしろと言っていただろうか。
考えても思い出せないくらい、佳奈は緊張していた。
そっと手を伸ばして一番手前にあるゴミ袋に触れる。
指先で袋を開けると中から異臭がブワリと巻起こった。
思わず顔をしかめて後ずさりをする。
生ゴミの腐った匂いだ。
真夏の炎天下の中出されたゴミはすぐに腐敗していく。
佳奈は片手で鼻をふさぎ、ゴミ袋の中を覗き込んだ。
中には大量の生ゴミと家庭ごみが入っている。
手を突っ込んで少しかき回して見たけれど、春香の首はないようだった。
もっとも、生首が入れられていればもっともっとヒドイ悪臭が立ち込めているはずだ。
ホッと安堵して、次のゴミ袋に取り掛かる。
こんなことを続けていたら時間がどれだけあっても足りない。
佳奈は結んであるゴミ袋を手に持って重さを確かめ、異様に重たいものだけを確認していくことにした。
確か、人間の頭部はボーリングの玉くらいの重さがあると聞いたことがあった。
「あったか?」
近くの茂みや溝の中をくまなく確認していた慎也が戻ってきて訪ねた。
佳奈は落胆した様子で左右に首をふる。
こんなに頑張っても春香の首は見つけられない。
他のメンバーからもまだ連絡が来ないから、見つけていないはずだ。
ゴミ収集所から出てきた佳奈はスマホで時間を確認した。
もう3時になっている。
夜明けまであと2時間くらいしかない。
もしも春香の首を見つけることができなかったら、春香の首は地蔵の首になってしまう。
夢の中の人物はそう言っていた。
その地蔵とはなんのことなのか、どうしてこんなことに巻き込まれているのか、全くわからないことだらけだ。
佳奈と慎也が公園の中を調べていたとき、不意に慎也のスマホが鳴り響いた。
他の音といえば自分たちの足音と息遣いだけだったので、突然聞こえてきた無機質な音に飛び上がるほどに驚いてしまった。
「大輔からのメッセージだ」
確認すると、大輔が春香の首を見つけたというのだ。
その場所も書かれている。
2人は目を見交わせて、同時に走り出したのだった。
☆☆☆
メッセージに書かれていた場所はなんでもない場所だった。
周りに目立ったものは何もなく、片側が民家、片側が山になっているごく普通の道路なのだ。
佳奈と慎也が駆けつけたときにはすでに明宏と美樹の2人も到着していた。
「こんな場所にあったのか……」
慎也が道路の真ん中にポツンと、まるで飾りのように置かれている春香の首を見て呟いた。
春香は半目を開けてぼんやりと空中を見つめている。
切断された首から出血している様子はなく、青白い肌のそれは本当にただの置物ののように見えた。
あまりに人間味がない春香の首に余計に恐怖心が湧き上がってくるのを感じる。
気味の悪さも相まって、直視していることができなかった。
視線をそらす佳奈を横目に、大輔が半袖の上着を脱いで春香の頭部にかぶせた。
大切そうに春香の頭を上着でくるむと「春香の体に首を戻す」と言って歩き出した。
春香の体に首を戻す。
そう言ってもすでに首は切断されてしまっている。
布団に染み込んだ血は、大輔もしっかり見ているはずだ。
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