第3話

不安になるとだんだんジッとしていられなくなってきた。



《佳奈:今からみんなで集合する?》



もう夜中だけれど、少し家を出るくらいならみんな経験していることだ。



今回は遊びにでるわけじゃない。



友人の緊急事態かもしれないのだ。



《大輔:集合したい》



大輔はまっさきにそう返事をしてきた。



他のメンバーたちも集まることに異論はないようで、佳奈たちは慎也のファミレスに集合することになったのだった。




ファミレスに集合した5人はそれぞれに顔色が悪かった。



一番元気そうな慎也でさえも少し青白い顔をしている。



あんな夢を見た後だから仕方のないことだった。



「もう1度聞くけど、ここにいる全員が同じ夢を見たんだよな?」



大輔が5人面々を見回して聞いた。



佳奈たちは真剣な表情で頷く。



こんな場面で嘘をつくメンバーじゃないことは、何年かの付き合いでわかっていた。



「みんな変な家の中に入って、そこで春香を見てる。それに、黒い人影も」



美樹の説明に佳奈も頷いた。



あの人影が言っていた言葉が蘇ってくる。



「朝までに首を見つけろ、できなければ地蔵の首になる」



それを口にしたのは慎也だった。



慎也は腕組みをして考えてこんでいた。



「どういう意味だろうな」



大輔の言葉に反応したのは明宏だった。



明宏は銀縁ネガネをお仕上げて「きっと、そのままの意味だと思う」と、返事をした。



「そのまま?」



佳奈は聞き返した。



「そう。ここにいる全員が、首のない春香の夢を見た。朝までに見つけないといけないのは春香の首だ」



明宏の言葉に誰もが黙り込んだ。



朝までに春香の首を見つけ出せなんて言われても、意味がわからない。



「そう言われても……」



美樹が困ったように眉を下げる。



「首を見つけないと地蔵の首になるっていうのも、そのままの意味なのかな?」



佳奈は影たちの言葉を続きの方が気になっていた。



地蔵の首に人間の、春香の頭がついている様子をつい想像してしまう。



「そうなのかもしれない」



明宏は頷いた。



「って、言われてもなぁ」



慎也は考えに考えた結果、大きく息を吐き出した。



確かにあの夢は奇妙だったし、美樹とだけ連絡が取れないことは気になる。



けれど言ってしまえばただそれだけだ。



夢は仲がいい者同士が偶然同じものを見ただけ。



いわば、集団心理というやつが働いただけ。



そして美樹に連絡が取れないのは、単純に眠っているからだ。



「少し甘いものを頼もうか」



明宏がネガネを外してオーダーコールを押す。



自分たちの他にお客さんの姿はないから、すぐに来てくれるだろう。



「俺、帰りに春香の家によってみるよ」



そう言ったのは大輔だ。



さすがに自分の彼女のことが気がかりみたいだ。



「そうだね。そうしてあげて」



大輔が見に行くなら安心だ。



佳奈と美樹は顔を見合わせて頷きあった。



「店員さん来ないな」



すぐに来てくれるものと思っていた店員がなかなか姿を見せなくて明宏はつぶやく。



もう1度オーダーコールを押すと、店内にはチャイム音が虚しく響いた。



「ねぇ、なんだか静かすぎない?」



佳奈は顔をしかめて呟いた。



真夜中のファミレスとはいえ、店員の姿はあるはずだ。



だけどさっきから誰の姿も見ない。



入ってきたときも、自分たちで適当な席に座ったのだ。



その後15分ほどは店内にいるけれど客も店員も、はては窓の外を歩いている人影も見えない。



それに気がついた時、佳奈の体に寒気が走った。



ここは自分のよく知っている街だけれど、同時に知らない街のような気がしたのだ。



両手で自分の体を抱きしめて誰もいない店内を見回す。



気持ちの問題のせいか、急に肌寒くなってきた気がする。



「誰かいませんか!?」



明宏が立ち上がり、カウンターへ向けて声をかける。



しかし返事はない。



「おかしいな」



慎也も気になったのか、2人でカウンターの奥へと近づいていった。



その奥には厨房がある。



銀色の重たいドアを押し開けて中を確認してみるが、やはりそこにも人の姿はなかった。




ただ、ついさっきまで誰かが料理をしていたような、香りだけは残っている。



「どういうことだよこれ」



慎也が苛ついたようにつぶやく。



恐怖心よりも、わからないことへの怒りが先立っている様子だ。



「昔、似たことがあったらしい。誰もいない船の中にはついさっきまで人がいた形跡があった。それでもやっぱり誰もいないんだ」



明宏は説明しながら自分で身震いをする。



慎也はチッと小さく舌打ちをして、大股で席へと引き返した。



「誰もいない」



吐き捨てるように全員に伝える。

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