第2話
「え?」
今自分が踏んづけた物が真っ赤な液体であると理解するまで少し時間がかかった。
だって、布団が吸い込んでしまうほど真っ赤な液体がこぼれている中で、春香は眠っていることになるのだから。
起こしたほうがいいのかな?
再び気味の悪さが舞い戻ってきた佳奈は、今度は布団の縁を踏まないように注意しながら手を伸ばした。
「春香?」
声をかけながらうわぶとんを掴む。
春香から返事はないが、勢いにまかせて布団を剥ぎ取った。
瞬間……!
首のない春香の体が現れたのだ。
白い半袖のパジャマは上半身だけ真っ赤な血に濡れて、首から先が消えている。
首だけパコッと外されてしまったかのように、キレイな断面からは骨が覗いている。
「!!!」
佳奈は悲鳴にならない悲鳴を上げて飛び退った。
と、その時だ。
さっきまで誰もいなかった部屋の中に気配を感じた。
そちらへ顔を向けるといつの間にか背の高い、5人の人が立っていた。
足音も気配もなんも感じなかったのに。
5人は月明かりに照らされても指の先まで真っ黒で、その姿を見ることができない。
その上、その5人には頭部らしきものがなかった。
呆然としてその5人の影を見つめていると、不意に声が響いてきた。
「朝までに首を見つけろ、できなければ地蔵の首になる」
5人の声で間違いない。
それなのに口を開けている様子はなく、声も部屋中にこだましている。
「朝までに首を見つけろ、できなければ地蔵の首になる」
「朝までに首を見つけろ、できなければ地蔵の首になる」
ぐわんぐわんと脳を揺るがすような声に、佳奈は両耳を塞いだ。
それでも声は脳内に直接聞こえてくる。
「朝までに首を見つけろ、できなければ地蔵の首になる」
「わかった、わかったから、もうやめて!!」
叫んだ拍子に壁に背中をぶつけたかと思うと、目が覚めた。
「キャア!」
短く悲鳴を上げて飛び起きた時、佳奈はベッドから床に落下してしまっていた。
背中がズキズキと痛み、呼吸は派手に乱れている。
「夢……?」
月明かりで浮かびだされるのは見慣れた自分の部屋だ。
佳奈はホッと息を吐き出して額に流れる汗を手の甲でぬぐった。
次にすべてが夢だったことに安堵し、そして自分の寝相の悪さに呆れてしまった。
ベッドから落下するほど寝相が悪かったのかと思いながら、ベッドの上に這い上がる。
それにしても嫌な夢。
友人の首がなくなる夢。
布団からにじみ出てきた血の感触はやけにリアルで、思わず足の裏を確認してしまった。
もちろん血がついていることはなくて、ホッと胸をなでおろす。
すべては悪い夢だったんだ。
布団に戻って時間を確認しようとスマホを手に取ったとき、手の中でスマホが震えた。
時刻は夜中の1時だ。
12時くらいにベッドに入ったからほとんど眠っていないことになる。
それから佳奈は今届いたメッセージを確認した。
《美樹:みんな、起きてる?》
6人のグループメッセージで、美樹が呼びかけている。
《佳奈:今目が覚めたところ。悪夢見た~》
《慎也:俺も起きてる》
すぐに慎也からメッセージが来て佳奈の頬はゆるんだ。
いつも遅くまでゲームをしていると言っていたから、今日もまだ起きていたみたいだ。
さっきの悪夢で悪くなった気分が、少しずつほぐれていく。
《明宏:起きてるぞ~。俺も変な夢で飛び起きた》
美樹の彼氏の明宏だ。
変な夢ってどんな夢だろう?
でもきっと、さっき自分が見た夢よりはまともだろう。
《大輔:俺も嫌な夢見た。すっげー汗かいてる》
春香の彼氏の大輔からのメッセージだった。
これで5人はこのメッセージグルームに今いることになる。
いないのは、春香だけ……。
途端に嫌な予感が胸に渦巻いた。
胸の奥をかき回すような、得体のしれない不安。
《佳奈:みんな、夢ってどんな夢だった?》
これは聞かずにはいられなかった。
5人中3人が同じように悪夢や変な夢を見ているのだから。
《明宏:なんか、ゆがんだ変な家が出てきたんだ。その中に入っていったら、部屋の中で誰かが寝てた。その人の顔は見えないのに、なんでか春香だなぁってわかったんだよ。夢の中野話しだから、まぁ、そういうこともあると思う。それから声をかけたんだ。部屋の中は嫌な雰囲気だったし、春香を起こそうと思った。でも……》
そこでメセージは途絶えた。
まるでその後の展開を書いて良いのかどうかわからなくて、結局書かずに送ったという様子だった。
だけどこれだけで十分に理解できた。
佳奈と明宏が見た夢は全く同じものだということが。
《美樹:実は私もその夢を見たの。それでビックリして飛び起きて、なんか不安になったからみんなにメッセージを送ったの》
「美樹も!?」
思わず声を上げてしまう。
佳奈はすぐさま時分も同じ夢を見たと説明した。
5人の黒い影に言われたことも、鮮明に記憶している。
それからメッセージのやりとりでここにいる5人全員が同じ夢をみたことがわかった。
佳奈の背中に嫌な汗が流れていく。
こんな偶然あるだろうか?
いくら中の良い友人といっても、夏休みに入ってからは1度も遊んでいないのに。
そしてもう1つ気がかりなことがあった。
いまここに春香が来ていないことだ。
《大輔:さっきから春香と連絡がつかないんだ。寝ているだけならいいんだけど》
大輔の不安がこっちにまで伝わってくる。
全員で見た気味の悪い夢。
そして今ここに春香が来ていないということ。
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