第3話 厚かましいやつ
結局二次会どころか三次会までまで行くことになってしまった。
しかも、私は気がついたら氏家さんの横で笑っていた。とにかくよくしゃべる、何を話したかは覚えてない、要するにたいした話はしなかったということだろうけれど、飽きなかったし時間の経つのも忘れてしまった。
「じゃ、俺、佐野さん送っていきますから」
「いいですよ、すぐですから」
「あほな、佐野さんみたいなきれいな女の子、一人で帰らせれるかいな」
「明日香ちゃん送ってもらいな、襲われたら責任取らせればいいだけだから」
周りは適当なことを言う、というより明らかに面白がっている。だれかと誰かがくっつくという話は誰もが好物だ。
確かになれた道とは言っても、一人で帰るのも不安はある。田舎の町は夜の十二時に人通りはない。
襲われたら、まあそんなことを忘れさせるぐらい馬鹿話で笑わせてくれた。
「明日、暇ですか、デートしませんか、俺の作ってる港見に行きませんか」
隣の町で、新しい漁港が作られている。その防波堤の設計をしていると話をしていた。
結局押し切られてしまった、まあ、彼に会いに行けるわけでもないし、特にやることもない、そんなきもちがあった。
「あした、十時ね」氏家はニコッと笑うと、氏家は帰って行った。
こっそり玄関を開けると、そのまま顔と手だけを洗い、二階に行った。
明日香の姉弟は三人だが、弟は札幌に、姉は小樽にいる。この街に残っているのは明日香だけだ。
父親は国鉄の職員だったが、この四月に早期退職している。暇を持て余して顔を見ると何か文句を言われる。
そんなこともあってあまり家にいたくないというのも、氏家の誘いに乗った理由かもしれない。
服を着替えてタバコに火をつけた。彼と付き合い始めて覚えた、たばこだ。でも今日は彼のことを全く思い出さなかった。どうしたんだろう、飲みすぎかな、毎日つけている日記も面倒で今日は書く気にならい。
まあ、いいか。とっとと寝ることにした。寝不足の顔を氏家に見せたくはなかった。
「今日ちょっと出かけるね、晩御飯はいらない」
「お前、昨日遅かったけど、何してたの」
「ああ、佐々木先生や、尚美先生とちょっと飲み会」
「それならいいけど、嫁入り前なんだからね」
「はいはい」
嫁入り前か、男と不倫してるって知ったら何言われるか、なんかさみしいな。
チャイムが鳴った、約束の五分前だ。
しまった玄関に出ておけばよかった、もう少しのんびり来るだろうと思っていたのだ、氏家は時間に正確なのかもしれない。
案の定、明日香より早く母親が玄関を開けた。
「おはようございます」
「あの、どちらさま」
「明日香さんとお付き合いさせてもらうかもしれない、つまり今は単なる友達の氏家といいます。開発局に勤務しています」
「あ、はい、それはどうも」
「まって、今、行きます」
明日香は慌てて階段を下りた。
「おはよう、あ、おかあさん、ちょっと遅くなるかもしれませんけど、ちゃんと送り届けますので、安心してください」
「あ、はい、よろしく」
「じゃ、行ってくるね」
明日香は冷や汗が出た。こいつは何を言い出すんだ。
「氏家さん、私付き合うなんて言いました?」
「ううん、だから、付き合ってるなんて言わへんかったやろ」
そりゃあ、そうだけど、あんな言い方をしたら母親は絶対に誤解するに決まってる。
「そのうち付き合ってます、明日香さんを僕に下さいってあいさつに行くさ」
「はあ、なんでそうなる」
「可能性の話、可能性。だって俺のこと嫌いやないやろ」
何処から来るんだこいつのこの自信は。何かペースがおかしい。
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