第18話 File4 潜む闇5

この作品はフィクションであり、実際の人物・団体・事件とは関係ありません。












煌びやかなステージ、飛び交う黄色い声援。それは全てはそこに立つ男へと向けられた物だ。

彼の声による歌で観客の女性は魅了され、夢中になる。更に加えて男のルックス、身長は180Cm近くと長身であり柔らかな金髪、派手なロックテイストな黒衣装に身を包んで曲を歌い上げる姿はロックを意識してるのか激しさが感じられる。



男にとってそれは何時も通り、日常だった。

皆が自分を見る、自分を注目する。

光り輝くスポットライトに照らされ浴び続ける。そして今日も男を中心としたコンサートは行われ終盤を迎えていた。



「これで今日の俺の輝きは終わりだ!明日も輝き続ける為に光から暗闇へと潜んで休息の時間を迎える、そしてその時間が終われば再び闇の世界を抜けて光の世界へ舞い戻って皆の前に立つ!それまで待っていてくれよ!」

コンサートの終わりに決め台詞のような言葉を残して男はステージを降りる、今日のコンサートはこれで終わりだ。

残ったのは黄色い大歓声、次も人々はこの光り輝くステージを見てみたいと願うだろう。そして近いうちにまた来るだろう。



しかし人々は、そして男は知らない、このコンサート。男の言う光の世界にもう二度と舞い戻る事が出来ない、見る事が出来ないという事を…。











「アキラ…いや、鈴木太郎だな」

黒キャップを被り紫のシャツに青いジーンズと彼はコンサートの時とは異なる普段着に着替え、カバンを背負って帰宅しようとしていた。

何時もだったら帰って豪華なタワーマンションの最上階に住む自分の家の最高級ソファーに座り高級ワインを1杯飲んで至福のひとときを味わう、それが男…アキラの日常だ。そんな時に自分の嫌いな地味でありふれた本名で呼ばれて酷く気分を害されるがその方向を向くと……。



「何か用で……!?」

アキラの前に居たのは警察手帳を掲げる私服警察官達だった。これにアキラはギョッとする、まさかコンサート終わりに警察が自分に来るとは夢にも思わなかった事だろう。

「星見純一の件で話を聞きたい、署までご同行願おうか」










「俺が殺人に関わってるだ!?冗談じゃねえ!」

警察署へと連れてかれたアキラは取り調べで純一殺害の疑いがかかっており、それを追求された。勿論アキラはこの容疑を完全否認。人気男性アイドルであるアキラが殺人となると世間は大騒ぎ、そしてアキラはおそらく二度とその世界に戻っては来れないだろう。

今までの地位全部が消える、そんな事は絶対に避けたいアキラは必死だった。自分の居場所はこんな所じゃない、このような刑事達に囲まれて問い詰められる狭い空間のはずがない。こんな所からはさっさとおさらばして光ある表の世界に戻ろうと……。



「現場付近からアクセサリーが落ちてたんだが…これ、あんたのじゃないのか?」

「確か同じ物身につけてたよな?最近身につけていないそうじゃないか」

しかし足掻くアキラに刑事は証拠となるエメラルドのペンダント、現物ではないがその写真をアキラへと見せた。そのペンダントを最初に見つけたのは警察ではなく探偵の正であるというのを此処の刑事が知る由は無いだろう。

そしてアキラも正がペンダントを見つけた事など知れる訳が無い。

「そんなの珍しくも無いやつだろうが…」

「珍しいだろ、行きつけの宝石店で作らせたオーダーメイド物だそうじゃないか。それを珍しくない一般的な物だと?更に言うなら、ペンダントに指紋が付いてたんだが…あんたのと照合しようか?あんたのじゃないなら一致するはずが無いだろうな」

「っ……!」



警察が調べに調べ、そのペンダントは特別製であり一般で売られている物ではなかった。正が宝石店を探し回っても見つからない訳だ。これに関しては警察の執念の捜査、その努力が実った結果だ。それが結果として犯人を今追い詰めている。





「……あいつが、俺を調べて記事にしようとしなければぁ!!」

アキラの怒りの矛先は机に向けられ拳を叩き、更に既に死んだ純一へと向けられていた、純一はアキラの事を調べていたらしく彼は裏の社会と繋がっており度々その連中と付き合っていて純一はそれを突き止めて記事にするつもりだった。その姿をアキラに見られ、アキラは純一の記事を止めようとしていた。それが殺人にまで発展し、事件は起こった……。











こうしてアキラが逮捕されたという件はトップニュースで扱われ、日本中に広まる事となって世間を騒がせた。



「え、えええ!?アキラ逮捕!?」

事務所のテレビで流れているニュースを見て飲んでいるココアを吹き出しそうになったのはアキラのファンである涼。彼女だけに限らずアキラのファンにとっての衝撃はかなりのものだろう。とりあえずココアを吹き出すという大惨事だけは避けられ、涼は驚きが残りつつココアを飲み干した。

「芸能人の逮捕とか時々あったりするけど、とうとう涼の好きな芸能人までそうなったか…」

「そんなぁ…アキラが悪い事してたなんて…」

スクランブルエッグを味わう明はアキラの逮捕にそんなショックを受けるような事は無かった、そこは同じ双子でも涼とは対照的な反応だった。一方の涼は分かり易いぐらいにショックを受けている。

その様子を正はココアを飲みながら見つめていた。


アキラが犯人である、純一がアキラに関する資料があれだけあったにも関わらずアキラに関する記事が何処を探しても無い。書く前に死んだか書いた後に殺されてそれを持ち去られたのか、いずれにしてもそうなれば現場に落ちていたペンダントの証拠と合わせればアキラに疑いの目は向けられる。そしてこうしてアキラが逮捕されたという事は警察の方でアキラを落としたという事だろう。


これがテレビの探偵とかならば自分で犯人の所まで行ってお前が犯人だと示して推理を披露し、指摘していく所だろうが現実でそのような事はしない。

実際に自分の方で見つけた証拠などは微々たるもの、大抵は警察の努力の賜物だろう。町の探偵に出来る事など限られている、しかしそれでこうして犯人は明らかとなり逮捕された。これがベストな結末だろう。



その時事務所のチャイムが鳴り、正は飲んでいたココアのカップを置いて玄関へと向かいドアを開けた。そこに立っていたのは言わずと知れた知り合いの刑事。白石の姿があった。

「よう神王君」

「白石さん、この時間に珍しいな。良ければココア1杯どうだ?」

「おお、いただこう。キミのご馳走するココアは中々美味いからな」

正は白石を事務所へと招き入れ、ココアをもう一杯用意する。白石の姿を見かけた明、涼は挨拶。その後に二人は再びアキラ逮捕のニュースが流れるテレビを見る。そのニュースに白石の顔も自然と険しくなる



「どうした白石さん?犯人逮捕されたってのに全部解決、とは程遠い顔だ」

白石の様子に正はココアを差し出しながら気になっていた。アキラが純一殺害の真犯人であり逮捕され、事件は解決。瑛子の傷がそれで癒える訳ではないが、その仇はこれで討てた。だが白石の顔は事件解決とは遠い、正にはそんな気がしてならない。

「……鈴木太郎、いや…アキラは確かに殺人に関わっていた。しかし……奴一人にしてはどうも手際が良い。たった一人で殺害し、死体を別の所に運んで…」

「白石さん、それは…つまり犯人がもう一人居るって考えているのか?」

「うむ…現にアキラ本人も自分一人で殺したんじゃないと言ってるが、現場にはもう一人居たという証拠は無い」

アキラは殺人を犯した事は認める、しかし個人でやってはいないと主張しているらしい。アキラに前科があって既に殺しの経験があるなら手際良く一人で犯行を行えそうなものだが調べた限りではその前科は無かった。本当に一人で殺人を行い、一人で死体を現場へと運んだのかと白石は気になっており引っかかっていた。



事件としては純一が自分の良からぬ記事を書いて世間に晒されるという事をアキラが知って自らの地位を守ろうとして彼を殺害。それが動機であり殺人事件が起こった、そのアキラが逮捕されてこの事件は解決かと思ったがどうにもスッキリしない解決だ。

アキラの他の犯人の事もだが、正としては消えた永倉の行方が気になっていた。

もし何かあったとしたらアキラが彼に危害を加えたか最悪の場合は亡き者にしたという可能性も存在する。

「まさかアキラ…永倉まで殺したか?」

「我々もその可能性を考えアキラに追求はしたよ、だが写真を見せてもそんな男は知らないと言って来た。とぼけているのかそれとも本当に知らないのか…」

ココアを飲みつつ白石は取り調べの事を振り返っていた、永倉にまで危害を加えたのかとアキラを問い詰めはしたが永倉の事は知らないとアキラは言い張った。純一殺害の事は認め、既に殺人罪を一つ背負っている。此処に来て更にもう一つの罪を背負いたくなくて嘘をついているのか、永倉に関しては本当に何も知らなくて無関係なのか。

それには永倉を見つけなければ進展はおそらく難しい。だが警察の方で捜索は進めているものの未だ彼の姿を見つける事は出来ないでいた。


「永倉か……彼について調べてはみたが両親とは死別しており、兄妹もおらず天涯孤独の身で世話になってそうな所に関して中々見つからないんだ」

「天涯孤独…」

永倉とはあの定食屋で共に食事をしたが天涯孤独の身になっていたとは正も流石に知らなかった。身寄りが誰もいないとなれば何処に居そうとかの予測が困難になる、それが未だ見つかっていない一つの理由なのだろう。

「神王君と友人という事はキミの方で何か連絡が来るかもしれないのではという期待もあるのだがな」

「残念ながら連絡は一切無い」

白石の期待を裏切るようで悪いが正のスマホに永倉からの連絡は一切入って来てはいない。他に身寄りが無くて残った僅かな可能性は友人である正への連絡と白石は考えたのだが、永倉は正に連絡を入れる気はこの先無いのか、いずれは入れるのか、それは向こう次第だった。



「まあ、連絡が来たらすぐ俺に教えてくれよ。では、ココアご馳走さん。今日も一日頑張れそうだ!」

ココアを飲み終えた白石は双子にも挨拶した後に張り切った様子で事務所を後にした。同じココアを飲んでいるのだが正にはあそこまで張り切れそうにはない。


事件は片付いたがスッキリしない、だがこれ以上は自分がどうにか出来る事は無い。警察のこれからの捜査に期待するしか正には道が無かった。







































狭く暗い路地裏、そこに男は一人で居た。酷く活動しづらい環境、しかしそんな事は気にもとめない感じで男はスマホで電話をしていた。

「アキラの馬鹿が捕まったのはもう知った、だから俺に全部任せれば良かったのに無駄にあいつ出しゃばりやがって…余程あの編集長の男が憎かったと見える」

男はアキラの名を口にしていた、それはアキラと関係する男。そして獄中でアキラがもう一人居ると主張していたその男。しかし男はその証拠を残していない、そしてアキラの前にその顔を晒さず声も変えて接していたという徹底ぶり。


それもそのはず、男はその道のプロだからだ。


「とにかく俺は当分の間に身を隠させてもらう、何しろ探偵と関わっちまったんだからな。まあそれが腕利きなのかポンコツなのかは知らないが念のためだ」

そして男は探偵神王正を知っている、その正の方もおそらく…いや、確実にその男を知っている。



「流石に予想外だったぜ、あんな所で学生時代の旧友に会うなんてよ。それが更に探偵になっていたなんて…誰がそんな事予想出来る?」



それは姿を消して失踪したとされている永倉新一郎、彼はあのマジリアルで働く社員であったが更にもう一つの顔が存在した。

裏の世界で暗躍しているプロの殺し屋、それが彼のもう一つの顔である事を正は知らない……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る