第17話 File4 潜む闇4

この作品はフィクションであり、実際の人物・団体・事件とは関係ありません。






純一の殺人事件に関わっている可能性があるかもしれない遺体発見現場に落ちていたエメラルドのペンダントについて正は調べ始めた。最初は茜に聞いたがすぐには思い出せそうにない様子だったのでその間に宝石店へと行って聞き込みに回るが、どの宝石店もそれについての心当たりは無いという。

日暮れまで聞いて来たがこれといった成果が出ないまま一日の調査が終わろうとしていた時に茜から連絡が入りペンダントについて思い出したらしく、意外な事にそれは涼が以前ファンだと語っていた人気男性アイドルことアキラが身に付けていたもののようだ。なんとも想定外の名が出たものだが彼がそれと同じ物を付けていたからと言って即犯人の候補にはならないだろう。

そんな時に白石から電話が入りマジリアルを調査していたはずの永倉が姿を消したと、突然の旧友の失踪の知らせを正は受けた…。








「どういう事だ白石さん、永倉が姿を消したというのは?」

正の頭の中に思い浮かぶ永倉の顔。かつての同級生が調査に行っていたはずが失踪、誰かに連れ去られたのか、それとも自ら姿を消したのか。可能性を落ち着いて考えつつ白石へと電話越しで訪ねた。

「先程も言ったとおり彼は会社にはおらず、更に自宅にも戻っていない。こうなってくると…」

「……」

正は白石の言わんとしていた事は察した、純一が殺害されて部下である永倉が姿を消した。正とて永倉の全部を知っている訳ではない、だが突然旅行に行ったにしても正にマジリアルの調査を任せてほしいと言っておきながらそれを放り出して向かうような勝手な男とは思えなかった。

「それで失踪前に小柄な黒スーツジャケットの少年のような人物…すなわち君と会話をしていたというのが目撃され、こうして電話をしているのだよ。何か知らないかと思ってね」

「…永倉は純一が死んだと聞いた時、俺に探偵でこの事件を調査してると知ったらマジリアルの調査は自分にさせてほしいと言ってきたんだ。部外者の俺だとすんなり内部調査、とはいかないから申し出て来た時助かったと思ってそのまま任せて別れた…」

白石に詳しい事情を伝える中で正は内心で後悔していた、永倉がもしも犯人に狙われてそれで連れ去られたとしたらその考えを考慮せずそのまま任せてしまった事を。


あの時に永倉と無理を言って行動を共にしていればこうはならなかったかもしれない、しかしいくら後悔をしようが既に遅かった。悔やんでも永倉が、そして純一が戻って来る訳ではないのだ。



「つまりその調査を彼に任せた訳だ、そして姿を消した……同じ出版社の者がこうも立て続けに絡んでいるとなるとただの偶然では片付けられまい。彼の身に何かが起こったと考えた方が良さそうだな」

「永倉もまさか純一さんと同じように……」

「そうならないように今警察の方で全力で行方を探している」

最悪の結末は正、そして白石の頭にもよぎっていた。純一と同じように犯人に殺害されるという結末。それはなんとしても避けなければならない。

「とにかく俺はこれからこの会社に聞き込みだ、神王君。君も来るか?」

「ああ、同行許されるなら」

白石は正と共にマジリアルの調査を開始しようと出版社内に足を踏み入れて行った、思えば正はマジリアルの社内に入るのはこれが初めてだ。二度ほど会社前に来ていたがいずれも永倉と会っていて彼と話して社内にまでは入る事は無かった。



マジリアルの社内に入ると皆が忙しく動いていた。日々情報を扱っている出版社の日常といった所か、そこに純一の死による影響は感じられなかった。

確か純一の扱っている情報は芸能であり、その部署へと行けば彼のデスクもあるはず。白石は警察手帳を見せると一人の係の者が部署へと案内する。立場的には正も白石と同じ警察官に思われているかもしれない、探偵であるとは知らずに。


「此処が星見純一さんのデスクですか?」

「ええ、そうです」

芸能を扱う部署へと通され、純一のデスクを見つける事はそう難しくはない。彼は編集長であり一番奥にそのデスクはあった。

純一のデスクは綺麗に整頓されている。

「…調べても構いませんか?」

「勿論です、どうぞ」

許可をもらうと白石はデスクを調べ始めた、デスクの引き出し等を開けてみるが特にこれといったものは入っていない。

正も白石を手伝って隅々までデスクを調べる。綺麗に整頓されているよりかは散らかっている方が何かしらの証拠を見つけやすかったりするが、何も見つけられない。

「駄目だ……そっちは?」

「…こっちも空振りだよ」

白石の方は見つけられず、正の方へと期待したが正も首を横に振る。純一のデスクには何の証拠も残されていない、その時正は思った。もしかしたら永倉が失踪前に此処に来ていたのではないかと。


「あの、僕達が此処に来る前に他の誰かが星見純一さんのデスクに居たりとかしませんでしたか?」

「誰か………ああ、そういえば永倉の奴が何か編集長のデスクに居たかな」

正の思った通り、永倉は失踪する前に此処に来ていた。永倉と分かれる時に彼は確かにマジリアルの社内へと入って行って、もしかしたら先に何か証拠を見つけており彼が持っていったのかもしれない。

「他に誰かいませんでしたかな?」

「他は…誰もデスクに近づいてもいませんよ、皆はどうだ?」

白石が他に誰か純一のデスクに近づいたかもしれないと思って尋ねるが社内の誰も永倉以外の者がデスクに近づいた姿を見てはいない。

つまり永倉が証拠を持ち去った可能性がある、その後に行方をくらませたのはやはり犯人にそれを知られたからなのだろうか。

「永倉がいなくなったとの事ですが、彼の行きそうな場所とかに心当たりはありませんか?」

「永倉の……いや、知りません」

「僕も…」

「私も」

正は永倉失踪の手がかりを見つけようと社員に彼の向かいそうな場所について尋ねるが誰もそんな場所は知らない。

「そもそも永倉の奴…編集長以外とは全然付き合い無かったですからね、最低限の言葉を交わす程度で飲みとかにも行きませんし」

永倉は上司である純一以外とは仲の良い者は社内で存在しなかった。つまり誰も純一が失踪した後に何処に行きそうかというものは分かりようが無い。




「こいつは…まいったな」

正と白石はマジリアルを後にし、外へと出て来ていた。天を見上げる白石、これから先どう捜査しようか頭の中で必死に考えている事だろう。

純一のデスクに何か残っているかもしれないと思ったが永倉が持ち去った可能性があり、その永倉は失踪。その行き先を社内の人間は誰も心当たりが無かった。

「そういえば白石さん、遺体発見現場からは何か新しい事は?」

正は自分が手が付けられない現場について何か進展は無いかと期待しつつ白石へと訪ねた。

「ん?ああ、それなんだがな。現場近くの路地裏に宝石のペンダントが落ちていた」

「路地裏?……それって現場と路地裏繋がってるのか?」

「その通りだ、そうでなければあれはただの落し物という事になってたが…関係があるかもしれないと思いペンダントは今鑑識の方が調べている」

警察の方でもあのペンダントに気づいたようで、路地裏と現場は繋がっている事が分かった。そうなるとペンダントは事件と関係している可能性が出て来る。

正の方で現物を持って行って調べに行っていたらそれはそれで問題になっていた事だろう、そうなる事は分かっていたので正はペンダントを見つけても持ち去らずに写真だけ撮ったのだ。そしてペンダントに関しては茜と涼の言葉を思い出す、あれは人気男性アイドル歌手のアキラの物だと。しかしペンダントを持っているのが彼だけとは限らず、他に持っている者は居るはずだ。とはいえ宝石店で聞き込みをしてもその店で取り扱っている物ではないと言われてばかりで調査は難航しているのだが。



「それじゃあ俺はこれから警察署へ戻る」

「ああ、俺も俺で調べてみるよ」

白石は秋葉原の警察署へと戻り、正は調査を続ける。それぞれが事件解決を目指して歩く道は違えど進み始めた。

しかし調査を続けると言ってもどうしたものか、とりあえず思考を落ち着かせようと糖分を補充したいので正は近くの自販機でホットココアを購入。

プルタブを開けて飲めば暖かく甘い味が体に染み渡ってくる、茜のココアには及ばないが今はこれで充分だ。

社員達は永倉の居場所を知らないようで付き合いも最低限。あれ以上訪ねてもその行方については何も分かりそうにはない、現場に関しては警察の方が的確に調べており正がそこに加わる必要は無い。むしろ余計な邪魔になってしまうだけだ。

だとしたら残る心当たりはやはり瑛子と共に過ごす純一の自宅か、もう一度調べ直して何か出てくれば儲けものだが過剰な期待はしない方がいいだろう。



正は再び純一の自宅がある代々木へと向かった。




通い慣れた代々木の道、もう何度通った事か。真っ直ぐ純一の家へと歩き、その家の前に正は立っていた。そしてインターホンを押す。

少し待つと瑛子がドアを開けて姿を見せた。

「神王君…あれからどう…?」

「…少しずつ進展はしている、とは思う…」

瑛子は事件がどうなっているのか気になったが詳しい事は警察ではない正には分からないが徐々に前進はしていっているのは感じている。ペンダントが事件と無関係ではない可能性が出て来た、その落とした人物が事件とどう関わっているのか。どちらにしても瑛子を前にして正は断言が出来なかった。

「それで今日は?」

「もう一度純一さんの部屋を見せてほしい、構わないかな?」

「え?ええ、それは構わないけど…」

一度調べはした、しかしもう一度詳しく集中して調べれば何かが出て来るかもしれない。此処まで来ると根拠は無い、ただの正の探偵としての勘だ。ただの勘と言われればそれで終わりだが。

瑛子の案内で正は再び純一の部屋へと通される。



二度目の純一の部屋、特に変化は無い。確かパソコンの方を調べて彼が過去に記事にしていた芸能人達が結構居て彼らが恨んで純一を殺害したのではという可能性を考えていたがいずれも刑務所に服役かこの世を去っている。それでも彼らの身内ならばその復讐を果たす可能性がある。とはいえあれだけの芸能人達、それも関係者達を片っ端から細かく調べるのは大変な作業となるだろう。


次に目に付いたのはびっしりと並べられた本棚。これに関してまだ詳しく調べてはいない、全部を見ればこれもまた時間がかかるが正で調べられる手がかりは此処ぐらいしか今の所無い。手間だろうが挑むしかない、正は本棚の前に立つと本を手に取る。


パラパラと本を捲っていき、何か大事なメモでも挟まっていないかと、そんな期待もあったのだが生憎ヒラヒラとメモが落ちるという事は無い。

本の内容に関してはファッションやらグルメやら、更には芸能人の好きなアニメ特集とかでジャンルはバラバラだ。こういうのを読書するのが生前の純一の趣味なのかそれともやはり仕事の一環なのか。


新たな手がかりは得られない、本は無関係か?






「…………ん?」

正は本を見ている内に何かに気がつく。その気づいたものが何か、自分でもう一度確認しようと正は再度本を読み直した。

ファッションにグルメ、色々なジャンルで何も関係無いように見えるが一つの共通点を見つけた。それはどの本にも芸能人が載っている事だ。そして正は載っている芸能人についてもう一度パソコンで調べていった。するとそれは純一の記事に載った芸能人だという事が分かった。

この一度だけではただの偶然の一致なので正は更に読み進めては芸能人をパソコンで調べていく。最初の芸能人のみならずその後も本に載っている芸能人達がパソコンの方に名前がある芸能人ばかりだ。



つまり純一はこの芸能人達について調べようと資料として本を買ってこの自宅の自室本棚に並べていた。

それを思うとよくこれだけびっしりと多く並べられ、彼はなんとしても記事にしたかったのかという執念が伺える。

正は更に本を読み進める。他に該当する芸能人はいないかと。



すると見た事のある姿が本に載っていた。




それは人気男性アイドル歌手のアキラ。



更にその本だけではない、他の本でもアキラが載っているのが数多く存在した。ただの偶然の一致にしては多過ぎる。しかしパソコンにはアキラの名は無い、その記事も無かったと思われる。



「(まさか……)」

此処で正は一つの推理が浮かんで来る。

アキラに関する資料があってアキラの記事だけが無い、そして現場付近には彼に関連するエメラルドのペンダント。

人気男性アイドル、記事には明るい笑顔があったが今となってはそこに潜んでいる闇が正には見えたような気がした……。

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