第16話 File4 潜む闇3
この作品はフィクションであり、実際の人物・団体・事件とは関係ありません。
純一の殺人事件を調査する正は瑛子の自宅にあるパソコンを調べていた、そこに載っていた純一によって芸能生命を絶たれたであろう芸能人達の名前。彼らの中に犯人が居るかもしれないと白石へ連絡するがいずれも犯行が行える状態ではない事が伝えられた、他に何か手がかりは無いかと次に正は純一の仕事場である出版社マジリアルへとやって来た。
そこで再会したのは浮気調査の時でも世話になった正の中学時代の同級生である永倉、彼は上司である純一の死を知るとショックを受けつつマジリアルの調査を自分からすると正に協力するのだった。
次に正は純一の遺体が発見されたという現場へと足を運び、その周辺で発見したのは宝石のペンダント。これが関係しているのかただの無関係の落し物か正はペンダントについて調べに行く。
じっくり腰を据えて考えたかったのか、ただ水分補給がしたかっただけか定かではないが正は代々木にあるカフェに入り、奥の席へとウェイトレスに案内され座っていた。
チェーン店ではない個人経営のようで客層はサラリーマンや女子高生に子供連れの主婦と様々であり正のような者が来店しても特に珍しい事ではない。正の傍には派手なパフェを頼んで自撮りしSNSに上げる女性達の姿が見える、こういった者達がネットの口コミで広め店の繁盛に繋がっているのかもしれない。今のネット社会ならではだ。
正はココアを注文した後に改めてスマホを見て先程撮ったペンダントの画像を見る。
緑色の宝石、エメラルドが入っており中々高価そうなアクセサリーではあるがこういうのは何処で売っているのか、正はアクセサリーに関しては疎い方でジュエリーショップにあるべきだろうかと思ったがアクセサリーの店の方があるのかと思い直している。
正にとって中々の難題であり答えは中々出てこず、頼んでいた店の特製ココアを飲んでも楽しんで味わう暇も無い。
そこにふと自撮りしてる女性達の姿が目に止まる。彼女達はアクセサリーを色々身に付け、そういった装飾品が好きなようだ。正は此処で思いつく、こういうのは女性に相談して聞いた方が早いかもしれない。かと言って今居る女性達に相談ではない、いきなり見知らぬ男に尋ねられたら不審に思われて逃げられるか通報される可能性が高くリスクが大きい上に返ってくるリターンも微々たるものかもしれない。
そこまでの冒険をせずとも知り合いの女性の所へ行けば済む事だ。
此処に続いて2連続のカフェとなるが、正はココアを飲み干して会計を済ませると店を後にした。
再び電車へと乗って今度は秋葉原へと帰って来る、慣れた通り道を行き正の事務所が見えてきた。しかし彼の目的は事務所に帰る事ではなく下の方の喫茶店だ。
正の馴染みの店である喫茶店ヒーリング、何時もなら此処でステーキでも食べてゆったりと過ごしたい所だが今回の目的はそれではない。
「あ、正君いらっしゃーい」
「茜さん、ホットココア一つ」
店内に入ると明るい女性の声に出迎えられながら何時もの喫茶店の光景が正の前に広がっていた。正は座り慣れたカウンター席へと腰掛ける。
刑事の白石大樹の妹である白石茜、店の店長兼オーナーの彼女が何時も通り働いており他にも二人のウェイトレスもまた何時も通りに勤務している。今の所客は正ぐらいしかいない、今ならば邪魔にはならないだろう。とりあえず客として今日2杯目のココアを注文する。
さっきの店ではゆっくり味わってはいなかったが茜が入れたココアは格別に美味い。今まで歩き回っていた疲れも吹き飛ぶぐらいだ。しかしだからと言って何時までもココアで時間を忘れる訳にはいかない、今のうちに訪ねたい事を訪ねなければ。
「茜さん、いきなりで悪いけど…アクセサリーとか宝石の類は詳しいかな?」
「アクセサリー?今の正君の依頼で何か関係してるとか?」
「まだそこはどっちとも言えない」
いきなり正がこんな事を聞くのは今抱えている依頼が関わっているんだと茜はこれまでの付き合いから分かった。彼の方はそういうのを趣味とはしていない、茜の誕生日プレゼントにしても彼女の誕生日はまだ先の話だ。ならば仕事絡みで訪ねて来たと考えて良いだろう。
「そんな詳しいという訳じゃないけど、何か気になる事でもあるの?宝石絡みで」
「ああ、これについてちょっとね…」
正はスマホを取り出し例のエメラルドのペンダント、その画像を茜へと見せた。茜はその画像をじぃっと見る。
「うーん……何か何処かで見た事ある気がするけど…」
どうやら茜には心当たりがあるらしい、だがその記憶を鮮明にするには中々苦戦しそうだ。
「店の常連さんで付けてた、とかではないはずだし…えーと…」
「茜さん、無理せずゆっくり思い出してくれていいから」
正としてはあのエメラルドに関する情報、手がかりは欲しい所ではあるが茜にあまり負担はかけるつもりは無い。ずっと前に見た事があるかもしれない物を今思い出せというのは難しい、それよりも正の方で調べられる所を調べた方が効率的にも良い。
宝石に関してはジュエリーショップに行き、店員辺りに聞けば何か分かるかもしれない。
そうと決まれば正はココアを飲み干して席を立つ。
「あ、もう帰るの?残念だなぁー」
「また来てよー今度は仕事抜きでゆっくりしてって」
双子の姉妹ウェイトレスである真鈴、花鈴に見送られて正は店を出た。美女二人に見送ってもらうのは男として悪い気はしない、今の事件が片付いたら二人の言うように今度はこのヒーリングでゆっくり休みたいものだ。
都内にジュエリーショップはいくつもある、それはこの秋葉原とて例外ではない。普段縁のない場所なのでスマホ検索は欠かせない、正が場所を調べると近くにseodraという名の店がある事が分かったのでそこを目的地と決めて歩く。
その場所は大体ヒーリングから徒歩数分ぐらいで到着した。
seodra
ゲール語で宝石という意味を持つ、その名を店名にして経営しているようだ。正は店の中へと入っていった、勿論宝石を買う事が目的ではない。例のエメラルドについて調べる、それがやるべき事に変わりは無い。
正は近くに居る女性店員へと声をかけた。
「すみません」
「はい、何かお探しでしょうか?」
女性店員は丁寧な対応で正へ接して来る。正はスマホを取り出すとエメラルドのペンダントを表示。
「こういうアクセサリーの宝石を探しているんですが…」
「これは…うちでは扱っていませんね」
此処ではそれは扱ってはいない、この店ではなかった。最も一発目からそんな都合良く見つかるとは思っていない、ビンゴだったら相当な強運だ。
とりあえず一店舗目は外れ、正は女性店員へ礼を言ってから店を早々に後にした。
店の外へと出ると正は次の宝石店をスマホで確認、まだまだ始まったばかり。これで心折れるようでは探偵は務まらない。
とにかく今日は片っ端から宝石の事を調べ聞いていく。
結果はお粗末なものだった。
移動出来る範囲内、可能な限りの時間で正は都内の宝石店を巡ってエメラルドについて聞いて回ったりしたがいずれも手がかりは得られなかった。
あれは宝石店では扱っていないような安物なのか、だとしたら宝石店ではなくアクセサリーを扱う店にも目を向けて調査対象を広げなければならないが中々の手間となってくる。
そろそろ日が暮れてきて、通行人は仕事帰りの人々で目立ちつつあった。正もそろそろこの辺りで調査を一度終わらせて一日目はこれで終了しようと決め、事務所へと引き返す。とりあえず一日目ではあの宝石が何なのかは分からなかったが、もしかしたら白石の方で、警察が調べて何か発見しているかもしれない。その発見については大いに期待したい所だ。
瑛子は純一亡き今、一人であの家で今日は過ごさなければならない。その辛さは想像よりもとても大変かもしれない、その瑛子の為に純一を殺害した犯人を探し出す。正に出来る事はそれぐらいしかない。
その時スマホに電話が入った。相手は茜だ。
「もしもし?」
「正君、分かったよ。あのエメラルドのペンダント!」
「え?」
電話越しで聞こえる茜の明るい声、正の訪ねたペンダントの事が分かったようで今の正にとって有難い展開だ。
「今近くまで来てるからそっちまで行く!」
はやる気持ちを抑えながらも正は急ぎ足で喫茶店ヒーリングを目指して直進。幸い近くまで来ていたのでそこにたどり着くまでそう時間はかからなかった。
「あ、おかえりなさーい」
喫茶店ヒーリングのドアが開くと出迎えたのは涼、明。普段は上の事務所で留守番している二人が下の喫茶店に来ていた。
「二人も居たのか」
「今日は此処で夕飯を食べようと思って来たんだよ、茜さんの作るご飯美味しいから」
「あら、嬉しい♪」
明も食事を作れるのだが茜の料理の方が美味しいようで今日はその料理を夕飯にしようと思って降りてきたらしい。料理を褒められて茜は上機嫌だ。
「その料理は後でいただくとして、茜さん。さっき電話で言っていたペンダントの事が分かったというのは?」
「あ、そうそう!正確には分かったのは私じゃなく彼女の方なんだけどね」
茜はそう言いながら視線を涼へと向けていた、つまり涼の方が分かって一緒に答え合わせをして茜も確信を持って分かり正へと連絡をしたという訳か。
「涼が?一体何で…」
まさか涼の方があのペンダントに心当たりがあったとは想定外だった、その歳でもう宝石やアクセサリーに興味を持ったのか最近の子供は皆そうなんだろうかと正が思っていると…。
「だってそれ、同じだったから」
「同じ?」
「うん、あの……アキラが付けてるのと」
「アキラ……って確か人気男性アイドル歌手の?」
正はその名を聞いて純一や瑛子と食事に出かけた時の事を思い出す。その時に涼はアキラの名前を出している、イケボでイケメンの人気男性アイドル歌手らしく彼がペンダントを身に付けていると。
「ほら、この雑誌にもアキラ…ペンダント付けている」
涼は雑誌を正へと見せた、それはアキラが表紙を飾るメンズファッションの雑誌。そこに載っているアキラは確かに例のエメラルドのペンダントを身に付けている。
「これは……つまり正君が見せたあのペンダントって、アキラの?」
「いや、彼の物とは限らないと思う。アキラが身に付けていたからと言ってそれがアキラの物だとは言い切れない」
たったこれだけでは流石にアキラが事件に関係しているとは言い切れない。人気アイドル歌手が殺人事件に関わっている、そうなったら各局でトップニュースとして扱われる程の規模の大きなものとなってくるだろう。
その時再び正のスマホに電話が入る。今度は表示されたのは白石。妹である茜に続いて兄の方まで電話をかけてきた。
何かあったのかと思いつつ正は電話へと出た。
「神王君」
「ああ、白石さん。どうかしたのかな?」
「キミは、マジリアルの永倉新一郎という者を知っているかな?聞き込みをしていたら小柄な黒いスーツジャケットを着た少年のような人物と話していたというのがあったが」
白石の声は真剣そのものであり、正へと尋ねる。どうやら警察の方でもマジリアルへと聞き込みをしていたようで正と永倉が会話していた事が分かったらしい。
「永倉は俺の中学生の時の同級生だ、今回の純一さんの事件で相当驚いていて自分からマジリアルの聞き込みをすると言い出していた…その彼が一体どうした?」
正は自分と永倉の関係について包み隠さず白石へと伝えた。永倉は正ではやりにくいマジリアルの調査をしに向かっていたはずだ。その彼は何か掴んだのか、その知らせが無いまま先に白石から連絡が来た訳だが。
「その永倉が…姿を消した、自宅にも帰っていないそうなんだ」
「!?」
白石から伝えられた事に正は衝撃を受けた、調査に向かったはずの永倉が突然の失踪。これは全く予想していなかった、一体何故姿を消したのか。事件は更なる闇を見せようとし、正を悩ませる…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます