第13話 File3 神王正を知る者4
この作品はフィクションであり、実際の人物・団体・事件とは関係ありません。
正の中学時代の同級生である星見瑛子の依頼、夫である星見純一が最近何やらこそこそしていて怪しいという事らしく浮気を疑っていて彼の浮気調査を頼まれて純一の勤め先である出版社マジリアル前までやってきた正。
そこに瑛子と同じく中学時代の同級生永倉と再会、偶然にも彼は純一と同じマジリアルに務めているという。そこで正は永倉と昼食を共にしながら純一についての情報を聞き出した。
会社での彼の評判は良く、愛妻家として知られ浮気をするような人物ではないという事だった。
純一の尾行をした結果怪しい行動に関係などは特に見られず更に最近彼が挙動不審だったのは瑛子へのサプライズの為だったようで、瑛子が騒がせた詫びに正達をランチに誘うとその場所に純一本人も現れた…。
今まで遠くからその様子を見てきた調査対象だった男が今目の前に居る。
星見純一。
こうして見れば好青年で真面目な印象のある男だ、本当に彼は浮気をしていなかったのかと正はつい考えてしまう。悪い癖だ、一度終わった依頼のはずなのについ気になって思考に耽る。今はこの二人と皆でランチを楽しむべきだろう。
「此処で立ち話も何なので早速店へと行きますか、この近くに僕のオススメの店があるんですよ」
「うん、いいね!神王君もそれでいいかな?」
「ああ。任せます純一さん」
これからランチする店の事はまだ決まっておらず心当たりのある純一に此処は先導してもらう形で一行は移動し始める。
正の前を歩く純一と瑛子、腕を組むその姿は仲の良い夫婦だ。これがついこの間浮気調査を頼まれたのが嘘のように思える。
純一に案内でやってきたのはイタリアンレストランだった。それに相応しいお洒落な内装をしているがリーズナブルな値段で料理を楽しむ事が出来る気軽に入れる店だ。
「神王君はお酒飲むっけ?」
「俺は飲めないけど…飲みたいなら気にせず飲んでくれ」
「そう?じゃあ遠慮なく飲むねぇ」
未成年の明と涼は当然ジュースの方を選択し、正も飲める歳ではあるが酒は好まないので子供達と同じジュースを選択。純一と瑛子はワインを頼む。
それぞれ飲み物が来て皆で乾杯を交わし、食事も到着する。ピザにパスタにリゾットとイタリアを代表する料理が並べられる。その味は純一がオススメするだけあって美味い。育ち盛りの子供である明と涼はチキンピザを美味しく食べていた。
「瑛子から聞きました、神王さんは探偵をしているとか」
「ええ、まあ…」
「探偵というのはドラマぐらいでしか見た事が無いので実際の探偵を見るのは初めてですよ」
純一は正が探偵という職業についているせいか興味を持った目で正を見ている。探偵をしていてドラマぐらいでしか見た事が無い、そういった事はよく言われる。
「本当の探偵はドラマのような派手な活躍はしませんけどね」
「そうなんですか?皆を集めて推理を披露するとか」
「しませんしません、そんなのした事ありませんよ」
ドラマでよくあるような探偵のシーンなど正はやった事が無いし、する予定も無い。実際の探偵はもっと地道なものだ。そもそも自分には似合わない、正はそんなイメージを頭に浮かべるもすぐに振り払ってグレープジュースの入ったグラスを持ち、飲み干していく。
「推理を披露する時は皆を集める役目はするよー」
「…その時は多分来ないだろ」
助手的な役目は自分が引き受けると、リゾットを食べている涼が立候補してきた。おそらくその役割が回ってくる確率は低いだろうが。
「そういう活躍があった時は是非うちの方で記事にしたいものですね、その時は我がマジリアルをよろしくお願いします」
「ええ…考えておきます」
本気なのか、それともただのリップサービスなのかは分からないがマジリアルの記事に載るかもしれないというのは正は考えていなかった。ただの一市民、しがない探偵に関する記事など売れないだろうと内心で自身の記事は過小評価していた。
「芸能雑誌なんですよねマジリアルって、あのアキラに会った事とかあったり!?」
涼はその時目を輝かせて純一を見つめていた。アキラという人物、誰だと正の頭の上に?が浮かぶ。
「…誰だアキラって?」
「知らないのか、人気男性アイドル歌手のアキラだよ。イケボでイケメン、当然女性人気が高く涼もアキラのファンなんだ」
涼の代わりにピザを食べる明がアキラについて説明をする。容姿端麗で芸能界で成功を収めている男性アイドルであり、そのルックスから女性人気が高く涼も彼のファンらしい。
あまり興味が無かったのか正はそのアキラについては何も知らなかった。
「いや、それについては…まいったな。仕事の事はそんな簡単に話せないんだよ…ほら、探偵が依頼に関して言えないようにね?」
「あ、そっかぁ…守秘義務ってやつだね」
雑誌記者の編集長としてこういう場でも情報漏れの警戒は怠っていないようで、小さい子供の頼みには困ったような顔を見せつつもそれを言う事は断った。涼はそれに対して残念そうにしつつも納得して引き下がったのだった。
こういうただの和やかなランチタイムでも何処かでライバル社が聞いているかもしれない、おそらくそんな警戒があるのだろう。正とて依頼の事を他人に聞かれる可能性のある場所でベラベラ言う事は無い、言うにしても周りには分かりづらい方法は最低限やるつもりだ。
「まあ、今日ぐらいは仕事の事は忘れたいですよね。お互いに」
「全くその通りですね。普段が忙しくてこういう息抜きでも無ければ持ちませんよ」
探偵と雑誌記者、それぞれ異なりはすれど仕事はお互いに大変であり特に編集長という立場である純一の負担は特に大きいかもしれない。なので今日のようなワインを飲んでの息抜き、そんな日が無ければとっくに根を上げているだろうと純一は軽く笑って赤ワインを口にする。
真面目ではあるがお堅いという感じではない、純一は色々な人間から慕われるタイプだと正は純一と話し、その姿を見て浮気をするような男じゃない。探偵としての勘が正にそれを告げていた。
ただの勘と言われればそれまでだがこの勘は信じたいものだ。
楽しいランチタイムは終わり、正達は店の外へと出て来た。
「すみません、奢ってもらって…」
「ご馳走様です」
「ありがとうございますー♪」
正、明、涼の3人はそれぞれ純一へとお礼を言っていた、此処の昼食代は全額純一が払ってくれたのだからだ。
「この店に誘ったのはこちらですから。それに楽しいランチでしたしね、またご一緒したいものです」
「そうだね、今度はお寿司で!」
「おいおい…流石に銀座とかそういう所は勘弁してくれよ?」
瑛子は次のランチのメニューを決めようとしており、その姿に純一は苦笑する。
この二人の事はもう心配無いだろう。正は二人の姿を見て確信していた。瑛子と純一、そして正、明、涼の3人でまた食事を共にしたいものだ。
「それじゃあ僕らはこの辺りで」
「さようならー」
秋葉原の駅で純一、瑛子とは別れて3人は事務所への道を歩いて戻って行った。
充実した昼を過ごせたせいか皆足取りは軽い、これで依頼が舞い込んで来たら張り切って取り掛かれそうだ。
その次の依頼が正にとって辛い依頼となってしまう事になるとはこの時欠片も思っていなかった…。
2日後
何時も通りの朝が事務所に訪れる、涼が起きたばかりの覚醒しきってない頭で新聞を取りに行き、明は朝食のトーストと目玉焼きを並べており、正は朝のココアを飲んでいた。
何時もの日常、そこに電話が鳴り出した。事務所の電話だ、その電話を近くに居た正が取る。
「はい、神王探偵事務所…」
「神王君…!」
電話越しに聞こえて来たのは瑛子の声だった。
しかしこの前とは違う、何かあったのか思わせるような暗い声。明るい瑛子からは想像出来ないような声だ。
「…どうした、何かあったのか?」
正は瑛子へと訪ねた。すると……。
「純一が……………純一が死んだ…!」
それは頭が覚醒するに充分過ぎる程の衝撃だった…。
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