第9話 File2 友を求めて4

この作品はフィクションであり、実際の人物・団体・事件とは関係ありません。


山岸鉄太の依頼を受けて海堂泰之の調査を始めた正、最近の彼が容姿を変えて居酒屋速速に出入りしているという情報を掴み正は張り込み、そこで悪魔神と呼ばれる不良集団と共に居る海堂を発見。彼が一人になった所に正は彼と1対1で話す。そこで海堂の目的が判明する、彼は悪魔神が山岸の店に詐欺をかけて大金を得ようという目的を阻止しに自ら組織へと飛び込んで行った。それが此処最近彼が山岸から姿を消した理由だった、正はその海堂に協力する事にした…。











「海堂さん、まずその証拠は何処にあります?」

「今は駅のコインロッカーに預けている。万が一連中に気づかれても勝手に持ち出せないようにな」

海堂はこの2ヶ月の間に悪魔神の犯罪の証拠を集め続けて来た、その証拠が駅のコインロッカーに詰まっているという事だ。

「それを俺の知り合いの刑事に渡しましょう、彼ならきっと話を聞いてくれます」

その時正の頭に思い浮かんだのは秋葉原警察署の警部で白石大樹、あの正義感の強い男ならば門前払いという事は無いだろう。

「二人とも、先に寝ててくれ。俺はこれからまたちょっと出て来る」

「これから?もう夜だよー」

「大人には色々あるんだよ」

正は自分がまた出かける事を伝え、事務所にいる明と涼には先に眠るよう言っておく。涼が色々について追求したそうだったが明はそれを止めて涼と共に洗面所へと向かった。


子供二人を今からやる事には特に巻き込みたくはない、此処からは大人の時間だ。正は海堂を連れて事務所を出て鍵を閉め、外へと出た。




夜の秋葉原の街に正と海堂は出て来て歩いていた。すっかり夜も更けて暗闇となった道、人通りも少なくなっている。駅のコインロッカーと言っていたがどうやらそれは秋葉原駅にあるコインロッカーの事のようで、そこに悪魔神の犯罪の証拠を預けているという。


「此処だ、このロッカーに預けてある」

目的のロッカーの前まで正と海堂はたどり着いた。そのロッカーの鍵を海堂が開けてロッカーの中を見てみる、そこにあるのは茶色い書類入れでそこに書類が入っていた。

正が中身を見てみるとそれは悪魔神の詐欺を行ったという証拠が書かれている。


「これが……」

「ああ、こいつを世に出せば悪魔神はおしまいだ」

茶色の書類入れを海堂は大事そうに抱える、これがこの2ヶ月の間に山岸を救う為集めた証拠の数々だ。後は悪魔神の詐欺を明らかにすれば良い。



「そんな所にあったのかよ」

「!」

そこに正や海堂とは違う別の男の声が聞こえてきた、正と海堂が振り向くと二人組のガラの悪い男達がそれぞれ睨むような目で見据えている。

「お前がどうも何か嗅ぎ回っていておかしいと思ってたけどよ、ビンゴだったぜ。まさか俺らを裏切ろうとは…覚悟出来てんだろうなぁ!?」

「とっとと書類渡してくたばりやがれ!」

この連中に話し合いという選択肢は無い、真っ先に書類を奪い海堂を痛めつけようと一人の男が海堂へと殴りかかりに行く。速い右によるパンチが海堂の顔面へと飛ぶ。



しかしそれが海堂に当たる事は無かった、その前に正が立ち塞がってパンチの勢いを利用し、その腕を掴んで投げた。


ドサッ

「がはっ!?」

男は固いコンクリートの上に背中から落下、更に正はそれだけでは留まらずさらに男の右足を思いっきり力の限り踏みつけたのだ。


ガッ

「がああっ!」

背中の痛みと足の強い痛みに悶える男。足を負傷させれば自分達をそう簡単には追っては来れない。

「このガキが!」

続いてもう一人の男は今度は正へと殴りかかる。だがそれも結果は同じ、パンチを繰り出すその伸びを利用して投げ、地面へと転ばせた。



「お前…強いな!?」

「合気道を少しやってたもので」

「……少しか?あれ」

悪魔神の不良二人を撃退し、ジャケットの埃を軽く片手で払った正に海堂は驚くばかりだ。大の男二人を容易く倒してしまう小柄な少年。合気道を少しやっていたと言うが少し程度ではああならないだろう。

正からすれば今の不良は素人同然で喧嘩の場数をあまり踏んでいなかったようなので相手にならなかったが。

「けど、嗅ぎつけられたか…他の仲間にも手を回してるかもしれない。急ぎましょう!」

「お、おお!」

たったの二人だけで悪魔神が証拠を潰しに来た、などと甘い期待はしない。彼らにとって詐欺の証拠は何より消したいはず、それこそどんな手を使ってでも。他の仲間が駆けつける確率はかなり高いと見て良い。その前に証拠を届けようと正と海堂はその場を駆け出した。




駅を出て警察署への道を走る二人、そこに駆け込めばこっちのものではあるが悪魔神もそうはさせじと先回りしていたのか続けて不良達3人が正達の前に現れる。

「海堂!裏切り者はタダじゃおかねぇ、五体満足でいられると思うな!」

不良達が激昂してそれぞれ海堂へ襲いかかって来る、そのうちの一人に正は不良の腹めがけて膝蹴り。その流れでもう一人を突進してくる力を利用し、シャツの袖を引っ張り投げ、不良はうつ伏せでダウン。残っていたもう一人は海堂へと真っ直ぐ向かっていた。

「!海堂さん!」

正も流石に纏めて3人から海堂を守る事は出来ず一人逃す、今から駆けつけて海堂を守る事は二人を相手にしていて不可能だ。

「大人しくラーメン語ってりゃ良かったのによ!このラーメンオタク野郎がぁ!」

怒りに任せて男は海堂へと拳を繰り出した。


「舐めんなこの野郎!」


バキッ


「うがぁっ!」

「ぐ…!」

海堂と不良の拳、それぞれの顔へと食い込む。予想外の海堂の反撃のパンチを喰らって怯むが不良はすぐにまた海堂へと攻撃しようとしている。

「てめぇ!」


ゴッ


「あが!?」

しかしそれ以上の攻撃は許さなかった、その前に正が不良の股間を蹴り上げていたのだ。不良は地面に倒れて悶え転がる。


「海堂さん、大丈夫ですか!?」

「こんなパンチ一発で沈む程ヤワじゃねぇよ、何時までもお前に守ってばかりなのも格好悪いしな」

顔にパンチをもらってしまっていたが特に大丈夫な様子、不良3人はいずれも地面に倒れ伏している。正と海堂は早々にその場を走り後にした。





「調子に乗るのもそこまでにしときな」

しかしそこにすぐに二人を呼び止める男の声がした。正と海堂が立ち止まると一際目立つ大柄な男、筋肉質で180Cmぐらいはある黒いスーツを着た角刈りの男だ。他の不良とは雰囲気が違い、回りに何人もの不良が付き従うようにそこにいる。彼がリーダー格と見て間違い無さそうだろう。

「ガキにしちゃあ中々やるじゃねぇか、うちの兵隊に欲しいぐらいだ」

角刈りの男は遠くで倒れてる数人の不良を見た後に正の方を見た。

「…どうだ?そのまま海堂を渡して俺らの仲間になるって言うのなら、お前はボコるの止めてやってもいいぜ?」

不良を10人ぐらいは引き連れている、これならいくらなんでも勝てないだろうと角刈りの男は見ていた。なので圧倒的有利からの笑みを浮かべながら正に海堂を渡すなら見逃すと提案。






「…ハッ」

これに対して正は鼻で笑っていた。この態度に回りの不良は一瞬呆気にとられる。

「雑魚集団の仲間になっても何のメリットも無いだろ、そっちこそ全員これから先病院のベッドで一生を過ごしたくなかったらそこどけよ。五体満足で警察行きか、それとも重傷で治る見込み無い入院生活か…どうしたい?」

「ざ、雑魚集団だぁ!?悪魔神の俺らに対して舐めた口叩きやがって!」

正の挑発のような言葉に不良達はそれぞれ怒りが湧き上がっている。更にリーダー格も額に青筋を作っていた。



「お、おい!?わざわざ怒らせるような事を…」

海堂は正の挑発を聞いて焦った様子で小声で正へと話しかけた、これで怒らせてこの人数でこれから喧嘩はタダでは済まないはずだ。

「…奴らが来たら全力で逃げてください、流石にあなたを庇いきれそうに無いので」

喧嘩が始まった直後に正は海堂へ逃げるよう伝え、不良達と向き合った。この人数相手にやるつもりなのか。海堂は不良を見据える正を見ていて思った、彼はこの人数相手にも喧嘩で全員倒す気でいると…。



「少し腕が立つからって調子に乗ってんな…!良いだろ、ぶっ潰してその身体に教え込んでやろうじゃねぇか。侮辱した相手を間違えたってな!」

リーダー格の男は仲間へとかかるように指示。それぞれが一斉に正と海堂へと襲いかかる。



その時……。



「調子乗ってんのはお前らだろ」

「!?」

そこに新たな人影がずらりと現れる。不良達と同じ数程の軍団、それに悪魔神の不良達は思わず足が止まる。同じ不良であるがその同じ不良でも恐る存在、令和鬼神。それを束ねる坂井竜介が現れたのだ。

「な、何で令和鬼神が…坂井竜介が此処にいるんだぁ!?」

リーダー格の男はさっきまでの怒りとは一転して表情が驚きに染まりきっていた。

「まさか…兄貴、こいつ。このガキ令和鬼神の奴じゃあ!?」

「何!お前も!?」

本当は違うが、どうやら状況としては正も同じ令和鬼神だと思われているらしい。しかしいちいち訂正も面倒だ、それにこのまま勘違いさせておいた方が都合良いかもしれない。

「うちで好き勝手してるそうじゃねぇか、悪魔神よ。此処らでそのツケ払ってもらおうか?」

令和鬼神の不良達、坂井を先頭に悪魔神達へと距離を詰めて来る。その迫力にリーダー格の男や回りの悪魔神の不良達も一気に汗がどっと流れて来て後ずさりしていた。

「…に、逃げろーーーー!」

耐え切れず一人が逃げるとまた一人と散り散りに逃げていき、リーダー格の男まで恐れをなして逃げていった。結局令和鬼神の圧だけで悪魔神の不良達を追い払ったのだった。



「あいつらを一網打尽に出来るチャンスと聞いて来てみりゃお前があいつらとやりあっていたとはなぁ」

「来てくれたおかげで余計な戦いせずに済んで感謝する」

「おう、そう思うなら今度ホットドッグ奢りな」

この件については正も坂井と連絡していた令和鬼神にとってもこれは人ごとではなく、放置してはおけないので正に周囲に人は見張らせていたのだ。そのおかげで悪魔神の動きを察知する事が出来た。

「それで、こいつが噂の奴か」

「……」

海堂は黙ったまま坂井を見ている、元々は彼も悪魔神。今は違うが坂井は、令和鬼神は彼に対してどうするのか…。

「見た限りお前はもうあいつらと手ぇ切ってんだよな、だったら好きにすりゃいい」

坂井は、令和鬼神は海堂を追求するつもりは無かった。悪魔神と手を切ってるならもう彼はただの一般人だから、という考えなのだろう。

「それじゃ彼の言葉に甘えて好きにしましょう海堂さん、じゃあな竜介」

正達と坂井達令和鬼神は早々にこの場を後にしてそれぞれ去って行く。正と海堂は再び警察署へと目指して歩き出した。

令和鬼神に恐れをなして逃げた悪魔神、もう彼らの邪魔が入る事は無い。あの殺伐とした空気が先程まで感じられてたのが今は嘘のように消え去り何時も通りの静かな夜を迎えていた。


「……凄ぇ怖かったぁ~」

令和鬼神と別れ、正と共に歩く海堂は安心からか思わず本音が口から零れた。悪魔神の襲撃だけでも怖いというのに更にそこに令和鬼神との遭遇、もし悪魔神として見られてたらと思うとゾッとする。

「今日だけで色々ありましたからね…けどそれもすぐ終わります」

正がそう言うと目の前には警察署があった。入口には警察官が立っている、もう安心だ。二人の秋葉原の夜はこれで終わりとなる…。





正は早速警部である白石と会い、海堂の持つ悪魔神の詐欺の証拠を提出。それからは速かった。


以前から警察の方で悪魔神はマークしていたようだが証拠に欠けて決定的な尻尾はつかめていなかった、そこに海堂の持つ詐欺の証拠がダメ押しとなり警察は動き出した。

悪魔神のあのリーダー格の男に不良達は逮捕され、悪魔神は神田から姿を消して最近力を付けたと噂された不良集団は早々に消滅という形となったのだった。











「泰之!何でお前はそう言わなかったんだよ、水臭いにも程がある!」

「だからお前に迷惑かけず解決しようとやったんだって!」

正の事務所は朝から賑やかとなっていた、依頼人の山岸と海堂を会わせようと正はそれぞれに連絡。悪魔神がいなくなった今、もう海堂には何の縛りも無いので堂々と会う事が出来る。そして事件が解決したので山岸には事情を説明し、それを言わなかった海堂へと山岸は怒っているという今に至る訳だ。


「久々に会った友達なのに喧嘩してるよー?」

「多分、大人同士色々あるんだろ」

山岸と海堂のやり取りを離れた場所から明と涼は見ていた。それぞれがラーメンを食しており、このラーメンは海堂が作った物で流石拘りを持っているだけあって美味い。



「いや、もう黙っていなくなった事は悪かったわ…。あれが最善の手だと思ってそのまま行動しちまって」

「悪いと思うなら、うちの店手伝えよ?新しい仕事も家も探さなきゃならないんだろ」

「元不良でも雇ってくれんのか店長?」

海堂は山岸の店を手伝う事となり彼の元で働く事が決まった。元々はあの悪魔神の企みを聞いた日、彼は山岸と共にラーメンを作るつもりで、その答えを出そうとあの店を訪れていた。それが数ヶ月経った今ようやく形となったのだ。

無事に仕事を終わらせる事が出来た、正は山岸と海堂の表情を見てそう感じたのだった。



「海堂さん、せっかくだから俺もラーメン一つ良いですか?」

明と涼の食べる姿を見て正も食べたくなったのか海堂へとラーメンを頼む。

「ああ神王さんには俺が作りましょう、こいつより旨いラーメン作る自信ありますから」

「おいおいおい、注文受けたのはこっちだぞ?それに俺のラーメンより旨いとは聞き捨てならねーな」

「現役のラーメン屋としてそこは譲れないんだよ、なんならどっちのラーメンが旨いか勝負してみるか?久々に」

二人とも譲れないらしく、共にキッチンへと向かって行く。おそらくこの後に正は山岸、海堂と二人分のラーメンを食べる事になるのだろう。そこまで食べるつもりは無かったのだが、と正は内心で二人に火を付ける切欠となった自分の発言に少し後悔してきていた。



一方が友を探し求め、一方が友を守る。その友は今二人揃って同じ場所に立つ、それはこれから先も続く事だろう。





探偵神王正の物語 File2 友を求めて 終

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