『死神補佐』 下 最終回


 死神補佐は、それから、死神図書館にあった、『クラシック世界音楽全集』というCDを100枚聴き、解説書を熟読した。


 その姿を見ながら、死神は、わかき日の自分に重ねながら思った。


 『まあ、しっかり勉強することだ。死神は全てに通じなければならぬ。でなければ、しばしば人間の逆襲に逢う。ふふふ、まだ、甘いな。』



 死神補佐は、満を持して、その夜、まーやしんの病室に現れた。


 『ベートーヴェンだろうが、シベリウスだろうが、マーラーだろうが、バッハだろうが、ハイドンだろうが、モーツアルトだろうが、はたまた、ブルックナーだろうが、ブルッフだろうが、レーガーだろうが、バーンスタインだろうが、ブリテンだろうが、なんでもこい。もはや、負けることなど、ない。』


 まーやしんは、相変わらず、小さなプレーヤーを聴いていたが、ある、同じ歌が、ひたすら繰り返されていた。



 『ただいちめんに


     たちこめた


      まきばのあさの


        きりのうみ………』




 『おわたあ。こ、これはなんだ、うわ。しびれる………』


 

 死神補佐は、まったく、動きがとれなくなった。


 それは、むかし、まだ人間だった、いやさ、子供だった時代に、あの、あこがれの、まりこ先生が、足踏みオルガンを弾きながら歌ってくれた歌だったのだ。


 『こ、これは、なんという。ああ、涙が止まらない。死神補佐の目に涙。ま、ま、ま、ま、まあけ………』


  死神補佐は、泣きながら、消えていった。



 間もなく、病室に朝日が差し込んできた。


 看護師さんがやって来て、まーやしんの熱を測り、点滴を確かめながら言った。


 『やっと、熱は下がりましたね。一安心です。』


 まーやしんは、あかるく、広い広い、『牧場の朝』の夢を見ていた。



        🌄

             🐄 🐄  

 

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『死神補佐』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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