錆れた勇者

LLLer

錆れた勇者

「なあ、俺のやっていることに意味はあるのか?」


そんな小さな疑問が生まれた1人の勇者。


「世界を救うとか、そんな大層なこと掲げてやっているが、それが終わった後どうなる?英雄にでもなるのか?」


昔の話だ。とうに昔の、過ぎた話。しかし、今でも頭によぎる。


「物語の英雄みたいになれたとして、その後は?」


最後に、悪の根源である魔王を倒し問う。


「...それはお前が考えろ。ただ...そうだな...俺を殺しても変わらないことは多い...人は死に、いつかは土に還る。領土のため争い、愚かな戦争は止まないだろう。」


魔王は答えた。


「そうか。俺は、俺の答えを見つけよう。俺の信じた人々の想いを見届けよう。」


どこかで聞いたことのある主人公の台詞。勇者はそう答えた。




時を経て数十年。

元勇者はくたびれた容姿で酒を片手に1人で考えていた。


最初は褒め讃えられていた。世界を救っただの、英雄だの、人々は口を揃えて言った。悪い気はしなかった。自分が幼い頃に夢見ていた光景だった。


しかし、その後は魔王の言うことが現実だった。魔物から解放された領土を奪い合い、血に濡れたものだった。


...俺の望んでいた結末ではなかった。信じたいと思った人々の姿は偶像であった。世界を救った結果、同族での争いは止まない。不平不満は募り、誰も彼もが武器を手に戦場へ行き、血を流す。


結果、得た物は戦争により荒廃した土地と数々の墓であった。魔王討伐とか、領土奪還とか、人類繁栄とか、そんなことを掲げていた時のほうが街は栄えていた。人々の生活も潤っていた。


国は既に滅びた。人々の欲は深かった。欲しい欲しいを繰り返し、全てを失った。

今、片手に持っている酒も久しく飲んだ。濁っていて熱く、喉が拒絶する。

しかし、俺は酔っていないと英雄になれない。昔の頃の自分に戻れない。思い出すことすらできない。たまにこうして寂れた酒場で1人、酒を飲んでいる。

昔憧れた英雄譚、その先にあるのは地獄だった。この地獄から逃げるため、昔の英雄に戻るために酒に溺れる。

何年も握られていない剣は錆びていた。

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錆れた勇者 LLLer @tititikukuku

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