第13話 聞き込み捜査

「ハドソンさん、ジュリアとヘレンを見たという人から話を聞きたいんですけど、会わせてもらえませんか?」


シャロンがハドソン夫人にそう言うと、意外なところから手が挙がった。


「あ、それ私」


「なんだ、グロリアだったの?」


わたしはつい、拍子抜けした声を上げてしまった。結構近いところに証人がいたなんて意外だ。これで少しだけ手間が省ける。


「なんだとは何よ。昨日の夜と今朝、食堂室に二人がいるのを目撃したのは私よ。たまたま、視線の方向に二人がいたから、自然に目に入ったの」


「その時は二人一緒じゃなかったんでしょう?」


「そうよ。普段も一緒だったり、バラバラだったりするから特に気にも留めなかったけど。双子だからって常に一緒に行動してるとは限らないよ。確か、部活や交友関係も違うはずだし」


わたしたちは、夕食の時間が終わって人気のない食堂室へと移動し、どの辺りに双子が座っていたかグロリアに説明してもらった。食堂室は、受取カウンターを隔てて厨房と食べるところが分かれており、カウンターに平行に長テーブルが並んでいるという作りだ。ヘレンもジュリアも、カウンターから一番遠い長テーブルを選んだと言う。


「わたしがいたのがこの辺でしょ。ジュリアは一番端っこのテーブルで、こちらに背を向ける形で座ってたわ。髪を後ろに一つにまとめてシックスナポレオンズの黒いTシャツを着ていた。ヘレンの方はジュリアがいなくなってからやって来て、ジュリアがいたところから二つか三つ隣の席に座ってた。やはり、背中しか見えてなかったな。髪は下ろしてフード付きのカーキ色のパーカー姿だったわ」


「念のため、他の子にも聞いてみたけど、グロリアの証言と一致してたわ。服装や髪型は、私が会った時も同じだったから間違いないと思う」


「私の記憶とも一致しているわ。もっとも、私はジュリアしか見なかったけど。ジュリアが季節外れの半袖Tシャツを着ているからおやと思って、描かれたロゴをネットで検索してみたの。そしたら、シックスナポレオンズがヒットして、今日ライブ配信があることを知ったというわけ」


「なーんだ、そうだったの!? だからトリッシュのTシャツを見てぴたりと当てたんだ? なぜ特に興味ない音楽グループのライブ配信のことまで知ってるんだろうって、さっきはびっくりしちゃった!」


わたしは、驚くと同時にどこかホッとする気持ちもあった。シャロンが神様みたいに何でもお見通しというわけじゃないと安心したからだ。しかし、身の回りのあらゆることに疑問を持ち、何でも調べようとするバイタリティーはなかなか真似できるものではない。


「ジュリアが夕食の時間ここに来たのは、私の少し後だったから7時5分過ぎかしら。その後私は出て行ったから見てないけど、ジュリアが食べ終わったのはいつごろ?」


「時間はそれほどかからなかったわ。5分くらいで終わっちゃった。量もそんなに食べなかったかな。2,3分してからヘレンがやって来たけど、やっぱり5分ちょっとくらいしかいなくて、大分残してた」


「二人とも小食ね。ダイエットでもしてるのかな。それにしても、グロリアよくそこまで観察しているね。すごい!」


「というか……私もダイエット始めたので、みんなどれくらい食べているかついついチェックしてしまうのよ……」


グロリアは、ちょっと恥ずかしそうに言った。やはり、ここでもシャロンの推理が当たっていたのだ。


「その後、二人は部屋に戻り、消灯時間近くになってそれぞれハドソンさんにスマホを返却しに行った。それからその日は、二人を見た者はいない。これでいいわね」


シャロンは、一つ一つ確認するように言いながら、時間の流れに沿って話をまとめた。


「次、今日の話に移りましょう。今朝、最初に二人を見たのはハドソンさんですね?」


「ええ、ジュリアは昨日と同じ、その後来たヘレンは白いブラウス姿だったわ。時間は……休日なので普通はいつもより遅めなんだけど、今日はやけに早かったわね。それでも7時くらいかしら?」


「その後、グロリアが食堂室にいる二人を見たというわけね」


「ええ、ジュリアが先でヘレンが後。服装はハドソンさんが言った通り。昨日と同じでそんなに食べずに出て行ったわね。まあ、朝は食欲ない子が多いし」


それを聞いて、シャロンはしばらく考え込んだ。何を考えているのだろう? その様子が余りに真剣だったので、誰もシャロンの思考に割って入る者はいなかった。


「グロリア、ありがとう。大体のことが見えてきたわ。最後に二人を目撃したのは誰? その子にも話を聞きたいんだけど」


「最後はヘレンしか目撃されてないのよ。それでもいい?」


わたしたちは食堂室を出て、ヘレンを見たという子に話を聞きに行った。


「朝の10時すぎだったかしら……白いブラウス姿のヘレンがちょっと大きめの鞄を持って、ベイカー館を出るのを見たのよ。どうしてヘレンと分かったかですって? 前にヘレンが同じ服装をしているのを見たことあるもの。様子? 注意して見ていたわけじゃないから記憶があやふやだけど、いつもと変わりなかったよ、ただ少し早歩きだったかも。ジュリアは見なかったわね、ヘレンだけだった」


「ありがとう。大分参考になったわ」


シャロンはその子に丁寧にお礼を言うと、面会室で話の続きをしようと提案した。面会室に入り、グロリアとハドソン夫人の前で、彼女はおもむろに口を開いた。


「ハドソンさんもグロリアも協力してくれてありがとうございます。何が起きたか大体の流れはつかめました。これからそれを説明したいと思います。まず、ハドソンさんとグロリアが会ったのは、ジュリアではなくヘレンです。昨日からジュリアはベイカー館にはいません。全てヘレンの自作自です」


何ですって!? わたしたちは、みなびっくりして固まってしまった。シャロンはいきなり何を言うの!?

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