第14話 シャロンの説明

ジュリアは昨日からいません。全てヘレンの自作自演です。


わたしたちは、シャロンの発言にびっくりして、しばらくあっけに取られていた。何を言ってるの? 余りにも荒唐無稽すぎて全然意味が分からない。しばらくして、グロリアが戸惑いながら口を開いた。


「だって、私もハドソンさんも、ヘレンとジュリアの両方を見たのよ? 二人とも普段の様子と特徴が一致してたし……まさか、ヘレンがジュリアに変装してたって言うの? いくら双子で見分けが付きにくいからって、そんなバカな! どうしてそんなことをしなきゃいけないのよ!」


「理由については後で話すわ。とりあえず、今は、ヘレンはそうする必要があったとだけ言っておく。推理小説だと、双子トリックはよく見るけど、いくら一卵性とは言え、毎日会っていれば、普通は何となく見分けは付くものよね。そもそも別人なんだから。でも敢えて片方に寄せる工夫をしていたら? そんなことをするなんてみんな想像もできないでしょう? 油断しているところに、元々顔かたちがそっくりな人物が変装したら、周りの人は思ったより簡単に騙されてくれる。それを利用したのね」


双子ほど似ている人が最初からだますつもりだったら、確かに余程注意しなければ分からないかもしれない。わたしたちは、よく見ているつもりでも実際にはそれほどではないことが多い。それは、シャロンと一緒にいると本当によく分かる。


「色々疑問が尽きないと思うけど、まずは、私が立てた仮説を説明するわね。私が、どちらかが片方に化けていると思ったのは、二人一緒にいるところを見た人が誰もいなかったから。つまり、昨日の朝の時点では、ハドソンさんは双子が一緒にいるところを見ていたから、ヘレンとジュリア二人ともここにいたと証明できる。でも、一人「ずつ」見たのなら、一人二役やっている可能性が捨てきれないというわけ。夕食の時間グロリアが見たのと、消灯前スマホを返しに来たのは両方ともヘレン。ヘレンは一人二役をやったというわけ。最初に髪を後ろに束ね、ジュリアが好きなシックスナポレオンズのTシャツを着て食堂室に行った。それから一旦部屋に戻り、髪をほどき自分の服に着替えてからまた食堂室に行った。念には念を入れて、背中を向ける形で座って、顔をよく見られないようにした。グロリアが言ってた、食事量が少なかったのはそのせいでしょうね。一人で二人分食べるのは大変だから、一回分の量を減らしたんでしょう」


「シックスナポレオンズのTシャツを着たのは、自分がジュリアだと印象付けるため?」


「その通りよ、ジェーン。ジュリアがシックスナポレオンズのファンなのは、周りの友人ならみんな知ってた。一番ジュリアらしさをアピールできる服装と考えたら自然にそうなったのよ。まだ半袖の季節には少し早いのにね。次の日も同じTシャツを着たのもそのせいでしょう」


「ねえ、残っていたのがヘレンだとなぜ言い切れるの? もしかしたらジュリアの方だったかもしれないじゃない?」


ハドソン夫人がもっともなことを尋ねた。確かに、わたしもそれは気になっていた。


「それは、最後に目撃されたのがヘレンだったからというのが一番大きな理由です。あの時点では、もうどちらかに成りすますつもりはなかったの。だってここを出て行くつもりだったんだから。だからジュリアがヘレンに成りすます意味もない。大きな荷物を持っていたという証言があったでしょう? カバンの中にお泊り用品を入れて、今日はここに戻って来ない覚悟だったのよ」


シャロンは一旦言葉を切り、軽く咳払いをしてからまた話し始めた。


「それに、ジュリアだったら、自分がいるとアピールするためにわざわざバンドのTシャツを着るかしら? あのTシャツを選ぶことが、私には過剰なアピールのように思えるの。だって昨日はコンサートの日じゃないのよ? 本来ならTシャツを着る理由がないもの」


分かったような、分からないような。そんなわたしの心情を察したのか、シャロンは、更に説明を続けた。


「それと、もし残っていたのがジュリアなら、この後起きることの説明がつかないの。二人の部屋を見た時、ジュリアの方だけ散らかっていたでしょう。力任せに本や服が引きずり出されて、机の上もめちゃくちゃになっていた。あれはヘレンがやったことなのよ。おそらく、怒りに任せて、腹いせに散らかしてやったというところかしらね」


「なぜ!? なぜヘレンはそんなことをやったの?」


「ジュリアが帰ってこなかったからよ。二人は、交代で寮を抜け出してある場所へ行くことになっていた。最初はジュリアが、そしてジュリアが帰ってきたら入れ替わりでヘレンが行く予定だった。でも、いつまで経ってもジュリアが帰ってこない。約束を破られたことに怒ったヘレンは、腹いせにジュリアの持ち物を散らかして八つ当たりした。そして、ジュリアが戻っても戻らなくてもどうでもよくなって、自分も荷物をまとめて出て行ってしまった。そんなところかしら?」


わたしたちは、一言も言葉を挟めず黙ってしまった。確かにシャロンの推理はありうるが、何せ証拠がない。どうしたら裏付けができるのであろう。そう思っていると、ハドソン夫人がまた質問をした。


「じゃあ、ヘレンとジュリアはシックスナポレオンズのコンサートに行ったってことでいいのね?」


「いいえ、違います。それならTシャツを残したのがおかしいし、そもそもヘレンは別にファンじゃありません。もっと別のところに理由があったんです。ここからそう遠くない場所で、日帰りで行けて、二人にとってはとても大切なことだけど、大っぴらに許可を取るのが難しそうな理由が……」


シャロンがここまで言った時、面会室のドアがノックされた。ハドソン夫人がドアを開けると、別の職員さんがヘレンとジュリアの両親が着いたと報告しに来た。


「さてと、ここからは両親の話を聞いてから説明するわ。大体察しは付いているけど、どこまで推理が当たっているか、答え合わせと行きましょうか」

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