第71話

 そういいながら、ダインの顔に浮かぶのは私への心配だった。


「……確かに俺は知っている。お前は強い。だが、それでも女性への傷は大きなハンデになりかねない」


 そういいながら、ダインの手は無意識に隻眼にふれていた。

 自身も怪我をした身だからこそ、ダインはこうして親身に心配してくれているのだろう。


「特にお前は、怪我をしていい身分ではないだろう?」


 その言葉に私は理解する。

 ダインは私を貴族、もしくはそれに近い人間だと判断していることを。

 そして実際、以前の私であれば傷がつくことなど、絶対に許されなかっただろう。


 そう思って私は笑った。


「そうね。そうだったわ」


 そういいながら、私の頭によぎるのはかつての過去だった。

 私がまだマイリアル家にいた頃の記憶。

 その時には、私は傷つくことも許されなかった。

 それは愛情なんかではない。


 私はただ両親の道具で、その商品価値を下げることも許されなかったというだけ。


「……セルリア?」


 ただ笑う私に、ダインが心配そうな目を向けてくる。

 それをまっすぐと見返しながら、私は告げた。


「ありがとね、ダイン。でも、よけいなお世話よ」


「……っ」


 失礼だとわかっている。

 それでもあえてそういう言い方を選んだ私に、ダインが目をみはる。

 しかし、目を一切そらさず私は続ける。


「私はもう、傷を恐れないでいいの。──そんな自分が、私は結構気に入っているの」


 そう、もう私は両親のものではないのだ。

 その場所から、マシュタルが私を連れ出してくれた。

 だから、私は胸を張って告げる。


「気遣いありがとう。でも、心配無用よ。私はすべてを覚悟してここにいるのだから」


 そんな私に、ダインは少しして笑い出した。


「……は、はは。俺としたことが、とんでもねえ勘違いをしていたらしいな。セルリア、お前は貴族令嬢なんて玉じゃねえ」


「そう?」


 そう聞き返す私に、ダインは笑いを必死に押さえながら告げる。


「ああ。お前は立派な女王様だよ」


「あら、わかってるじゃない」


 その言葉に、私がにやりと笑って告げると、ダインは耐えきれなくなったように声を上げて笑い始める。

 それに満足げに頷いてから、私はさらに続けた。


「そもそも、傷が悪いものじゃないことくらい貴方も知ってるでしょうに」


「……ん?」


 何事かとこちらを見てくるダインの隻眼を指しながら、私は告げる。


「貴方の目と同じ、てことよ」


 言葉を失ったダインを気にせず、私は続ける。


「ラズベリアに関わって、職人の為に行動して負った傷は誇りよ。誰がハンデなんかにしてやるものですか」


 そういって、私はにっこりと笑う。


 ……がたん、と何かが落ちる音がしたのはそのときだった。

 私が顔を向けるとその音の方向にいたのは、治療用具を落としたアランだった。

 アランは私の顔を見ながら、呆然と呟く。


「レナ……?」



 ◇◇◇


 更新長らく遅れてしまい申し訳ありません……!

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邪魔者だというなら私は自由にさせて頂きますね 陰茸 @read-book-563

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