第67話 (ダイン視点)
「……っ」
俺は自分の悩み事を思いだしのはそのときだった。
すぐに自分の心配ごとはなにも解決していないことに俺は気づく。
しかし、あれだけ悩んででなかった答えがこの短時間で出るはずもなかった。
「あ、いた!」
その間に、セルリアの声が響く。
咄嗟に何かを口にしようとするものの、言葉がでることはなかった。
その間に、セルリアはアランの方へと移動していく。
「その格好……」
アランもまた、セルリアの格好に一瞬驚きを露わにする。
しかし、すぐにアランも顔から感情を消す。
まるで何か覚悟を決めたように。
俺が嫌な予感を覚えたのはそのときだった。
このままでは、アランは昨日の言葉通りすべての罪を自分に着せようとするだろう。
それは絶対に許してはならない。
それなのに、俺はどうすればいいのかわからない。
──セルリアがアランへと頭を下げたのはそのときだった。
「昨日はありがとう」
「……は?」
覚悟を決めていたアランの顔に呆然とした表情が浮かんだのはそのときだった。
いや、アランだけじゃなかった。
俺を含めたそのやりとりを見ていた人間全員に唖然とした表情が浮かんでいる。
「……なにを言っている? 昨日の僕の発言は、明らかにこじつけじゃないか」
呆然と震える声でそう尋ねるアラン。
その発言はすでにぼろが出てきているものだったが、誰も指摘できなかった。
……そんな余裕を持っている人間はいなかった。
「君は恩人だ。その頼みを僕は、誇りという人には踏み込み辛いものを盾に拒否した。最低の行いだ。なのに、どうして君は……」
「やっぱり、私の心配してくれてたんだ」
「っ!」
そういってセルリアが笑ったのはそのときだった。
それに、今度こそアランは言葉を失う。
そんな彼に対し、笑いながらセルリアは続ける。
「アラン、貴方そういう演技向いてないわよ。いいながらつらそうななの、隠せてなかったんだから」
「ぼ、僕は……」
「心配してくれたんでしょ? 私のこと。そんな表情してたもの」
そういいながら、セルリアの顔には少し安堵したような表情が浮かんでいたのに俺は気づく。
……そう、セルリアも確証を持っていた訳ではないのだ。
それでも、それをセルリアが出すことはなかった。
周囲を安心させるような笑みを浮かべながら、続ける。
「理由はわからないし、聞いて良いものなのかも知らないわ。それでも、私のためになれない悪役してくれたんでしょう? だから、ありがとね」
覚悟を決めていたにも関わらず……いや、覚悟を決めていたからこそ、その言葉を聞いたアランの顔がゆがむ。
「貴方は信頼できる人間で、何より尊敬に値する人だわ」
その言葉に、アランは手で顔を覆った。
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