第66話 (ダイン視点)

 そう告げるアランの顔に浮かんでいたのは強い罪悪感だった。

 それに俺は嫌な予感を覚える。


「だから、もしセルリアが僕に怒りを覚えていた場合は、僕を切り捨ててほしい」


「っ!」


 ……そしてそれは正解だった。


「なにを言っている!」


 咄嗟に俺はアランをにらみつける。

 しかし、俺のその顔を見てもアランの表情が変わることはなかった。

 それどころか変わらない表情で告げる。


「恩人であるセルリアに対して僕がしたのは、それだけのことだ」


「……っ」


 そのアランの言葉にあったのは、セルリアに対する感謝だった。

 それを理解できたが故に、俺はなにも言えなくなる。

 ……本気でアランはセルリアの為なら、この場所を出て行くことになってもいいと思っていることを理解できて。


「何より、セルリアという人間はラズベリアを発展させるために必要だ。わかるだろう、ダイン?」


 その言葉に、俺はなにも答えられなかった。

 そして、それこそが何よりの答えだった。

 俺も理解せずにはいられなかった。

 どれだけセルリアが価値のあることをしてくれたか。

 また、今後もセルリアはラズベリア発展に必要不可欠な人間である事を。


「僕には、レナの側で働くという選択しもある。切り捨てるなら僕なんだよ」


 そのアランの言葉に俺は違うと叫びたかった。

 だが、できなかった。

 ……それを許さないだけの覚悟が、アランの目には宿っていた。


 なにも言えない俺に、アランは笑いながら告げる。


「だから、頼むよ。ダイン」


 ……その言葉に、俺はなにも言葉を返すことができなかった。



 ◇◆◇



 翌日、俺は寝不足の状態で作業場の前に立っていた。

 今の俺はより人相が悪くなっている状態だろう。

 しかし、そんなことも俺にとってはどうでもよかった。

 ただ、昨日から頭にあるのは一つの考え。


 ……今日セルリアが来たら、俺はどうするのが正解かという考えだった。


 できればセルリアにこないでほしいとも思う。

 しかし、セルリアが律儀な人間であることも俺は知っている。

 故にこないこと何てあり得なくて。


「おはよう」


 ……いつもよりは元気のない声で、それでもはっきりとした声が響いたのはそのときだった。


 どう対応すればいいのかもわからないまま、俺はゆっくりと声の方に顔を向ける。

 そして、それに気づいたのはそのときだった。


「っ! セルリアその格好は……!」


「どう、似合う?」


 ──セルリアは身につけていたのは、俺達職人の作業着とよく似た服装だった。


 正直、俺は今日セルリアがやってくるなら、もっと不機嫌であると思いこんでいた。

 何せ、昨日のアランの態度はどんな理由があっても理不尽でしかないのだから。

 そして、セルリアが気づかない訳がないのだ。


 どんな意図があったにせよ、アランはセルリアを傷つける言葉を意図的に使っていたと。


 だからこそ、本当にアランが言っていた通りの格好で来るなど俺は想像もしていなかった。

 故に呆然とする俺に対し、ふと何かを思い出したようにセルリアは口を開く。


「そういえば、アランはどこ?」

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