第45話 (ネパール視点)
「……っ!」
その声を聞いた瞬間、私は反射的に動いていた。
侍女と、マイリアル伯爵家の前に飛び出す。
「これは麗しいレディ。突然の声をかけて申し訳ないが、私は公爵閣下に招かれたネパールと言うものだ」
「え、え……?」
呆然と私とマイリアル公爵家の間で目を泳がす侍女。
その意識をマイリアル公爵家当主に向けてなるものかと、私は必死に続ける。
「申し訳ないが、招待されて来たもののどこに公爵閣下がいるか検討も着かなくてね、できれば案内してくれないか?」
「……はい」
そう私が必死の笑顔で告げると、侍女の顔が朱に染まる。
その反応はかつての私であれば、悦に入った光景だった。
しかし、今の私の心には喜びもなにも存在しなかった。
あるのはただ危機感。
……マイリアル伯爵家当主に問題を起こさせる訳にはいかない、という。
私は心のそこから、安易に伯爵家当主の同席を許可した公爵家当主は後悔すればいいと思っている。
しかし実際問題、そんな問題行動を起こす訳には行かなかった。
何せ、それで公爵閣下の怒りを買ってしまえば私に待っているのは破滅なのだから。
「ふん」
けれど、当の本人であるマイリアル伯爵家当主にその意識は一切なかった。
ただ、私と顔を赤くした侍女をおもしろくなさそうに見ている。
……それは爆発寸前の爆弾を想起させて、私は唇をかみしめる。
どうして、自分だけこんな状況ばかりにおそわれるのだと。
だからといって、今はもう逃げられる状況ではなかった。
そう理解しているが故に、私は自分の覚悟を決める。
「で、ではこちらへ」
そう言って、侍女が背中を見せて歩き出す。
それを確認してから、私はマイリアル伯爵家当主の方へと身体を寄せる。
なんとしても、侍女の耳に言葉が入らないように。
「……お義父様、よろしいですか?」
「なんだ?」
「少し、守って欲しいことがあります」
あからさまに機嫌の悪そうなマイリアル伯爵家当主にいやな予感を感じた私は、だからこそ強い口調で告げる。
「絶対に公爵家の使用人を軽んじる発言はやめてください」
そう、それこそ私の一番の懸念する問題だった。
使用人は一般的に、その貴族の一員とされる。
とはいえ、その使用人を大切にする貴族はそこまで多くない。
その例外こそが、この公爵閣下だった。
偏屈と言われながら、公爵閣下は身内だけには甘い。
そこれこそ、使用人を軽んじた騎士からその身分を剥奪したほどに。
そして、そこれこそがマイリアル伯爵家当主が軽率な行動を許せない一番の理由だった。
だからこそ、私はこの場でマイリアル伯爵当主に釘を指すつもりだった。
「……貴様、誰にものを言っている?」
「え?」
「使用人風情に気を使え? どの立場から貴様は私に口を利いているつもりだ!」
──その判断が逆効果だと私が気づいたのは、最悪の事態になった瞬間だった。
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