第44話 (ネパール視点)
「……ここが公爵家の屋敷」
その屋敷の中に入った時に私、ネパールは呆然とたたずむことになった。
その屋敷のあまりにも大きな屋敷であるが故に。
とんでもない商人としての能力と、高位貴族たる公爵家の権力。
その二つを持つその人がとんでもない存在であることは私も理解していた。
それでも実際に目の当たりにして思う。
話に聞く公爵家当主は想像以上にとんでもない存在だったと。
……そう公爵閣下におののきながらも、私はふと思う。
こんな存在と貿易を約束させたセルリアとは、一体どんな手を使ったのか。
この公爵閣下に認められたセルリアという存在は、実は想像以上にとんでもない存在だったのではないかと。
しかしすぐにその考えを私は自分の脳裏から消す。
今大切なのは、そんな公爵閣下という存在が、私の味方になってくれるということなのだから。
しかし、その私の笑みはこの場に響いたある声によって、かき消されることになった。
「おっ、もう来ていたか!」
そう言いながら、こちらの向かってくるのはマイリアル伯爵家当主だった。
その後ろには、夫人とエミリーの姿もある。
……それをみた瞬間、私の心には一気に不安があふれ出てくることになった。
この人間達をできればここに連れて来たくなかったと。
実のところ、私は何度かマイリアル伯爵家と公爵家の両者を説得しようとしていた。
どうか、話合うのは私だけにしないかと。
けれど、その話をマイリアル伯爵家当主が受け入れることはなかった。
──公爵閣下はマイリアル伯爵家のお抱えであるアズリック商会の力を望まれているのだぞ! どうして、私が行かないという選択肢があり得る!
私につかみかからないばかりの勢いでそう叫んだマイリアル伯爵家当主。
その時の様子を、私は今でもはっきりと覚えている。
いつもは私に仕事を押しつけている癖をして、その時ばかりはそう騒ぐ姿。
その姿にどれだけの怒りを覚えたか。
マイリアル伯爵家当主は、今自分がどんな状況にあるのかまるで理解していないだろう。
自分の軽率な行いで、公爵閣下の怒りを買えばとんでもない事態になることもまるで想像していない。
そんなマイリアル伯爵家当主をつれていくことなど、私は絶対に避けたかった。
実際、公爵家側さえ断ってくれれば私は強引にマイリアル伯爵家当主を黙らせる事ができただろう。
……しかしなぜか、公爵家は私とマイリアル伯爵家の両人が来ることを望み、どちらかがこないと言うことを許しはしなかった。
「どんな状況になるのかも理解せずに……」
そのことを思いだし、私は思わずそう吐き捨てる。
私がどれだけこのマイリアル伯爵家当主をコントロールしてきたか、公爵家の人間には一切理解できていないのだ。
「どうなっても知らんぞ……」
物珍しげにあちこちへと目を向けるマイリアル伯爵家の人間を見ながら、私の口からそんな言葉が漏れる。
そして、その私の考えは杞憂にならなかった。
そのことを私は直ぐに理解することになった。
「おい、そこの使用人!」
……マイリアル伯爵家当主が横暴な様子で、すぐ側にいた侍女に口を開いたのを目にしたことによって。
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