第31話
私の言葉に、しばらくの間ラルバは無言だった。
しかし、すこししてようやく口を開く。
「……言っている意味は分かっているのだな」
「ええ」
「は、はは。これだけは認めてやるよ。……お前は頭がおかしい」
そう言いながら、ラルバは私へと目をやる。
そこには怒りも、偏見もなく。
ただ、人を見極めようとする上に立つものの目をしていた。
「いいぜ、俺がお前を試してやる」
「ラルバ!」
「悪いが親父、今は俺とこいつの二人の間のやりとりだ」
「……っ」
その言葉に、ガルバが私の方を見て押し黙る。
私にどうすればいいかと問いかけるように。
それに私はゆっくりと頷く。
そしてにっこりと笑って口を開いた。
「ええ、良いわよ。どんな条件なのか教えて」
「何でもいいんだな?」
「もちろん」
その瞬間、ラルバが笑みを浮かべる。
言質はとった、そう言いたげな笑みを。
「後で文句は言うなよ。お前には、職人を見つけて貰う!」
そう言ってラルバが話し始めたのは、このスペランカにおいて主要産業にあたるガラス細工についてだった。
そのガラス細工は古くからスペランカの産業として有名な、ラズベリアと呼ばれるガラス細工だった。
ガルバの商会はそのラズベリアを海の向こうの国に流す貿易をしていた。
「だが最近、そのラズベリアの熟練の職人が死んだ。それも他の大国にも評価されていたうちの目玉といって言い職人がだ」
「……その名前は?」
「巨匠アダーカ」
「っ!」
その名前に、私もマシュタルも息をのむ。
それはスペランカから離れたところに住む私達でさえ、聞いた名前だった。
「……急にアダーカ作の作品が値上がりしたとも思ったら、そういうことだったのね」
そう告げると、一瞬ラルバの顔に驚きが浮かぶ。
しかし、すぐにその表情を元の笑みに戻し、口を開いた。
「これでこのガルバ商会がどれだけ危機的な状況か理解できただろう? お前には、その代わりとなる職人を見つけて貰う!」
「ラルバ、お前は何を言っている……!」
耐えきれない、と言った様子でガルバが口を開いたのはその瞬間だった。
「スペランカを来てまだ時間もない人間に何を言っている……! それにラズベリアだと? それは女性に頼むことでは……」
「分かったわ。私が見つけて来てあげる」
ラルバが隠しきれない笑みを浮かべたのはその時だった。
一瞬、ガルバの方へと目が向き、次の瞬間私へと口を開く。
「いいだろう。自分ではいた唾を飲み込めると思うなよ」
「ええ。分かっているわ」
「どうだか? もし見つけられないことがあれば、お前のことは一生無能令嬢とでも呼ばせて貰うからな」
「ラルバ……!」
それだけいうと、ガルバの怒声も気にせずラルバは背を向ける。
「精々楽しみにさせて貰うよ」
その言葉を最後に、扉が閉まった。
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