第32話
「うちの息子が申し訳ない……!」
そう言ってガルバが頭を下げたのは、ラルバが居なくなってすぐのことだった。
それに私はにっこりと笑って告げる。
「いえ、気になさらないで下さい。私は気にしていませんから」
「そういう訳にはいかない……! こんなことになるならつれてこなかったのに」
そう言いながら、ガルバは表情を暗いものにする。
「あくまで、最近天狗になっているあいつに思い知らせようとしただけだったのだ。セルリア嬢を見れば、あいつも考えをあらためるだろうと……」
そう言いながらうなだれるガルバの顔に浮かぶのは思い詰めたような表情だった。
その表情は、何かラルバとガルバの間に複雑な事情があることを滲ませているように感じる。
それを見ながら、私は思う。
やはり、あの時感じたある感覚は気のせいではないだろうと。
「少しお聞きしてよろしいですか?」
「ん? あ、ああ……」
「ご子息はどうして、女性に対して敵意を持っていますよね?」
「……っ」
ガルバの顔色が変わったのはその時だった。
それが何より私の感覚が正しいことを物語っていた。
やはりあの敵意は私がセルリアだったからではない。
女性だったからこそのものなのだと。
「やはり、セルリア嬢には隠せなかったか……」
その顔に複雑な感情を浮かべながら、ガルバは口を開く。
「ああ。ラルバは女性に敵意を持っている。厳密には、働く女性への敵意を持っている」
「働く女性への?」
「そうだ。……ただ、それもあいつのせいじゃない。悪いのは私の方なのだ」
そう言いながら、ガルバの顔に浮かぶのは苦渋の表情だった。
「いや、だからといってラルバのとった言動は到底許されるものではない。本当に申し訳なかった。どうか、ラルバと交わした条件はなかったことにして欲しい」
謝罪の言葉と共に頭を下げたガルバを見ながら、私はここは謝罪を受け得入れないと話が進まないと判断する。
「謝罪は受け入れます」
「ありがとう。ラルバには私自ら話を……」
「──でも、条件はそのままでお願いします」
「なっ!」
私の言葉を想像もしていなかったらしいガルバが目をむく。
けれど、すぐに言葉を重ねる。
「何を言っているのだ! ラズベリアの職人を探すなど、どれだけ大変なことだと……。もしかしてラルバの生意気な口調に気が済まぬの?」
真っ直ぐに私を見つめながら、ガルバは真摯に告げる。
「それなら必ずラルバには謝罪させる」
「いえ、それは関係ありません」
「は?」
呆然と私を見つめるガルバ。
その姿を見ながら、私は思う。
この人はずっと私に真摯に対応してくれた。
だったら、私も真摯に対応するというのが筋だろう。
「──私がご子息の条件をら受けいれたのは、それが自身を養って下さる商会長のためになると判断したからですから」
「私に?」
「はい。あの流れでご子息が私に条件を取り付けるとしたら、それは難易度が高いのは容易に想像できました。そして、それはすなわち商会長にとっても面倒ごとである可能性が高い」
未だ口を開いたままこちらを見つめるガルバににっこりとほほえみながら私は告げる。
「だから、私の事なんか気にせず任せて下さい。絶対に何らかの結果は出してみせますから」
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