第25話(ネパール視点)

 終わらない商会の仕事。

 それだけで、私の処理能力を超える事態だ。


 ……しかし、問題はそれだけではなかった。


「この、役立たずが……!」


 ある手紙を読んでる途中、私は耐えきれずそう叫んでいた。

 その手に握られているのは、マイリアル伯爵家から届いた手紙。


「このままだとセルリアの不在を隠せない、どうにかしてくれだと?」


 そう言いながら私は自分の手の中にある手紙を握りつぶす。


「こんな楽な仕事もこなせないのか……!」


 一度は喧嘩別れのような形となったマイリアル伯爵家。

 けれど、そのまま私とマイリアル伯爵家が離別することはなかった。

 何せ、お互いにセルリアを見つけなければならないという目標は一致しており。


 ……何より、協力者がお互いだけという状況だった故に。


 私もマイリアル伯爵家もおかれた状況は決して良くなかった。

 なぜなら、セルリアの不在を他の貴族、商会に隠し通さねばならないのだから。

 それはお抱えの商会であるアズリック商会も含めてだ。


 何せ、セルリアの不在が発覚すれば、多くの貴族や商人が貿易を停止することは容易に想像できていたのだから。


 皮肉にもセルリアがいなくなってから、私はどれだけセルリアの存在が大きかったのかを理解することになっていた。

 病気で代わりに仕事をしていると告げるだけで、交易相手の貴族の商会も途端に心配そうな表情で容態を聞いてくる。

 挙げ句の果てには、交易相手ではないはずの高位貴族からセルリアの容態を聞かれることもあった。


 その事実に、私の心にどす黒い嫉妬が渦巻く。


「くそ、どうしてあの女ばかり……」


 けれど、それもすぐに恐怖に塗りつぶされることになった。

 セルリアの人気に嫉妬すると同時に、私は思わずにはいられないことがあった。


 ──もし、ここでセルリアの婚約破棄を、そして逃亡を知られればどんなことになるか、と。


「くそ、あの無能伯爵家が……!」


 もう一度そう吐き捨てた私の顔には、隠しきれない恐怖が滲んでいた。

 その心に浮かぶのは、どうしようもない後悔。

 ……あの時、一度の誘惑にまけてエミリーに手を出すべきではなかったという。


「全部全部、悪いのはあの伯爵家なのに……!」


 そう言いながら、私は理解していた。

 どれだけそう言いながらも、自分が対処しなければ待っているのは破滅しかないことを。

 自分が何とかしなければ、あの伯爵家はなんの役にも立たないのだと。


 ……ふと、セルリアはこんな状況でやっていたのかと思いが浮かんだのはその時だった。


 しかし、その思いをすぐに目の前につまれた書類の前に消える。


「この書類をこなしながら、私はセルリアを探して、その不在を隠す案を考えないといけないのか?」


 目の前が真っ暗になりそうなその事実に、私は呆然と立ち尽くす。

 こんこん、とノックの音が響いたのはその時だった。


「ネパール様、取引相手の貴族、商会からのお手紙です」

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