第24話 (ネパール視点)

 セルリアが消えて数日。

 それからの私、ネパールの生活は非常に慌ただしいものになっていた。


 セルリア不在の今、様々な問題が起きてくる。

 それを必死に処理しながら探しているのに、セルリアの行方は一切見つからない。

 最初の内はそれでもまだ対処できた。

 戻ってきたら、どうセルリアに報いを受けさせてやろうかと考える余裕さえあった。

 しかし、今なら分かる。


 ……その考えは砂糖菓子よりも甘かった、と。


「見つからないじゃない! いいから、セルリアを見つけろ!」


 それは私の書斎でのこと。

 私は目の前の使用人に向かって叫ぶ。


「今がどんな状況であるのか分かっていないのか? セルリアがいなければ、対処できない状況だろうが!」


「し、しかし、どこにも痕跡がなくて……」


「うるさい! いいから見つろ!」


 ……実際のところ、どれだけ自分が無茶を言っているのか理解している。

 何せ、自分自ら探してセルリアの痕跡が一切ないことを私は理解しているのだから。

 だが、それを理解した上で私は叫ぶ。


「早く、後一日で見つけてこい! いいな! そうでないと……」


「ネパール様、新しい仕事です」


「……っ」


 目の前の部下に怒鳴っていた勢いが消えたのはその瞬間だった。

 呆然と私は声の方に振り返る。

 そこにあったのは、山積みの書類を抱える部下の姿だった。


 ……もう、助けてくれ。


 そんな言葉が私の喉元から出かける。

 そう、私が必死にセルリアを探している理由こそ、この山積みの書類だった。


「こちら、商会から送られてきた新しい資料になります。後、前回の資料をできる限り早く送り返して欲しいそうです」


 書類を手にした部下の言葉が、なぜかやけに遠くに聞こえる。

 商会の仕事が自分にくることに関して、私も覚悟はしていたはずだった。

 むしろ、少しわくわくしていたところもあるといって良い。

 これで私が問題なく、仕事を行えばセルリアよりも優れている証明になると。

 貴族社会全体が、セルリアではなく私をみるはずだと。


 それがどれほど甘い考えだったか、今は理解していた。


「……ネパール様?」


「あ、ああ、大丈夫だ。それはそこにおいておいてくれ」


 なんとかそう告げると、使用人は怪訝そうな表情をしながらも書類をおいて去っていく。

 それから私は改めて、セルリアを探させている使用人に向き直る。


「いいか、一日だ! 一日でセルリアを探してこい!」


「そ、そんなの不可能です!」


「うるさい!」


 自分でも無理だと理解しながら、私はセルリアを探せと叫ぶ。


「絶対にだ! 早くいけ!」


 ……それ以外、私にはこの状況を打開する方法が分からなかった故に。

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