第21話

 勢いよく馬車が進む。

 その中、座り込んでいる私、セルリアの心にあるのはぬぐい去れない不安と罪悪感だった。


「……何てお礼を言えば」


「セルリア様?」


 目の前の声に私が顔を上げると、そこいたのはメガネをかけた女性の姿だった。

 仕事ができそうなその女性、マリアナは心配そうに口を開く。


「突然のことでしたものね……。お疲れになるのも仕方ないことです。カイア、もう少し丁寧に走らせて欲しいわ!」


「だ、大丈夫よ!」


 そう告げたマリアナに、私はとっさに前にいるだろう御者、カインへと告げる。

 ……この上、迷惑をかける訳にはいかないと。


「少しでも調子が悪ければ言って下さいね」


「そうでさぁ。俺らもゆっくり休暇を満喫する口実になりますからね!」


 マリアナ、カイアはそれぞれ私への気遣いの言葉をくれる。

 しかし、その言葉は私の居心地の悪さを際だたせるだけだった。


 マリアナも、カイアも確かに商会の中では私と親しい人間だった。

 けれど、それだけでこんな旅につきあわせるには貴重な人材であることを私は知っていた。


 副会長であるマリアナと、流通についての権限を握るカイア。

 その二人は、こんなところで私の側にいていい人間ではなく、その事実が私の胸をさらに締め付ける。


 ……私はさらにどれだけの人間に迷惑をかけるのだろうと。


 アズリック、公爵閣下。

 今回、私がしっかりしていなかったせいで、二人には大きな迷惑をかけている。

 それだけで私は許されることはないのに、さらに多くの人間に迷惑をかけ続けている。

 それが何より心苦しく、私は無言でうつむく。


「セルリア様、大丈夫ですか?」


 ……そして、そんな私の様子を見逃さない人間がいた。


 声に反応し、顔を顔を向けるとそこにいたのは私を心配そうな目で見つめるマシュタルがそこにいた。


「やっぱり無理をなされていて……」


 そのマシュタルの声に、マリアナも反応する。

 またカイナに声をかけさせる訳には行かないと、私はとっさに口を開く。


「ち、違うの」


「なら、一体どうされたのです? 私達に何か問題があれば遠慮なく……」


 その言葉に、これ以上誤魔化すのが無理だと判断した私は口を開く。


「本当に違うの。……ただ、私は色んな人に迷惑をかけているな、て」


「……え?」


 その私の言葉に、マリアナの顔に驚愕の表情が浮かぶ。

 まるで、想像もしない事を聞いたと言いたげな。


「そんなことあるわけないじゃないですか」

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