第7話

 筆が進んだので、今日は3話更新とさせて頂きます!


 ◇◇◇


 それは明らかな逆ギレだった。

 悪いのは全てネパールで、私が怒鳴られる筋合いなどありはしない。


 ……けれど、そう思うのにもう私の心に怒りが浮かぶことはなかった。


 いや、何の感情さえ私の心に浮かぶことはなかった。

 私は呆然とネパールの顔を見つめる。

 今までみたこともない、怒りに染まったネパールの表情を。


 ずっと私は、ネパールは違うのだと思っていた。

 彼だけは、私の理解者でいてくれるはずだと。

 けれど、ようやく私は理解する。


 ──ネパールも、あの人達と何ら代わりはしないのだ。


「君は本当に、エミリーの言っていた通りの人間だったよ」


 その言葉に私の頬に、一筋の涙がこぼれる。

 だが、それでもネパールは止まることはなかった。


「あれもだめ、これもだめ。僕がやりたいと思っていたことを君はどれだけ否定してきた?」


 呆然とする私の頭の中、かつてネパールが私の要求してきたことを思い出す。

 商会を私に変わって運営したい。

 王都の若い男女の集まる夜会に顔を出したい。


 確かにその全てを私は否定してきた。

 だが、それも当然の話だった。

 ネパールには商会を運営できるだけの知識なんてなく、ましてそんな夜会に顔を出すには私の名前は広まっていた。

 故にその話を許可する訳にはいかず、その理由についてもきちんと説明していたはずだった。

 しかし、その記憶がなくなったかのようにネパールは私をにらみ叫ぶ。


「何で僕だけが一方的に責められないといけない! 君も同罪だろう!」


 ……もう何を言えばいいのか、いや自分が何を感じているのかすら私には分からなかった。


 脳裏に、かつてのネパールとの日々が浮かぶ。

 エミリーが両親を味方につけ、騒ぎ立てる度私をかばってくれたのはネパールだった。

 あの日々は、あの時の言葉は一体何だったのか。


 もう、頭の中はぐちゃぐちゃだった。

 全てがどうでもよいとさえ思う。

 それでも、私には確認しておかなければならないことがあった。


「……私を婚約解消して、交易はどうするの?」


 そう、私が婚約破棄はあり得ないと考えた理由は気持ちだけが理由ではなかった。

 ネパールの婚約者という立場、それは交易にも大きく関わっているのだ。

 そのおかげで携わっている交易は少なくない。


 そして、公爵家との交易もその一つだった。

 私を婚約破棄すると言うなら、一体どういう風に話を付けるつもりなのか。


「何を言っているんだい? それをどうにかするのは君の仕事だろう? 君の商会だと散々言ってきたのだから、君がどうにかしてくれよ」


「……え?」


 その私の疑問の答えは、信じられない言葉だった。

 ……ここまでして置いて、この男はまだ私をこき使おうとするのか。

 呆然とする私に、ネパールはさらに告げる。


「当たり前だろう? その価値しか君はないんだから」

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