第4話
「お嬢様、大丈夫ですよ。……きちんとネパール様もお嬢様のことを大切に思ってますよ」
そう私にマシュタルが言ってくれたのは、王宮に向かう途中の馬車の中だった。
その言葉にうなずき、私は何とか笑顔で御者をするマシュタルへと告げる。
「……ありがとう」
「いえ、元気だしてください! そんな勝手な話がうまく行くわけないですよ!」
そう話しているうちに少しだけ元気を取り戻すことができて、私は小さく笑う。
私とネパールはこれまできちんと絆を作ってきたはずだった。
何せ、私とネパールは共同経営者として過ごしてきたのだ。
今回の商談をまとめられたのも、ブルガリア伯爵家の次期当主、ネパールの婚約者だったからという理由は非常に大きい。
そんな中、ネパールが私との婚約を解消するとは考えにくかった。
そんなことをすれば、どれだけの商談に影響がでるか考えたくもない。
エミリー達ならともかく、ネパールがそのことに気づかない訳がないのだ。
「……ありがとう、マーシェル。おかげで、私も元気が出てきたわ」
「いえ、気にしないで下さい。……お嬢様は本当に魅力的な人です、自信を持って下さい!」
「え?」
それは滅多にマーシェルが告げないたぐいの言葉で、私は反射的にマーシェルの方をみる。
しかし、なぜかすぐにいたたまれない気分になって私は目をそらすことになった。
なぜかは分からない。
けれど、そう告げたマーシェルが痛々しそうに見えてしまって、直視できなかった。
「僕はずっと隣でお嬢様をみてきましたから! だから、大丈夫ですよ!」
しかし、それはほんの一瞬のことだった。
次の瞬間、そう言って少しの間こちらを向いたマーシェルの表情はいつも通りだった。
戸惑いながらも、私は何とか口を開く。
「あ、ありがとう」
「いえ! お嬢様、屋敷が見えてきましたよ!」
「……っ」
その言葉通り、見えてきた屋敷に私は反射的に身体を強ばらせていた。
それでも私は、一度大きく息を吐いて自分に言い聞かせる。
「そうよ、ネパールが私を裏切ることなどあり得ないわ!」
屋敷の前、馬車が止まったのはちょうどその時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます