第3話

 邪魔者、それはずっと昔から少しでも意に添わない行動をすると父が言ってきた言葉だった。

 妹を邪魔する冷徹な姉、そんな言葉を私は言われてきて。


 ……それは私にとって、もはやトラウマと言っても良い言葉だった。


 故に私は、その瞬間言葉を失う。

 また、私が悪役なのかと。


「違います! 私は伯爵家のために言ってるんです! このままでは多くの交易に支障がでます!」


 それでも、私は何とか自分を立て直し、毅然と父に目を向ける。

 婚約者を欲しいという今回の願いだけに関しては、決して私は譲る訳には行かなかった。


「はあ、そんなものどうにでもなるだろう」


「そんな訳ありません! このまま強引に交渉を断絶すりう訳には行きません。一体どこと交易を……」


「まだ逆らうのか!」


「当たり前です!」


 そう言って怒声を上げる父に、私もまた声を張り上げる。

 ここを譲れば、せっかく得た今回の交渉結果さえ無に返す。

 だから私は、自分を必死に奮い立たせる。


「はあ、本当に貴女はどうしようもない子ね。ネパールの思いさえ踏みにじるのね」


「なにを?」


「──これはネパール様も同意の上のことよ」


「は?」


 ……しかし、そう私が自身を奮い立たせていられたのは、母のその言葉を聞くまでだった。


 私の頭に、婚約者であるネパールの姿が浮かぶ。

 優柔不断なところはあるが、それでも優しく私をサポートしてくれていた婚約者がネパールで。


 だから、母の言葉が私には信じられなかった。

 私はその場に背を向け、歩き出す。


「どこに行く気だ、セルリア?」


「……本人に直接確認します! それまで信じられません!」


 そう、本人に聞けばそんなことないと言ってくれるはずだ。

 その思いを胸に、私は父を睨む。

 そんなことをすれば、父は激怒するとわかりながら、今だけは私は感情を抑えられなかった。


「そうか。行ってくると良い」


 にもかかわらず、今回の父が感情を露わにすることはなかった。

 それどころか、私に笑いかけてくる。


 その笑顔に何の反応も返さず、私は歩き出す。

 胸の中で、私は必死に自分に言い聞かせる。

 そんなことあり得る訳がないと。


 ……しかし、私の中から不安が消えることはなかった。

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