第2話
「……なにを言ってるの?」
次の瞬間、私は震える声でそう問いかけながら、扉を開け放っていた。
私の姿に、全てを聞いていたことを悟った両親の顔色が変わる。
「お姉さま、ちょうどお話しようと思っていたのです!」
……しかし、エミリーだけは違った。
その大きな瞳に涙を浮かべながら、エミリーは口を開く。
「私とネパール様は恋に落ちてしまったんです! だからどうか、身を引いてください!」
「は?」
その言葉に、私はただ唖然と立ち尽くすことしかできなかった。
ブルダリア伯爵令息ネパール。
身を引くもなにも、私と彼はは両家の正式な許可の下りた婚約者だ。
それを横からかすめとろうとしておきながら、目の前の妹はなにを言ってる?
……しかし、そんな真っ当な感覚を持っていたのは私だけだった。
「ここまでエミリーに言わせたんだ。おとなしく、身を引いてやれ」
「ええ、貴女ならまた縁談位勝手にできるでしょう? 勝手に色んなことをしている位だもの。だから、これくらいは譲って上げなさい」
「お、お父様? お母様?」
信じられない言葉に、私は呆然と顔を上げる。
こんな言葉、冗談としても信じられないようなもので。
「なあ、いいでしょう?」
「ああ、大丈夫さ。お前の姉は優しいからな」
「ええ、安心しなさい。そうよね、セルリア?」
──けれど、私の意志を余所にそんなことを言い出す三人の表情は真剣そのものだった。
一瞬私は卒倒してしまいそうになる。
しかし、なんとか口を食いしばり私は三人をにらみつけ叫ぶ。
「そんなこと許されるわけないでしょう……!」
それは当たり前の話だった。
私とネパールの婚約はもう大々的に周囲に知らされている。
そんな状態でやめられる訳がなかった。
特に、今回の商談に関しては私とネパールの婚約が大きく関わっているのだから。
……にもかかわらず、私の言葉を聞いた三人の顔に浮かんだのは、信じられないとでも言いたげな表情だった。
「こんなに妹が頼みこんでいるのにか!」
「そういう問題ではないのです!」
怒りを露わにする父に対し、私も必死に声を張り上げる。
だが、そう私が自分を鼓舞してられたのは次の言葉を聞くまでだった。
「お前はまた妹の邪魔をするのか!」
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