邪魔者だというなら私は自由にさせて頂きますね
陰茸
第1話
「お嬢様! とうとうやりましたね!」
「ありがとう……! 貴方のおかげよ、マシュタル!」
そう私、セルリアが歓喜の声を漏らしたのは屋敷に戻る道中の馬車でのことだった。
私の顔に浮かぶのは、隠しきれない歓喜。
今日は私にとって以前から行っていた交渉がようやく実を結んだ記念すべき日だった。
故に喜びを隠せない私に、馬車の隣に乗った小柄な金髪の執事、マシャタルが笑顔で告げる。
「これなら、旦那様も奥様も喜ばれますよ! ……もちろん、婚約者のネパール様も!」
「……うん!」
その言葉に、私の口元に笑みが広がる。
私の両親は、いつも妹だけをかわいがる人間だった。
しかし、このことを知れば両親も。
そう考えた私の口元に笑みが浮かぶ。
馬車が止まったのは、そんな時だった。
興奮を隠せない私に、苦笑しながらマシュタルが口を開く。
「お嬢様、着きましたよ。後は私に任せて旦那様の場所に行ってください!」
「ありがと!」
その言葉に甘えて、私は馬車から降りて走り出す。
今日は元々両親から合う時間を作るように言われた日だった。
少し遅れてしまったので、両親は待ちわびているはずだ。
そう考えてはしたないと思いながらも、私は早足で集合場所の父の書斎を目指す。
これなら、このことを教えることができたら。
そんな希望を抱えて私は父の書斎へと近づいき。
「……あの子、遅いわね」
「本当に。妹のエミリーはもういるのに」
「そんな。お姉さまはお忙しいし、仕方ないのよ」
「エミリーは優しいね。本当に、セルリアはこんな良い妹を待たせて」
そんな父と母の声が聞こえてきたのはその時だった。
遅れるかもしれない、その事は前もって言っていた。
それにも関わらずの言葉に、私の胸が少し痛む。
気づけば私の中から先程までの胸の高鳴りはなくなり、思わず足を止めていた。
その会話はこのマイリアル伯爵家のいつもの会話だった。
私と三つ年の離れた妹、エミリー。
彼女が生まれてから、両親は妹だけをかわいがり、私を邪魔者扱いする用になっていた。
……それは、私がどれだけがんばって様々な交易を発展させてきても変わることはなくて。
それでも、この知らせを教えたらほめてくれるはずだ。
そう私は自分にいい聞かせて、足を動かそうとして。
「……でも本当に、お姉さまは私にネパール様をくれるかしら?」
──信じられない妹、エミリーの言葉が聞こえてきたのはその時だった。
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